21.2 DIRTY OLD BOY2
月、火、木、金、土の週5日、最新話を更新しますっ!
「えっ!? あ、ありがとう、ございますっ」
冷徹無慈悲で知られる将軍が見せた優しさに、感動する。
(わざわざ自分で運んで来るなんて……本当は、けっこう優しい人なんだなぁ……)
素早くバスローブの腰紐を結び、ありがたくお盆を受け取った。
お盆に乗っていたのは、綺麗な三角に握られた大き目のおにぎりが四つに、小皿にきゅうりと茄子の漬物、お味噌汁は具だくさんの豚汁だった。
ふわり……
「あぁ、良い匂い。美味しそう……あっ、コレはもしかして、ハマグリの炊き込みご飯ですか?」
「ふっ。そうだ。幹部用の賄いなのによく知っていたな」
カラー1将軍は少し呆れたように笑った。
「戦闘後で空腹だろうと思い、大目に握ってきた。真ん中に、別に煮たハマグリを入れてある。漁港で良いハマグリをわけて貰ったし、よく味が染みてくれたから、不味くはないはずだぞ」
「ええっ!? もしかしてこのおにぎりは、カラー1将軍が握ってくれたんですかっ!?」
「豚汁も漬物もそうだが? なんだ? 私が手ずから作った物は嫌か?」
「いえいえっ、まさかっ。ただ意外だっただけで……」
「将軍は料理上手だぞ。普段から幹部用だけじゃなく、一般用の賄いもけっこう作っているぞ」
ヒョイ
そう言ってDr.は、僕の小皿に手を伸ばして、きゅうり一切れを奪い去った。
「えええっ!? 普段の賄いもですかっ!?」
Dr.を横目で睨みながら、驚きの声を上げる。
「いっ、いつもではないぞっ。私だって忙しいのだからなっ。時間が空いた時に、偶にだっ」
なぜか少し赤面しながら、言い訳のように話す。
あれ? また、将軍ツンデレ?
「ぽりぽりぽり……うん、やっぱり美味いなぁ。今度、お前の好物のナポリタンを頼んでみろ。それもきっと美味いぞぉ」
言いながらまたも、Dr.が僕の小皿に手を伸ばす……
サッ!
お盆を引いて、賄いを守る。
「ふんっ」
ビシッ!
Dr.ヘッドランドが白衣を翻し、僕にローキックを入れてきた。
「痛っ」
なんて人だ。 子供か。
シュン……
無意味に治癒が起きて、痛みが引く。
「ほら、遊んでないでさっさと座って食べろ。Dr.ヘッドランド、貴女もお腹が空いたのなら、自分で厨房に注文なさい」
怪人とマッドサイエンティストが、賄で女将軍に注意される。
「へーーい、へい」
カツカツカツ……
Dr.ヘッドランドは不貞腐れたように返事をすると、壁にある内線に向かった。
「べぇーー」
僕はその背中に舌を出しながら、診察ベットに座る。
「いただきまーーーす」
腰横にお盆を置き、おにぎりを掴んで齧りついた。
「んっ!」
噛むと、炊き込みご飯が口の中でほろほろと崩れる。
上品な味つけと、お米本来の甘みがマッチしていて美味い。
食べ進めると大粒のハマグリに当たる。
ハマグリは甘辛い煮物で、濃い目の味つけが、ご飯のオカズにピッタリだ。
しかも噛めば噛むほどに、味が出る。
「今忙しくて配達は出来ないだと? ……食堂に来て食べてくれって……チッ! 分かったよ、じゃあ誰かそっちに向かわせるよ」
ガチャ!
いったん、Dr.は乱暴に内線を切ると、またすぐにどこかにかける。
「……ああ、紗弥か? 悪いが今から食堂に行って……」
Dr.は内線で誰かと話し始めた……
ずずずず……
僕はそれを横目で見つつ、喉が詰まり気味になったので、豚汁を一口飲む。
「んあぁぁぁ……」
具だくさん野菜から出た、出汁の効いた豚汁は、五臓六腑に染み渡り、疲れて冷えた体を温める。
カラー1将軍は、本当に料理上手のようだ。
「ふふ、そうやって黒髪で豚汁を啜っていると、マスクをしていても、確かに普通の大学生って感じだな」
食べてる僕を見下ろしながら、カラー1将軍が、しみじみとそう言った。
「へ? あぁ、そうか……濡れて、金髪が落ちてるんですね」
僕は前髪を少し引っ張り、確認しなが聞く。
「超科学瞬間染髪料【カラー1プッシュ将軍ゴールド】は、天才であるこの私が作ったからな。海に落ちて、綺麗サッパリ取れたようだ」
賄の注文を終えたDr.が、戻って来て、会話に入る。
「そのネーミング、本当になんとかなりませんか?」
カラー1将軍がウンザリした様子で聞く。
「もう、この名前で登録申請したから無理だ、と出撃前にも言ったろ? ドンマイ」
Dr.がカラー1将軍に向かって、最高の笑顔でいいねっ! と親指を立てた。
(この人は本当に、こーゆー悪ふざけが好きだよなぁ……)
ぽりぽりぽりぽり……
みずみずしい初夏の野菜の浅漬けを堪能しながら、Dr.の駄目さに感心する。
「はぁ~、まったく貴女という人は……」
カラー1将軍が肩を落として、首を振る。
「まあ、今はいいでしょう……。さて、本題ですがDr.、今回ナポリタンが見せた戦闘力は、本当に素晴らしかったです。これで、譲歩してまで、紅夜叉の細胞を手に入れる必要は、なくなりましたが……」
カラー1将軍が一転、真剣に話し始めた。
「時勢を鑑みると、やはり本来の目標である[戦闘員総触手怪人化]計画に必要不可欠な、汎用BIP細胞の開発が急務でしょう。これは組織としての質問なのですが、怪人ナポリタンの成功で、そちらの研究は進みそうですか?」
真剣な口調で質問する。
「ああ、無論だ。成功体……このナポリタンの細胞を比較研究すれば、加速度的に開発は進むはずだ。ただ、汎用量産化に伴う能力低下を、どこまで抑えられるかが、課題になるだろうな」
Dr.ヘッドランドは、ポケットから煙草を取り出しつつ話す。
「やはり量産化をすると、能力が低下しますか?」
「ああ、まだ推測だが、今回、零型細胞の適合者がなかなか見つからなったのは、普通の人間に、人ならざる者が持つ特殊能力を、付加しようとしたのが原因ではないか? と考えている」
Dr.ヘッドランドはそう言って煙草を咥えようとしたが、ここが治療室だったことを思い出したのか、途中で止めた。
「なるほど。平たく言えば、【ただの人間には、荷が重すぎる特殊能力】と、いうことですか?」
「ああ、最適化された体が瞬時に治癒して、どこまでも伸びる触手を持つ……普通はこんな異常な状態に、肉体も精神も対応出来ないものだからな」
Dr.は、おにぎりを頬張る僕を、チラリと見て言った。
「なので汎用量産化をするには、総統の細胞を変質させて標準的体質者に合わせていくことになる……」
「つまり、ただの人間の細胞に近づける、ということですか?」
カラー1将軍が聞く。
「そうだ。そしてそれは、そのまま能力低下になる。【量産化=能力低下】これが私の、現状の推測だ」
第21章「戦闘後と破廉恥ボーナス」
終了まで、あと2話




