22.5 DIRTY OLD BOY9
「くっくっくっくっ、どうだ? ジェラート由比里よ。やはり私は天才マッドサイエンティストだろっ」
神城岬先生が、不敵に笑った。
「ええ、まぁ、凄い人だと思います。本当に先生は、天才と紙一重ですよね」
忖度無しに懲りた僕は、精一杯の社交辞令を返した。
――その後、神城岬先生にブーツ丸見え&金属音を指摘すると[知ってた。今後、光学迷彩ブーツも開発する予定だ。バーカバーカ]との返事があった。
絶対に嘘だな。
そして[明日の昼休み、昼食後に三人で保健室に来る]、[夕方からは僕のみでアジトで精密検査を行う]ことを指示されて解散。
僕らは帰宅することになった。
三人で閑散とした更衣室に戻り、着替える。
バスローブのポケットに忍ばせた20万円入り封筒は、大切に鞄の中に移した。
僕はバスローブから、制服へ。
一宮君は戦闘服から、地味な私服へ。
椎名君は戦闘服から、昭和の虫取り少年風タンクトップへ。
それぞれ着替えて、外に出る。
江の島は、すでに戦闘の余韻は完全に消えて、静かな夜の帳に包まれていた。
今日一日色々とあり、僕も友人二人も、疲れているので口数は極端に少ない。
淡々と弁財天仲見世通りを下る。
青銅の鳥居を潜ると、二人は記憶を失わずに通過出来た。
記憶を失わずに江の島を出る違和感に、暫し二人は身を悶えさせていた。
弁天橋に向かおうとすると、車道にマイクロバスが一台停まっていることに、気がついた。
フロントガラスの内側に[江ノ島発、小田急線片瀬江ノ島駅経由、江ノ島電鉄江ノ島駅経由、湘南モノレール湘南江の島駅行き]と張り紙がしてある。
(ああ、珍しくBIPの送迎バスが出てるのか……)
この送迎バスは、大規模戦闘の後に、BIPが運行しているものだ。
動員された戦闘員と、観戦した協力会員の送迎のためなのだが、表向きはBIPとは無関係で、江の島の旅館組合が、運行していることになっている。
なのでバスに乗車出来るのは、江の島で働く全ての人と、江の島を訪れた全ての観光客となっている。
そこに僕らBIP関係者も、一般人のふりをして乗り込むのだ。
「疲れているし、乗って行こうか?」
江ノ電江ノ島駅は、意外と江の島から離れているのだ。
僕が聞くと、二人は頷いて同意した。
僕らは一般のフリをして、バスに近づく。
(あっ! コレ、天紫野会長のホテルのバスだっ)
乗り込む前、ふとバス側面を見ると、綺麗にカラーリングされた[AMASHINO HOTEL]の文字があった。
表向きは旅館組合の運行だし、送迎は臨時なので、こうして各ホテルや旅館から、送迎バスをレンタルして運用しているのだ。
(そうか……天紫野会長のホテルからも、借りてるのか)
不思議な繋がりに、感慨深いものを感じた。
帽子を目深に被った、暗い感じの運転手さんに、軽く挨拶して乗り込む。
オレンジ色の常夜灯のみが点けられている車内は暗く、空席が目立った。
戦闘終了からだいぶ時間が過ぎたので、コレが最終便なのかもしれない。
後方の席に、三人並んで座る。
さすがの椎名君も疲れているらしく、空気椅子ではなく、深くシートに座る。
「……すみません、お土産べんてんてんのバイトなんですがぁ……。コレに乗っても良いんですよね?」
若い男の人が、乗り口でおずおずと、運転手さんに聞く。
「江の島にあるどの会社でも大丈夫ですよ、どうぞ……」
帽子を目深に被った暗い運転手さんが、顔を上げずにぼそっと返事をする。
すると若い男の人は、不安げに薄暗いバスに乗り込んだ。
おそらくあの人は、青銅の鳥居で記憶を消した、アルバイト戦闘員なのだろう。
しかし、こうしてホテルや旅館がBIPにバスを貸しているのを目の当たりにすると、改めて両者は協力関係にあるのだと、思い知らされる。
そうなると、江ノ島の旅館やお店の人たちは[お土産べんてんてん]が、BIPと繋がりがある会社だと、感づいている可能性は高い。
と、考えると、天紫野会長にバイト先を誤魔化したのは、やっぱり正解だった。
(このことは二人にも、話しておいた方が良いな)
すぐに小声で、今考えたことを、二人に説明する。
「うむ、確かにそうだな。我々は友人知人が少ないから、バイトのことを他人に話す機会はほぼ無いが、もし問われたら、誤魔化した方が得策かもしれんな」
「で、御座るなぁ。由比里殿の[バイト先は片瀬の縫い包み工場]を、拙者も採用するで御座る」
二人は小声で同意の返事をしてくれた。
そこで会話は途切れ、乗客の少ない車内は静寂に包まれる。
「紗弥ちゃんっ、コレ最終便だよっ、早く乗らんとっ」
「桃太さんっ、そんなに急がなくても大丈夫ですって」
しばらくすると、乗り口の方から人の声が聞こえた後、ドカドカと男女二人が乗り込んで来た。
凄く色白の若い女性と、青白い顔のオジサンだった。
二人は近くに座る。
(どこかの従業員かな? ……まぁ、カップルでは無いだろうな)
不釣り合いな二人だし、恋人的な雰囲気もゼロだ。
「――それで晴一は目覚めそ――か?」
「――ううん、それはまだ。せんせーが言うには、今回の成功で足掛か――かったけど、完成ま――もう少し――そうだって――」
「――そうか――でも大進展だ。俺たちは10年以上待っ――、もう少し待つ――んてことはない――」
白い顔の二人は、何かひそひそ話をしている。
その声を聴くともなく聴いているうちに、僕は眠くなり、シートに埋もれてウトウトとしだす。
バスが発車すると、友人二人もずっと黙っていて、どうやら彼らも、時々、舟を漕いでいる様子だった。
江ノ島駅前に到着し、欠伸交じりで僕は藤沢行きのホームへ、二人は鎌倉行きに乗るので、反対側のホームへと別れる。
単線すれ違いのために、江ノ島駅で藤沢行きと、鎌倉行きの電車が並ぶ。
僕らはそれぞれに乗り、いつものバイト帰りと同様、お互い車内から手を振り合って、別れた……
第22章「取引、密約、もう1人の怪人誕生!?」終了
次は第23章「横恋慕は真剣に」です。(全6話)
【次章予告】
この後、物語は一転、学校でのラブコメパートに突入しますっ。
B.I.P.での記憶が残った椎名君と一宮君は、無駄にうるささがパワーアップしてますっ。
乞うご期待!




