23.2 最初の日射病2
とても不可思議だが、なんにしても、今朝は機嫌悪くないようだ。
(よし。なら今のうちに、昨日の誤解も解いちゃおうっ)
「あの、青浜さん。昨日のことなんだけど、僕としてはね……ええと……ええと……」
(あ、しまった。考えを纏めないで、話し始めちゃった……)
どう説明すれば、いいんだろう?
「ええとぉ……あっ、昨日、龍巳さんも呼んでアイスを食べようと誘ったのは、[将を射んと欲すれば先ず馬を射よ]といった気持ちではなくて。てか、むしろ将は青浜さんであって、そのぉ……」
しどろもどろに説明する。
「へ? ShowをMeとHotすれば、不味いHorse(馬)??」
青浜さんはキョトンとして、小首を傾げた。
(うむむぅ。これは完全に通じてないな)
てか、このままだと、青浜さんがルー青浜になってしまう。
「えとね、とにかくね、僕は純粋に、青浜さんと仲良くしたいと思って誘っただけで、その……」
今度は、分かりやすく言ってみると……
「ああっ、うんっ。昨日はあたしもちょっと、言いすぎたと反省した。……その……ごめんな?」
シュタッ
青浜さんは、綺麗なおデコの前で、片手を立てて謝った。
「あぁ、ううん。こちらこそ」
ホッとして、軽く頭を下げる。
どうやら、誤解は勝手に、解けていたようだ。
(良かったぁ~。全然、大丈夫だったよぅ)
これなら今後も、アプローチを続けていけそうだ。
(うむむっ。ならば、このままもう一度、お誘いしてみるのもアリかな?)
それは性急すぎるだろうか?
(でも、機嫌が良い今が、チャンスな気が……)
隣を歩きながら、内心で迷っていると……
「あっ! あたし、もう行くなっ」
少し先にクラスメイト女子を見つけた青浜さんが、パッと手を上げた。
「じゃあなっ」
「あっ……」
僕が口を開く間もなく、行ってしまった……残念。
ダバダダダダバダッ
「ででっ! 殿中で御座るぅぅぅぅーーーーっ!」
青浜さんを見送って佇んでいると、背後から奇声が聞こえたので、振り向く。
低身長の男子が、バタバタと坂を上って来るのが見えた。
……朝から見たくは、なかったけどね。
「はぁ! ハァ! ……ちぃぃ! 遅かりし内蔵助で御座ったかっ!!」
左手首に包帯を巻いた一宮君が、息を切らしながら悔しがる。
「青浜殿と猥褻怪人を、二人きりにしてしまうとはっ! 何たる不覚っ!」
友人は今朝も、失礼だった。
ドダバダドダバダドダバダ……
「ふぅっ……フゥッ……ふぅっ……フゥッ……ふぅっ……」
続けて、中肉中背も上って来るのが見えたので、止まって待つ。
心底、嫌だけど。
「ふぅっ……フゥッ……同志ジェラート由比里よっ! ふぅっ……フゥッ……今、青浜嬢にっ、猥褻行為をっ、ふぅっ……していたなっ!?」
何だか妙に、体が重そうな椎名君が言う。
「おはよう。二人とも、濡れ衣で友人を愚弄する前に、朝はまず[おはよう]だよね?」
爽やかなイケメン笑顔で、友人に挨拶する。
「チッ! おはよ」
「ケッ! お早う、ジェラート殿」
二人はソッポを向いて、適当にあいさつした。
あいさつの前に、舌打ちするのは止めようね?
キョロリキョロリ
二人はなぜか、歩き出さずに前後左右を見渡す。
「あっ! 龍巳殿っ! お早うで御座るーーーーっ」
ぶんぶんぶんっ
「おはよーーーう、龍巳嬢っ! フロント・ダブル・バイセップスッ!」
ビシッ!
二人は人混みの中から、坂を上って来る龍巳さんを目敏く見つけて、元気にポージング&手を振った。
(あれ? 二人とも、龍巳さんに対して、口籠ってないぞ?)
軽く驚く。
もちろん、中肉中背の奇行には驚かない。
(まあ、いいや……)
シュタッ
「龍巳さん、おは……」
僕も手を挙げて、イケメンスマイルで、龍巳さんに挨拶を……
スッ……
スススッ……
僕が龍巳さんに挨拶している途中で、一宮君、椎名君が、僕の前を遮るように立った。
え? このフォーメーションはなに?
ちなみに、中肉中背は、ポージングを崩していない。
「あ、一宮君、椎名君……と、由比里君。おはよう」
龍巳さんが一瞬、友人二人にブロックされて見えづらかった僕を確認してから、涼やかな笑顔で挨拶した。
「龍巳さん、おは……」
「やあ、龍巳嬢。今日は生憎の脂肪天気(マッチョ用語で曇り)だなぁ」
「本日は随分と、青浜殿と離れましたなぁ? 何かあったで御座るか?」
二人が僕の前にピッタリと張りついたまま、挨拶を遮る。
「えっ!? ……う、うん。今日の夏音ちゃん、なぜか凄く早い段階で走り出しちゃったの。ふふふっ、ちょっと珍しいかも」
龍巳さんは、滑舌の良い二人とマッチョ用語に、少し驚いた顔を見せたが、すぐに上品な笑顔に戻って返事をした。
「おーーいっ、桜花ぁーー!」
ぶんっぶんっぶんっ
少し先で、青浜さんが女子たちと一緒に立ち止まり、こちらに向かって手を振っていた。
「はーーい」
それを見た龍巳さんは、僕たちに笑顔で軽く会釈すると、青浜さんの方へ小走りで行ってしまった。
……結局、僕は挨拶すら、まともに出来なかった。
「……ねえ、何なの? このフォーメーション。嫌がらせ?」
青浜さん、龍巳さんの背中を見送りながら、聞く。
「いやいや、拙者共は猥褻怪人ナポリタン付き戦闘員で御座るから、こうして寄り添い、緊急事態に備えているだけで御座るよ?」
「そうそう、同志ジェラートに張り付くのは、神城岬教諭から任された重要任務。我々もイケメンになるために完遂せねばならん」
「そんな建前じゃなくてさ、二人共、僕という友人を酷く誤解してない?」
「誤解も何も、ジェラート殿は戦闘中に、敵に猥褻プレイを強要する、破廉恥漢で御座ろう?」
「どこぞの敵と乳繰り合うのは勝手だが、紛い物のイケメンを利用して、我らの[青春の象徴]の二人を穢す行為は、何としても阻止させてもらうぞっ。マッチョの名にかけてっ!」
くそぅ、納得出来ない……が、完全な冤罪でも無いので、反論が出来ない。
ピュア・シャイニングよ、昨日はおっぱいを、ありがとう。
でも、ジェラートと呼ぶのは、もう止めて欲しい。
あと、椎名君が名をかけるべきは、中肉中背だからね?
第23章「横恋慕は真剣に」
終了まで、あと4話




