2.2 遥か国神の島2
狭い上り坂の弁財天仲見世通りを、スタスタと上って行く……
(あっ、良いなぁ……)
弁財天仲見世通りの[紀の國屋本店]の前で、アイス最中を食べているカップルがいて、思わず目を留める。
ここのアイス最中は、抹茶やバニラやおぐらのアイスを、サザエやホタテの形の最中で挟むので、とてもカラフルで可愛らしい。
ここを通るとたいてい、カップルが楽しげにアイス最中を食べる姿を見るのだ。
(羨ましいなぁ……僕もあんな風に、青浜さんか龍巳さんと一緒に、紀の國屋のアイス最中を食べてみたいな……)
つい叶わない光景を、妄想してしまう……
[紀の國屋本店]の前を通り過ぎ、江の島名物[海苔羊羹]の店の前へ。
その脇の、観光客が存在に気がつかないような、人一人がやっと通れる、狭く目立たない路地に入る。
路地の最奥、山肌の打ちっ放しコンクリートの壁に、ポツリとスチール製の古ぼけたドアがある。
ドアには[Staff Only 有限会社お土産べんてんてん タコせんべい工場]と、マジックペンで、手書きされている。
このお土産工場に偽装されたドアが、BIPのアジトへの入り口だ。
江の島にはこのような秘密の入り口が、各所にあるそうだ。
が、僕らアルバイト戦闘員が使えるのはココだけで、他の入り口は知らされていない。
「717129(セ[か]イセイフク)……」
7をセブンの[セ]と読む、かなり無理やりな語呂合わせの暗証番号を、入り口のテンキーに入力する。
と、ドアノブからカチリと錠が外れる音がする。
ドアを開けると、二人がなんとかすれ違える程度の狭く暗いトンネルが、10メートルほど続く。
突き当たると、ドアが左右に1つずつある。
ここがアルバイト戦闘員専用の更衣室だ。
網膜と指紋の認証で開錠して、右の男子更衣室の中へ。
「「「おはようございまーーす」」」
挨拶しながら部屋に入る。
数人が着替えている部屋の中も薄暗い。
これはお互いの顔があまり見えないようにする配慮だ。
まあ、実際はかなり見えているのだが、なるべく、顔を見ないようにするのが礼儀だ。
紙のプレートに[戦闘員8712号]と書かれたロッカーを開く。
ここが僕のロッカーなのだ。
ちなみに、番号が8712号だからと言って、戦闘員が8712人もいる訳ではない。
敵も、味方の末端にも、番号で戦力が推し量られないように、大きい数字を割り振られるのだ。
実際の数はおそらく、非戦闘系の職員を全て合わせても、五百人をはるかに下回ると思われる。
制服を脱いで、戦闘員用の全身タイツのようなパワースーツを着、眼鏡を外して強化目出し帽を被り、瓢箪を模したアイマスクを装着する。
視力矯正機能も標準装備の特殊なアイマスクなので、眼鏡は鞄に仕舞ってロッカーに入れる。
強化ブーツを履き、白いマフラーを首に巻いて、最後に、手に強化グローブをしっかりと嵌める。
強化グローブは太いベルトがついていて、それでバンテージのように、手首をガッチリと固定する。
これで打撃時に手首が保護される。
と、同時に、手首が曲がってクッションになり、打撃エネルギーが逃げてしまうのを防ぐのだ。
これで完成。
ロッカー扉の裏の鏡で、身嗜みをチェック。
タイツの色は黒で、胸にはデフォルメされた八方睨みの亀が描かれている。
この戦闘員用の全身タイツに見えるモノは当然、BIPの超科学技術によって作られたパワースーツだ。
装着者は運動能力が、普段の二倍弱まで上がる。
仕組みとしてはパワースーツを構成する超科学素材が、装着者の動きに合わせて伸縮して、補助するものだ。
いわゆる、パワーアシストと呼ばれる方式で、運動能力を引き上げている。
そしてこの超科学素材は、通常時は柔らかく、衝撃を受けた瞬間に硬化する。
つまり、攻撃を受けた瞬間にその部分が硬くなり、身を守ってくれる仕組みなのだ。
このパワースーツは電動で、電源は腰ベルトにつける小型バッテリーとなる。
僕は着替え終えると、更衣室に置いてある充電済みの小型バッテリーを取りに行く。
そしてそれを腰ベルトに装着して、前面の瓢箪形のバックルを押すとスイッチが入り、スーツが起動した。
起動したパワースーツからは、中央作戦司令室……通称、指揮所にバイタルデータや位置情報が自動的に送られる仕組みになっている。
戦闘やアジト外活動が予定されている時は、その都度に応じた装備が入った脱着式のバックが配布され、腰ベルトに装着して出撃する。
本日はバックの配布はなかった。
………………
さて、戦闘員のマフラーについて少し補足しよう。
戦闘員のマフラーの色は、実は身分を表すものだ。
白はアルバイト、黄色は契約社員、赤は正社員となる。
他に、いくつかレアなものがあるが、その一つは薄紫色のマフラーで、コレは[怪人つき戦闘員]の印だ。
[怪人つき戦闘員]は、実質的な地位は別段高くはない。
が、黒紫が総統閣下のパーソナルカラーだと考えると、同じ紫系の色を与えられていることで、[怪人つき戦闘員]の名誉的な地位の高さが計り知れるだろう。
……まあ、アルバイト戦闘員の僕が[怪人つき戦闘員]になる可能性は100%ないので、関係ないけどね……
正社員、契約社員の戦闘員は、第一・第二戦闘員大隊に所属する。
対して、僕らアルバイト戦闘員は、第三十三予備戦闘員大隊の所属となる。
当然だが、戦闘員大隊が33個もある訳もない。
名前だけのダミー大隊を除くと、どうも実際は第一・第二・第三十三の三個大隊しか存在しないようだ。
コレも戦闘員番号が大きいのと同じ理由だと、僕は推測している。
大多数のアルバイトと、少数の指揮官(正社員)で構成される第三十三予備戦闘員大隊の役割を簡単に説明すると、[何でも屋]とか[雑用係]といったところだろうか。
メインの仕事は防衛要員として、アジト内警戒待機となる。
だが、魔法少女や正義の組織がアジトに攻め込んで来たことなどは今まで皆無なので、アジト内警戒待機は完全に形骸化している。
なので、警戒待機中に清掃や備品の手入れ、倉庫整理、BIPオフィシャルグッズのピッキングと梱包、さらには食堂の厨房での皿洗いなどの仕事をするのだ。
それと、お土産物の手のひらサイズの蛸せんべいも、アジト内で実際に作っていて、その製造現場で働くこともある。
これは[お土産べんてんてん]はBIPのダミー会社ではあるが、それを外部から悟られないように、実際に土産物を製造し、品物を江の島の土産物屋などに卸しているためだ。
もちろん、戦闘が起きれば出撃するのだが、あくまでも数合わせなので、戦闘中は一番外側で「シマァーーーー!!」と奇声を上げて、戦闘を盛り上げる役割をし、戦いに参戦したりはしない。
参戦しない代わりに、アルバイト戦闘員には別に大事な仕事がある。
続きを読みたいと思った方はブクマを、
面白いと思った方は星評価を、
忘れずに押してくださいね。
押すと、脳汁が出て、作者がトランス状態になります。




