17.3 よろしくジャンヌ・ダルク3
(ううっ……僕の無限たちよ、さようなら……)
僕は心の中で泣きながら、快心の名前たちに別れを告げた……
てか、アルデンテンが一番まともに思えるなんて、どうなんってんだ? この悪の組織は。
(……でも、BIP的にはアルデンテンだけど、僕の中では触伸臂の無限と呼び続けよう)
そのくらいの抵抗はしても許されるだろう。
「ん……」
もぞもぞもぞ……
改めて黒マントの中で触伸臂を動かす。
外からは完全に隠れて見えない。
この状態で、黒マントの切れ目から突然、触伸臂が伸びてくるのだ。
相手からすれば、出所が見えず、ノーモーションで放たれるので、実際のスピードより速く感じるだろう。
(二人がどんな作戦会議をしているのかは分からないけど、この無限たちがある限り、後れを取ることはないぞっ)
決意を固めて、ピュア・シャイニングを見つめる……
「わっ!? 急に何さっ!? じっちゃんっ。驚かすなよっ」
ひそひそ話をしていたブルーが、突然、大声を上げた。
「ほへ? 作戦を授けるぅ? それ、どんなんのよ?」
ブルーが誰もいない方向に向かって、独り言のように何かを話している。
おそらく、誰かと通信しているのだろう。
僕は耳をそばだてて、集中して聞く。
「えっ!? ステッキを使え!? いやぁ、あたしアレ苦手なんだってっ。コテコテの魔法少女って感じでハズくてさ」
ブルーが頬を指でポリポリとかきながら言う。
「え? ふんふん……ほうほう……あぁ、なるほどね……」
ブルーがコクコクと頷く。
その横で、ピンクも苦笑いで頷く。
「分かった。そーやってイタリア人を騙せばいいんだなっ。……へ? 何? [作戦をバラすな]、だあ~? いやいや、あたし作戦なんてバラしてないぞっ。……なあ?」
ブルーがピンクにアイコンタクトを送る。
ピンクは苦笑いを浮かべつつも、[大丈夫]といった感じで、頭を縦にふった。
「なあ?」
次に、ブルーは僕に目線を送って[大丈夫だよね?]と言わんばかりに、小首を傾げた。
もちろん、僕は黙って、[大丈夫じゃないよ]と、首を横に振った。
「OK! イタリア人は日本語分からないから大丈夫だった」
どう解釈したか、ブルーは自信満々でそう言い切った。
「……うんうん、分かったって……はいはい……分かった分かった……はいよ」
「うん、私もそれで大丈夫。……うん……うん……」
二人が誰かと話し込んでいる……
「え? あぁ、はいはい、じっちゃんじゃなくて長官ね。分かったよ。はい、通信終わり。……たく、ピンクのとこのじっちゃんは、話が長いなぁ……」
ブルーが適当な返事を繰り返した後、通信を終えた。
「おしっ! タイム終了っ、待たせたなっ、イタリア野郎」
シュタッ!
ブルーが気さくに手を上げた。
「さて、一丁やりますかっ」
そう言ってブルーは、腰のベルトについていた、手の平サイズのハート型のワッペンを掴み、外して前方に突き出した。
「ていっ!」
魔法少女とは思えないかけ声をかける。
ピシキンッ☆
ハートのワッペンは一瞬で伸びて、いかにも魔法少女の持ち物といった感じの、可愛らしい魔法のステッキになった。
ざわざわざわざわ……
「おいっ、再開されるみたいだぞっ!?」
「おーーい、始まるぞっーー!! 戻れーー!!」
「おおっ、ブルーたんが魔法のステッキを持ったぞっ! レアだなっ!」
異変に気がついた協力会員や、ピュア・シャイニング親衛隊が観戦位置に戻る。
(いよいよ来るか。どんな作戦か分からないけど、負けないぞっ)
僕は気持ちを引き締めた。
「んじゃ、始めるぜっ。ピンク、準備は良いなっ?」
ブルーが魔法のステッキを構えて、ピンクに聞く。
「良候ふ」
ピシキンッ☆
ピンクもワッペンを伸ばして、魔法のステッキにする。
しん…………
騒めきが消えて、広場の空気が一気に引き締まった……
「よしっ! ……おんりぁぁぁーーー!」
ドシュンンンンッーーー
突然、ブルーが咆哮し、魔法のステッキを振りかぶったまま、突進してきた。
「はい?」
あまりのことに、呆気に取られて首を傾げてしまう。
ブンッ!!
ハート型を先端にして、ステッキで殴りかかってくる。
「おっと」
当然、避ける。
ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!
それでもなお、ブルーはステッキを振り回す。
水走る~~~~……
「えっ!? いやっ、ちょっとっ! ブルーっ! その使用法は間違ってない!?」
避けながら、可愛いステッキを打撃武器のように使用することに、強い疑問を持つ。
垂水の落つる~~~~……
ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!
「そっちの長官って人はそれで殴れって指示したの!? そのステッキで魔法を使えって指示したんじゃないの!?」
思わず片言を忘れ、素の日本語でブルーに聞いてしまう。
龍口の~~~~……
ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!
だがブルーは聞く耳を持たずに、遮二無二ステッキを振り回して、殴りかかる。
大振りだし、大したリーチもないので、なんなく避けられる。
激しき飛沫~~~~……
(この子は何だかなぁ……)
その変な姿は滑稽で、微笑ましく、そこはかとなく可愛らしい。
戦っているのに、思わず顔がニヤけてしまう……
彼が袖濡らす~~~~……
ポンッ
「馬鹿者っっ!! ブラフだっ!! 油断するなっ、ナポリタンっっ!!」
雲隠れして姿の見えない将軍の怒声が、骨伝導で頭に響き、ハッと我に返る。
回避行動を取りながら、注意して視界を広げる。
すると視界の端に、目を瞑り、魔法のステッキを高々と掲げたピンクの姿を捕えた。
ぶわん……
そしてその頭上に、大きな魔方陣が現れているのにも、気がついた。
青みを帯びた金色に輝く大魔方陣は、緩やかに回転している。
「水走る~~~~……」
すすす……
ピンクが朗々と何かを唱え、ゆっくりとステッキを動かす。
不思議なのは、大魔方陣の中に、何かの日本語が書かれていることだ。
(何だろう? 祝詞……かな?)
純白の和風衣装から、つい神社の巫女を連想してしまう。
「垂水の落つる~~~~……」
すすすすす……
ピンクは、まるで空中に文字でも書くように、ステッキを振る。
ピンクの言葉と共に、同じ文句が大魔方陣に刻まれていく……
「龍口の~~~~……」
すす……すすす……
文句が刻まれた大魔方陣が、回転をしながら輝きを増していく……
「ピュア・シャイニングの魔法攻撃[戦闘和歌]だっ!! 気をつけろっ!!」
通信で、カラー1将軍が叫んだ。
「戦闘和歌?」
聞き慣れない言葉に、思わず首を傾げる。
ぐわわわわわわっ!!
突如、大魔方陣から青みがかった光の龍の、頭部が出てきた。
「なっ!? なんだっ!? あのデカい龍はっ!?」
思わず、たじろいてしまう。
治癒の小龍とは比べ物にならない、人間の身長の倍はある、巨大な頭部だった。
「激しき飛沫~~~~……」
すすす……すすす……
なおもピンクが詠ずる。
と、いつの間にか、ブルーの打撃攻撃が止んでいることに、気がついた。
キョロキョロ
ブルーを探す。
タンッタタンッ! ……スタッ
すでに僕から離れていたブルーは、軽やかに、ピンクの近くに着地した。
ニヤリ
僕と目が合ったブルーは、小生意気にステッキをクルクルと回して弄びながら、口元を吊り上げた。
「彼が袖濡らす~~~~……」
すす……すす……す
ピンクがステッキを振り終えた。
輝く大魔方陣には、
水走る 垂水の落つる 龍口の 激しき飛沫 彼が袖濡らす
と、しっかり刻まれていた。
ぐばっ!!
青く光る巨龍の口が、大きく開かれた。
その巨大な目と口は、しっかりと僕の方を向いている。
(よく分からないけどっ、絶対にヤバいやつだっ!!)
怪人の本能というより、生存本能が危険を告げていた。
ダダダダダダダッ!!
前傾姿勢で真横に向かって走り出す。
ぐぐぐぐぐぐぐ……
だが、巨龍はゆっくりと頭を動かし、視線と開いた口は、僕を捕え続ける。
嫌な予感しかしない。
次の瞬間、ピンクがアイマスクの奥の目をパッと開いた。
ビシシィィ!!
「走垂龍激!!」
ピンクが、疾走する僕に向かって、ステッキを振り下ろした。
ドバッザザザザアアアアアァァアアァァァアァーーーーーー!!
第17章 「密談 ✕ 密談?」終了
読書、お疲れ様でした。この章はこれで終了となります。
次は第18章 「古の大魔法 戦闘和歌(歌合せ)」(6話)になります。
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【「走垂龍激」の解説はこちら】
新江の島縁起 戦闘和歌集
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