23.5 最初の日射病5
「ふぅっ……フゥッ……ふぅっ……フゥッ……ふぅっ……」
「もー。重りをつけてのマラソンは、無理だって言ったのに……言わんこっちゃ無い」
中肉中背に文句を言う。
端的に説明すると、体育の授業中に椎名君が倒れた。
理由は簡単、20キロの重りをつけたまま、マラソンを走ったからだ。
そして今、一宮君と一緒に椎名君に肩を貸して、保健室に向かって廊下を歩いているのだ。
何? このフォーメーション。
「ぐっ! 椎名殿、とりあえず重りを外して下さらんか? 重くてしかたが無いで御座るよ」
左手首を怪我している一宮君は、右肩を貸しながら頼む。
「ふぅっ……フゥッ……それは断るっ」
中肉中背は、友人の頼みをアッサリ拒絶する。
実に困った友人であり、酷く迷惑な急患だ。
「ねえ、椎名君の汗が張りついて嫌なんだけどっ。なんで体操着じゃなくて、タンクトップを着て、体育を受けてたの?」
肩を貸してる、ぶかぶかタンクトップ男に文句を言う。
タンクトップは素肌が出る部分が多く、肩を貸す僕の体操着に、椎名君の汗が染みて、とても嫌なのだ。
「ふぅっ……フゥッ……タンクトップは、マッチョのアイデンティティだっ」
「いや、椎名君はただの中肉中背だよ?」
現実をしっかりと指摘する。
あと、タンクトップがアイデンティティだなんて、本物のマッチョの方々が聴いたら、きっと怒るよ?
(それにしても、先生たちはなぜ、椎名君の奇行を完全スルーするのだろう?)
体育教師の磯村先生も、中肉中背のぶかぶかタンクトップに、一切触れなかった。
変な教師が多い学校だ。
「あとさ、水分補給もプロテイン無しでちゃんと取りなよね?」
僕は友人の体と頭を心配して忠告する。
「ふぅっ……フゥッ……それではっ、筋肉が育つチャンスを失うっ」
「いや、椎名君はまず、脳を育てた方がいいと思うよ?」
友人を心配して忠告した。
保健室に着く。
ガラガラガラガラ
「Dr.急患でーーす」
ドアを開けると同時に、机に向かう白衣の背中に声をかける。
「んあ~?」
机に向かっていたDr.ヘッドランド……もとい、神城岬先生が振り向く。
「っておいっ! 昼休みはまだだぞっ。なんで今来るんだよっ!?」
来たのが僕らだと分かると、とても迷惑そうに不満を口にした。
「いやDr.、モノホンの急患なんですよぉ。椎名君が体育の授業で倒れまして」
保健室に入りながら言う。
「椎名殿は20キロの重りをつけたまま、長距離走をしたので御座る」
一宮君が、真摯に説明する。
「あっ。あと頭も急患です」
僕も、真摯に補足する。
「チッ! 面倒だなっ。椎名はそこのベッドにでも、転がしておけっ」
二つの、誰もいないベッドを指差す。
「こっちは養護教諭の業務と、昼の経過観察の準備で忙しいんだよっ。それとナポリタン。誰が聞いてるか分からんから、学校では先生と呼べっ」
長い髪をわしゃわしゃと引っ掻き回す。
「たくっ、ナポリタンは悪の組織の一員としての自覚が足りんなっ」
「先生もね」
ポイッ
椎名君をベッドに投げ込む。
ミシシ
重いせいか、ベッドが歪んで音を立てた。
「コレを適当に貼っとけ」
ポイッ
神城岬先生が、ベッドの椎名君に冷却パットを箱ごと投げつけ、椅子に戻る。
「椎名君、じゃあねぇ~。お大事にぃ~」
「少しご自愛くだされ。脳を」
それを見て安心した僕らは、さっさと保健室を後にして、体育の授業へ戻った。
―――――
―――
―
三限目が終わる頃には、空からぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。
どうせ降るなら、もっと早くに降ってくれれば良かったのに。
その後、椎名君は四限目途中で教室に戻って来た。
もちろん、重りはつけたままだった……
―――――
―――
―
昼休みとなり、保健室に行く前に、三人で学食に向かう。
パタタタタッ
一階まで降りて、騒がしい学食前まで行くと、どこからともなく芹園さんがやって来た。
するり……
とたんに阿吽の呼吸で、友人二人のマークが外れて、芹園さんが僕の隣に収まる。
「俺はプロテインだから、席を取りに行ってこよう。もちろん、四人分をな」
そう宣言した椎名君は、ポージングもせずに、さっさと席取りに向かった。
券売機の列に僕と芹園さんが一緒に並び、その後ろに一宮君が気配を消してつく。
「昨日は由比里君に焼きうどんを奢ってもらったから、今日の焼きうどんは、わたしに払わせてね」
芹園さんは、お洒落な財布を手に、そう言って微笑む。
「へ? あ、ありがとう……」
微妙な笑顔を、芹園さんに返す。
(うーーむ、問答無用で二日連続焼きうどんになってしまった……。まあ、嫌いでは無いからそれはいいけど、問題は二日連続で芹園さんと昼食ってことだよね)
これでは、あらぬ誤解を受けかねない。
が、面と向かって[一緒に食事をしたくない]などとは、言えないし……
そのまま、芹園さんとは会話も弾まないまま、列はゆっくりと進んでいく。
一宮君は相変わらず、気配を消している。
(それにしても、こんな時、なにを話せば良いのか、分かんないなぁ)
B.I.P.の記憶があって度胸がついても、女子との会話術が磨かれた訳ではない。
芹園さんと仲良くする必要は全くないが、女子とのコミュニケーション能力の低さは、良くない。
(青浜さんと交際したいなら、コレは改善しないとダメだよね)
しかし改善といっても、どうすれば良いのだろうか?
食券を買い、受け取りカウンターの列に並びながら、思案する。
(そうだ。誰でも好きな物の話題なら、饒舌になるよね?)
オタなんか正にそうだ。
その辺りを切り口にしてみよう。
「焼きうどんにも色々と種類があるじゃない? 芹園さんはオーソドックスなモノ以外も食べたりするの?」
芹園さんの好きな物と言ったら、これしか思いつかない。
「うんっ、やっぱり醤油味の焼きうどんが一番だけど、それ以外も結構食べるよ? ソース味とか、味噌味、キムチ味とかもっ」
パッと顔が華やいで、明るい声で返事が返ってきた。
「へえぇ。あ、僕も前に、家族で埼玉のソース焼きうどんを食べたけど、アレ美味しかったなぁ~」
「うんうんっ、わたしも埼玉のソース焼きうどん、食べたことがあるぅ~。美味しいよねぇ~。あ、そうだっ。わたしぃ、岡山のホルモン焼きうどん……」
芹園さんは思いのほか、会話に乗ってくれた。
もしかしたら、芹園さんも会話の切欠を探していたのかもしれない。
芹園さんと焼きうどん談義に花を咲かせつつ、カウンターで、焼きうどんを受け取る。
きっと学食のおばちゃんは、「どんだけ焼きうどん好きなの?」と思ったことだろう。
「――それでねっ、そのホルモンが凄く美味しくて……」
……この会話、本当に女子とのコミュニケーション能力が上がるのだろうか?
芹園さんて、ホントにトレンド界隈の人?
第23章「横恋慕は真剣に」
終了まで、あと1話




