22.3 DIRTY OLD BOY7
「だから一宮と椎名は、保健室の前に張り付いて、そんなアホ共を追っ払って欲しいのだ」
神城岬先生はポケットから、煙草の箱を取り出しつつ、そう言い切った。
「いや、急病の生徒を、養護教諭が[アホ共]って呼ばないで下さいよ、おっかないなぁ」
思わず、突っ込む。
大岡一大教諭は、正真正銘のアホだけどさ。
「それ以外に、学校内で他の生徒に、由比里の見た目が激変したことと、BIPや新怪人が関連づけされないように、フォローして欲しい」
神城岬先生は、煙草を一本、取り出す。
「怪人発覚の前兆、自分たちだけでは手に負えないトラブル、そのようなことが起こった時に、保健室にいる私への連絡役にも、なって欲しい」
「う~ん、そこまで心配する必要ありますか?」
僕は疑問を感じて、口を挟む。
「あるな。学校という狭い世界では、お前の激変のインパクトは、一部の生徒に強い恋慕や嫉妬といった感情を呼び起こし、そこから思いも寄らないトラブルを引き起こすだろう。実際、今日学校で、何かトラブルはなかったか? 平穏な学園生活だったか?」
神城岬先生は、指で煙草を玩びながら、そう話す。
「……いいえ。色々、ありました。嫌になるほど」
隣に座る、友人二人を含めて、ね。
「だろ? おそらくそれは、これからもっと起こるぞ。特に嫉妬は厄介だ。嫉妬は意外と、女の専売特許じゃないんだよ」
「男のくそガキには、自身の醜い嫉妬心を[生意気なあいつが悪い]と責任転嫁しては、簡単に暴力を振るう[人に進化する前の猿]が結構いる。つまり、猿山のボス猿だな」
(ボス猿か……)
先生の話を聞いて、クラスの磐田君の顔が、頭にチラついた。
「以上、こういった任務を、一宮と椎名に頼みたいんだ」
神城岬先生が、玩んでいた煙草を箱に戻すと、二人に向き直る。
「怪人付きの戦闘員になることで、多少の時給Upと戦闘時の特別手当がつくが、怪人のような勝利ボーナスなどは出ない」
「BIPの外でのサポート役は、私が依頼した極秘の仕事なので、時給などは一切出ない。つまり報酬はほぼ、量産型触手怪人の最有力候補者になるだけだ。それでもお前らはやるか?」
神城岬先生は、念を押すように聞く。
「その……本当にイケメン注射を打ってもらえるかが、一番大事で……」
二人が不安げに、先生の巨乳を見上げる。
「ああ、それは約束するぞ。その信義の証として、私の正体をお前ら二人にバラしたんだからなっ」
神城岬先生は白衣を翻して、ナイススマイルでいいねっ! と親指を立ててみせる。
(嘘だぁ~、ただ隠すのが面倒になっただけでしょ~……)
その笑顔は、僕の目には詐欺師のソレに映った。
この人、僕にバレた時も、全く気にしていなかったし。
「先生……」
「教諭殿……」
コロッと詐欺師に騙された二人は、感極まったような顔で呟く。
「やりますっ! 是非、我々にその任務をやらせて下さいっ!」
「拙者っ、身命を賭して、ことに挑む所存で御座るっ! 何卒お任せあれっ!」
二人は跳ねるように立ち上がり、90度に頭を下げて、叫んだ。
ニヤ……
にや……
座っている僕には、深々と頭を下げる友人二人の口元が、やらしく吊り上るのが、ハッキリと見えた。
(もう、勝手に化かし合って下さい……)
利害が一致して、良かったね。
僕は心の中で、溜め息をついた……
(……溜め息ついたら、何だか無性にお腹が減ってきたよ……)
痩せても、食いしん坊キャラのままの、僕だった……
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―――――
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「……そうだっ、ついでにアレも試すのも、アリかな?」
二人が僕付きの戦闘員に決定した直後、神城岬先生は思い出したようにそう呟いて、雑多な機械類の中に入って行った。
ガタガタ・ゴソソ・ガチャン・ポカーン!
「……どこだっけか? ……えと……くそっ! どこに行ったっ?」
神城岬先生が、機械類を引っ掻き回す。
「んっ? おおっ! あったあったっ! って、ぐっ! 重いっ! ……おいっ! 誰でも良いから、コレを引きずり出してくれっ!」
僕らに声がかかる。
三人で雑多な機械類の中を覗くと、神城岬先生が床に置かれた二つの段ボール箱を、蹴っていた。
「引きずっていいから、こいつをアッチに移動させてくれ」
ぼむっ・ぼむっ
蹴りながら、指示を出す。
「はーい……うっ!?」
僕ら三人はすぐに段ボール箱に手を伸ばす……が、本当にかなり重い。
持ち上げるのは大変そうだし、なにより、段ボール箱の底が抜けそうだ。
椎名君が持ち上げたそうな顔をしていたが、危険と判断し、三人でずるずると段ボール箱を引きずり、移動させる。
「やたら重いけど、何ですか、コレ?」
診察台の前まで運ぶと、一つの蓋を開けて、中を覗き込む。
「こいつは開発途中の、超科学光学迷彩スーツだ。完成の暁には、装着者は[保護色怪人 亀レオン]と命名される予定のヤツだな」
神城岬先生は、キラキラ光る、服のようなモノを、一部だけ段ボール箱から出して見せた。
よく見ると、5ミリ程度の六角形極小モニターが、無数にびっしりとついている。
「名前で怪人の能力をバラすのは、もう止めた方がいいと思いますよ?」
ガチャ……
僕は、重い服を段ボール箱の上に、広げてみせる。
ソレはまるで、キラキラと光る、長く分厚い、ポンチョとか合羽のようなモノだった。
「ううむ……所謂、透明人間スーツですか……。さすがは、悪の秘密結社、大したものですね」
椎名君は、恐る恐るスーツを触りながら、感心している。
「こっちの箱には、付属バッテリーが入っている」
ぼむっ・ぼむっ
神城岬先生が、もう一方の段ボール箱を蹴る。
「このスーツは周囲360度に、無数に貼り付けた超科学有機LEDモニターに、それぞれ反対側……つまり180度裏側の景色を投影して、透明に見せる怪人スーツだ」
第22章 「取引、密約、もう1人の怪人誕生!?」
終了まで、あと2話




