23.6 最初の日射病6
シャカァ・シャカァ・シャカァ・シャカァ・シャカァ……
トレイを持ち、プロテインをハードシェイクする音に向かって歩き出す。
「あっ……」
席に向かう途中、少し離れた場所で女子数名と食事(丼物)をしている、青浜さんを見つけた。
思わず立ち止まると、目が合ってしまった。
プイッ……
青浜さんは興味無しといった感じで視線をそらした。
カツカツカツ
そのまま、丼に顔を埋めるように、ご飯をかっ込む。
「どうしたの?」
クイクイ
立ち止まっていると、芹園さんが片手で僕のシャツを引っ張って、聞いてくる。
「えっ!? ……あ、いや……雨が降ってきたんだなぁ、と思ってさ」
青浜さんを見ていた、とは言えず、視線を窓に向けて、そう誤魔化す。
外は早くも、本降りになっていた。
「そうだね。……早く行こ?」
芹園さんが上目遣いではなく、真っ直ぐに見つめて催促する。
「あ、うん」
(どうせなら、青浜さんと一緒に、ご飯を食べたいなぁ……)
僕は後ろ髪を引かれる想いで、歩き出した……
シャカァ・シャカァ・シャカァ・シャカァ・シャカァ……
「感謝で御座る」
今日は空気椅子ではなく、着席してボトルを振る椎名君の隣に、一宮君が素早く座った。
必然的に、僕と芹園さんが並んで座ることになる。
昨日と同じ展開なので、諦めて、四人で食事を始めた。
一宮君は、今日もカレーライスだ。
椎名君は一気にプロテイン入りの豆乳を飲み干すと、自作のおにぎり(玄米に鮭)を取り出して、黙々と食べ始めた。
皆、しばし食事に集中する。
「――同志ジェラート由比里よ。今日は傘は持ってきたか?」
最初に食事が終了した椎名君が聞いてくる。
「……うん。折り畳みが鞄に入っているよ。椎名君は?」
焼きうどんを食べつつ、答える。
「それが持って来るのを、サッパリと忘れたのだ。で、同志ジェラートは、置き傘とかはないのか? あったら貸して欲しいのだが」
「盗まれるから、置き傘はしてないんだ」
てか、同志ジェラートってゆーな。
「拙者も[さかき傘](折り畳み傘の名前)のみで、御座候ふ」
カレー臭い一宮君が、先回りで答える。
「ううむ……では、帰りにコンビニまでダッシュをするかな……」
「男同士、相合傘で帰れば? 二人の家って、同じ方向でしょ?」
学食焼きうどんの、得体のしれない具を摘みながら、提案する。
すると、提案を聞いた二人は、顔を見合わせた。
「………………………………プイ」
「………………………………ぷい」
二人が顔を赤らめて、そっぽを向く。
なんだそりゃ? 突っこむの、めんどくさい。
「……ねえねえ? どうして由比里君をジェラートって呼ぶの?」
芹園さんが箸を止めて、誰とはなく聞く。
中肉中背と低身長は、まだ顔を赤らめ、ソッポを向いていて、質問を聞いてない。
なんなの? 君たち。
「……えっとね……」
仕方なく自分で、不本意な呼ばれ方の説明を考える。
当然、「魔法少女のおっぱいにジェラートをかけたからさっ! テヘ☆」とは言えない。
「……僕はナポリタンの次に、ジェラートが好物だった。からかな?」
超適当に答える。
別にジェラート、嫌いじゃないし。
ちなみに、本当の二番目の好物は、から揚げ、焼き肉、天ぷら、牛丼、ステーキ、とんかつ、パスタ全般、マカロニグラタン、ピッツァ、ラザニア、ハンバーグ、ハンバーガー、それから……
「へえぇぇ、そうなんだぁ。わたしもジェラート好きだよぉ」
超適当な理由を聞いた芹園さんが、テンプレな女子の反応を見せた。
「ねえねえ、七高通りに美味しいジェラートのお店があるの知って……」
ギギィィ・ガタンッ!
その時、騒がしい学食内に一際大きく、椅子を引く音が耳に入った。
音のした方を見ると、青浜さんが一人で立ち上がっている姿が、目に入った。
青浜さんは、まだ座ってる友達に軽く手を振って、トレイを持ち、歩き出す。
とたんに、芹園さんの話が耳に入らなくなる。
ジッ
愛しい人の姿を、目で追ってしまう。
青浜さんはパパッと食器を返却すると、さっさと廊下に出る。
ガタタ……
僕は思わず、追いかけようと立ち上がる。
「どこへ行くつもりだ? 同志よ。まだ食べ終わってないし、この後、保健室に行く約束だろう?」
男同士の甘い空気から正気に戻ってきた椎名君が、冷静に指摘してくる。
「えっ? ……あ……うん」
(そう……だよね。保健室に行くのは任務だもん、キャンセルは出来ないよ……)
それに、強引に後を追いかけても、昨日の二の舞になるだけだ。
泣く泣く、座り直す。
「保健室? ……由比里君、どこか具合でも悪いの?」
芹園さんが心配そうに、か細い首を傾げた。
「ジェラート殿は無理なダイエットのせいで、貧血気味だとか」
こちらも正気に戻った一宮君が、口を開く。
「昨日、神城岬教諭に検診してもらったところ、しばらくは一日一度、保健室に顔を出すよう、仰せつかったので御座るよ」
一宮君が、実に見事なフォローを入れた。
でも、ジェラート殿ってゆーな。
「なーに、べつだん具合は悪くない。もし何かあっても、芹園嬢の彼氏には、我々が常についているから、心配無用だっ。モスト・マスキュラー!!」
ニカッ!
続いて、椎名君が前傾姿勢のポージングで、芹園さんに超胡散臭い笑顔を向けた。
正気に戻ったと思ったが、やはり中肉中背は、正気じゃなかった。
「やだぁ、もぅ、えぇと……中名君たらぁ~。彼氏だなんてぇ~」
とたんに芹園さんが顔を赤らめて、甘ったるい声を出す。
「恥ずかしいぃ~。……まだ早いよぅ……ね?」
そう呟きながら、僕に肩を寄せてくる。
にや……
ニヤ……
その姿を見て、二人の友人は[してやったり]と、いやらしく微笑んだ……
って、いやいや、微笑んでないで[中名君]に突っ込みなよ?
てか、芹園さん、本気で椎名君の名前を覚えてないの?
おっかない人だなぁ……
第23章「横恋慕は真剣に」終了
第24章は「DT命令発動!!」(3話)になります




