23.4 最初の日射病4
一限目が終了した。
ガタタ……
このままでは埒が明かないと考えた僕は、授業の終わりとともに、立ち上がる。
「速きこと風の如くっ」
スタタタタッ
青浜さんの所へと向かう。
ガタタッ! ドタタッ!
友人二人が慌てて立ち上がり、こちらへ向かうが、時すでに遅し。
僕は、青浜さんの席に到達した。
「おっ、おう、由比里。来たのか……」
席を立ちかけていた青浜さんが、そっぽを向いて、ポテンと座り直した。
「あにか用か?」
「ええと、用と言うか、ちょっとお話しでもと……」
「侵略すること火の如く」
ババッ!
一宮君が強引に、間に入って来た。
「動かざること、ナイスバルクの如く」
ビシシッ!
さらに椎名君が割り込み、僕の前でポージングをする。
「静かなること林の如く?」
ててててっ
なぜか龍巳さんもそう言って、寄って来た。
しかも龍巳さん、ドヤ笑顔だ。
「あんだそれ? まんよーしゅーか?」
全体の成績は悪くないのだが、古文などが苦手な青浜さんが、首を傾げる。
ちなみに、さっきのは風林火山です。
あ、椎名君だけ、中林中山ね。
「で、みんなして、あによ?」
「ええと……拙者は椎名殿が来いと言ったので、従った次第にて候」
一宮君が椎名君に、言い訳を投げる。
「はっ? ……いや、俺は同志由比里に釣られただけだぞ?」
椎名君が僕にパスした。
「え? えーと……僕は龍巳さんに、呼ばれたから」
僕は思い切って、龍巳さんに丸投げしてみる。
「はい? ……ええと、私は夏音ちゃんに用があるって言われて」
龍巳さんが青浜さんを見て、白こい顔で微笑む。
案外、ノリが良い。
「青浜さんっ」
「「「「用事はなーーにっ?」」」」
四人で一斉に、青浜さんに聞く。
「おおいっ、あんだよ、この古いコントはっ。ダ○ョウ倶楽部かっ」
青浜さんが激しく突っ込んだ。
「阿呆かお前らっ。たくっ、桜花まで一緒になって……ぷぷぷっ……」
途中で可笑しくなったのか、ふき出してしまった。
「ぷっ……くくくくくっ……」
つられて僕も笑う。
すると、龍巳さんも友人二人も、クスクスと軽く笑い出した。
青浜さんは笑うと、ショートカットの黒髪の間から出た耳の先が、ピコピコと動いた。
(あぁ、やっぱり青浜さんは、笑顔が一番だなぁ……)
思わず見惚れる。
(まあ、ダ○ョウ倶楽部は、ちょっと違うと思うけどね)
「ふふふふっ。それにしても三人とも、今日は何だか凄く元気だね」
唐突に、龍巳さんがそう切り出して、僕らに向かって穏やかに微笑む。
「「「???」」」
僕と友人二人は、キョトンとして首を捻る。
「そうかな?」
「うん。ええと、今朝も思ったのだけど……」
龍巳さんがシュッとした顎に、細い人差し指を置いて、軽く思案する。
「……あのね、いつもは三人とも、物静かで無口な印象だけど、今日は凄くハキハキと喋っているなぁ、と思ったの」
上品に小首を傾げた。
「何か良いことでも、あったの?」
「いや別に……」
龍巳さんに指摘されて、僕と友人二人は、顔を見合わせる。
確かに僕も、椎名君と一宮君が、青浜さんと龍巳さんを前に、口籠らないのを不思議に思ったけど……
(……あ、そうか。記憶だ。B.I.P.で揉まれた記憶があるせいだ)
僕は友人二人に感じた違和感の理由に、思いついた。
おそらく、一年近くB.I.P.の戦闘員として戦った記憶が、影響しているのだろう。
戦闘では、いくらビラ配りが仕事だといっても、危険がない訳ではない。
ピュア・シャイニングからすれば、戦闘員なんて、みんな同じに見えるはずだ。
相手は、正社員戦闘員かアルバイト戦闘員かの区別なんてしてないのだから、偶然、エンカウントした時などは、攻撃されることもある。
過去には一度、小田急線の片瀬江ノ島駅近くまで出撃した際に、僕らがいるアルバイト戦闘員部隊が、撤退に失敗。
取り残され、片瀬の街中を逃げ回ったこともあった。
(B.I.P.での経験で[度胸がついた]と、いうことなのだろう)
普通なら、徐々に変化していくものを、記憶の消去のせいで、今まで変化が止まっていたのだ。
それが昨日から、記憶が残るようになったので、傍から見れば、一気に変化したように感じたのだ。
おそらく僕も、B.I.P.の記憶がなかった頃とは、態度や口調に変化があったはずだ。
自分では自覚出来ないが……。
……もう一度、僕と友人二人で顔を見合わせる。
「「「…………………………」」」
椎名君も一宮君も、同じ結論に辿り着いたようで、微妙な顔をしていた。
「あれ? 私の気のせいなのかな?」
微妙な反応に、龍巳さんが小首を傾げた。
「ねえ、夏音ちゃんはどう思う?」
「ほへ?」
話を振られた青浜さんが、改めて、僕らの方をジッと見つめた。
「まぁ……な。元気とゆーか……その……。前より顔つきが少し、男らしくなった気もするよ」
日焼けした頬を、微かに赤らめてそう言うと、サッと目を逸らした。
「「!?!?」」
それを聞いた友人二人が、無言で自信満々のドヤ顔になった。
一宮君はビシリと胸を張り、椎名君はポージングをキメた。
(いやいや、二人には悪いけど、今のは僕に向けての、マイハニーの言葉さっ)
そう考えて、僕も胸を張る。
……友人二人も全く同じ考えなのに、気がつかずに……
第23章「横恋慕は真剣に」
終了まで、あと2話




