18.5 よろしくジャンヌ・ダルク8
「ひさかたのーーーー……天つ乙女のーーーー……」
「!?」
ピンクの詠じる声が耳に入り、ハッとして、そちらの方に目を向ける。
見ると、ピンクはすでに次の和歌を詠じていて、ブルーはその横で、静かに佇んでいた。
(くっ! 動けない僕を容赦なく、攻撃するつもりかっ!)
無論、ピンクは初めからそのつもりで、僕を罠にかけたのだろう。
「恋ひ心ーーーー……」
ステッキを掲げたピンクが、朗々と詠じ続ける……
「……ん? なんだ? おかしいぞ? なにかが……足りない? ……」
すぐに違和感を覚えた。
「なんだろう? …………あっ! そうだよっ! 肝心の魔方陣がないじゃんかっ!」
違和感の正体に気がついた。
アイマスクの奥の瞳を閉じ、ステッキを掲げて朗々と詠じるのは今までと同じだが、その頭上にあるはずの魔方陣だけが無かったのだ。
「焦がるる思ひーーーー……」
キョロキョロ……
「どこだっ! どこかに魔方陣があるっ!?」
龍に捕まえられたまま、可能な限り首を振って、魔方陣を探す。
……が、どこにも魔方陣は見つからない……
フォン……フォン……フォン……
唯一あるのは、足元にある、緑色を帯びた輝く魔方陣のみだ。
(この緑の魔方陣とは別なはずだっ)
僕は確信する。
なぜなら、ピンクは[ひさかたの]と詠っていたからだ。
([ひさかた]は確か、天や空、日や月、雲や光にかかる枕詞のはずだっ。なら、魔方陣の色は緑じゃないっ!)
「彼が身ぞ受けそーーーー……」
ピンクが一度目の和歌の詠唱を終えた……が、やはり魔方陣が見当たらない。
ざわざわざわざわ……
観戦している協力会員やピュア・シャイニング親衛隊、一般観光客の騒めきが大きくなる。
「おいっ! さすがにアレはちょっと反則なんじゃないかっ!?」
「さすがはピンクたん……悪に対して、容赦なし……」
「こっ、こっちに被害が及んだりしないのかしらっ!」
観戦している人々が、なぜか夜空を見上げながら、騒いでいる。
「なんだよ……打ち上げ花火でも上がってるの……かっ!?」
釣られ、何気なく見上げて驚き、言葉を失う。
フォン……フォン……フォン……
僕の頭上には、純粋な金色に輝く、大魔方陣が浮かんでいたからだ。
ビカッ!
一度目の和歌の詠唱を終えた大魔方陣は、まるで太陽が如く、強く輝きを増した。
「くっ!」
眩しくて、一瞬、目が眩む。
それでも、目を細めて大魔方陣を確認する。
そこには
ひさかたの 天つ乙女の 恋ひ心 焦がるる思ひ 彼が身ぞ受けそ
と、刻まれていた。
さらに、
「なんだよっ、アレっ!? あんなの初めてだぞっ!」
大魔方陣の周りを、二つの細長い、輝く何かが飛んでいた。
「なんだアレは? ……一反木綿? じゃないよね……」
さすがに、そんな妖怪は無関係だろうけど、形としては、それを連想させるものだった。
「空飛ぶ布……古典では、衣を着た天女を表すんだっけ……」
……待て、天女だと!?
「ひさかたのーーーー……」
ピンクの声と共に、二つの細長い何かが、輝きを増して、大きくなる。
ここ江の島で天女といえば、弁財天が思い浮かぶ。
ならば、あの細長い何かは、天女であり、弁財天となるのか?
(確かによく見ると、人の形に見えなくもない……)
「天つ乙女のーーーー……」
さらに、細長い何か……天女は輝きを増す。
そして弁財天の相手は、言わずと知れた五頭龍だ。
つまり、天つ乙女の[身を焦がすような恋心]をぶつける相手は、五頭龍。
「……僕の足を掴んでいるのは、龍……」
それに、ピュア・シャイニングは名告りの際、「闇を祓いし、天つ乙女」と言っていた。
「恋ひ心ーーーー……」
二体の天女は輝きを増す……
「……おおおぉおぉおオオオオオオォォーーーー!! 無限緊縛ォォォーーーーー!!
ドシュンンンンッーーー……
ピンクに向かって、三段目の触伸臂を伸ばす。
絶対にっ! 完成する前に、妨害しなければならないっ!
シュゴゴゴゴゴゴ……
「ぐっ、おっ、重いっ……」
ピンクまでの距離がありすぎて、触伸臂の自重を支えきれなくなる。
「それならっ!! 無限大蛇っ!!」
ズザザザザザザザザザ!!
触伸臂を下ろし、蛇のように地面を走らせる。
ビュン
「キモいぜっ!! イタリア人っ!!」
ブルーが迎撃のために、無限大蛇に向かって飛んできた。
(今はブルーの相手なんてしてられるかっ!!)
グイイン!
地を這う無限大蛇を曲げて、迂回する……
が、
「いや、ソレ無駄だぜ?」
ガシンッ
ブルーはそう言って、地を這う無限大蛇の中間部分を、ブーツで踏みつけた。
ビダッ!
無限大蛇が止まる。
「で、コレでTHE ENDだ」
ガシッ
ブルーは無造作に、二本の触伸臂を、纏めて掴む。
「うおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉーーーー!! シャイニング・ハンドパワーーー!!」
ブルーが叫んで、綱引きのように、全体重をかけて触伸臂を引っ張った。
ブッブチンッ! ブチンッ!
「あがぁぁああぁーー!!」
触伸臂が根本から千切れ飛んだっ!
シュン……
瞬時に痛みは消える……が
くらぁ~~
軽い眩暈を感じた。
いくら無限と名がついていても、伸ばし続けるには、それなりのカロリー……エネルギーが必要なのだろう。
(回収して繋げないと、再度、遠くへ伸ばすのは難しいな……)
シルシルシルシル……
近くに落ちてる触伸臂の回収を図る……
「あー、キモ」
ブンッ! ……ひゅ~~んっ……ドサッ
ブルーはそう言って、触伸臂を遠くに投げ捨ててしまった。
「あ…………」
声を失う……
「焦がるる思ひーーーー……」
攻防が耳に入っていたのか、少し止まり気味だった詠唱が再開された。
頭上の天女が、輝きを増す。
(ああ、もう……打つ手なし……だ)
絶望し、目を閉じて諦める……
その時、
ビュシュンンンンッーーー!!
「うおおぉおおぉぉおぉーーーー!! 紺瑠璃のウィップーーーー!!」
ピュア・シャイニング親衛隊の人垣の裏から、一つの紺瑠璃の輝きが、ピンクに向かって飛び出した……
第18章 「古の大魔法 戦闘和歌(歌合せ)」
終了まで、あと1話
【補足】
乙女は、現代では「おとめ」と書きますが、古い時代では「をとめ」と書きました。
【新江の島縁起 戦闘和歌集】
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