17.1 よろしくジャンヌ・ダルク1
Another side 中央作戦司令室(通称 指揮所)
「「「「おおおぉおおぉぉおおぉおぉぉ……」」」」
中央作戦司令室がざわめく。
そのざわめきの声色は非常に明るい。
「腕の下から生える六本の太い触手……話に聞いたお父様の能力と同じだわ。ナポリタン、素晴らしいわ」
総統が感極まった様子で、モニターを見惚れる。
(……お母様の命日にこんな怪人が誕生するなんて……不思議な縁を感じるわね……やはり今日、強引に作戦を決行したのは正しかったわ……)
総統は、賭けに出たごく私的な理由を思い出しながら、モニターに映る怪人ナポリタンを見つめる。
そんな総統だけではない、中央作戦司令室にいる全員が、仕事を忘れたようにモニターに目を奪われていた。
「かっかっかっかっ! そうでぃ。あれこそがぁ、無限触手ってぇやつだぜ、弁天様」
パチンッ
ソフトマスクの下部を捲り上げてお茶を飲んでいたスギヤマン将軍が、深い皺が刻まれた口元を大きく歪ませて、莞爾と笑い、自身の膝を叩いた。
「はいっ。……さて、あの無限触手にも、良い名前をつけてあげなければいけないわね。なにが良いかしら……」
総統閣下が嬉しそうに返事をしたあと、ネーミングの思案を始めた。
(くくくくくくっ、弁天様が[いたりあ怪人]と名づけた時ぁ、心底驚れぇたが、さらに無限触手まで使うとはなっ。こいつぁ運命ってやつかねぇ? とにかく、文目様には良い報告が出来そうだぜっ)
スギヤマン将軍は、無限触手を使う二代目イタリア怪人の出現に内心でほくそ笑み、初代総統に思いを馳せた。
「ふふふふふふふっ、自分でスーツを破いた時は[どんな露出狂か?]と頭を抱えたが、まさかすでに完成体になっていたとはなっ。さすがは唯一の適合者といったところか」
Dr.ヘッドランドが不敵に笑い、感心する。
「……いや、それもこれも全て含めて、細胞開発者が優秀だったお陰だな。つまり私は天才だ」
Dr.ヘッドランドは清々しいまでに自画自賛をし、自身に感心した。
「おいっそこのお女中っ、私にはコーヒーを入れてくれっ!」
Dr.はスギヤマン将軍を真似るように一人のCPオフィサーに声をかけた。
「へっ! なに言ってやがるっ、全て弁天様のお陰の間違いだろっ、この藪医者」
スギヤマン将軍は憎まれ口を言いながらも、その声色には開発者を労うような親しみが含まれていた。
「悠、コーヒーに砂糖とザーメ……ミルクは入れるか?」
お女中と呼ばれたCPオフィサーが奇妙な問いを返す。
「いや、ブラックで頼む」
Dr.ヘッドランドはそのCPオフィサーの問いの奇妙さに気がつくことなく、軽く返事をすると、モニターに目を戻した。
「合点承知の助平」
そして他の者たちも、そのCPオフィサーの奇妙さに気がつく人間はいなかった……
…………………………
是陽 side
「何度も騙してっ、卑怯だぞっ、イタリア人っ!!」
追撃をなんとか逃れ切ったブルーが、光の小龍に治癒されながら叫ぶ。
その姿はちょっとデジャビュだった。
「こちらの手の内は強い戦闘員さんを使って曝け出し、自分の手の内は攻撃するまで見せない……貴方はかなりの策士ですね……」
ブルー救出のために、自身もかなりの攻撃を喰らったピンクも、光の小龍に治癒されながら、僕に恨み節を投げかけた。
(くそっ……一人では追撃し切れなかった……)
追撃を断念した僕は、互いの攻撃が届かない位置に佇み、悔やむ。
あの後、ピンクはどこに向かうでもなく、縦横無尽に大亀ヶ岡広場をただ逃げ回った。
ブルーの運搬直後から、光の小龍の治癒が始まり、ブルーはおろかピンクまでも、見る見るうちに回復してしまったのだ。
治癒のお蔭で、途中からブルーは自力で逃げ始めた。
バラバラに逃げ回る二人を追うのは、完全に徒労だったので、諦め、こうして佇んでいるのだ。
シュン……
二人の周りを飛び回っていた小龍が消え去った。
どうやら、治癒が完了したようだ。
「……………………」
二人の様子をジッと観察する。
(……衣装も全部、綺麗に治っているし、なにより二人ともピンピンしている……これ、終わりはあるのか?)
底知れない相手に、焦燥感を覚える。
「こらぁーーーー!! 聞いてんのかぁーー、変態イタリア男ぉーー!! ちょっとは、正々堂々と戦えーーーーっ!!」
ぶんっぶんっ
黙り込んでいた僕に対して、ブルーが手を振りながら叫ぶ。
「Ho! Signorina、オ元気デェーースネーー」
内心の戸惑いを隠し、手を振り返す。
(しかし、悪の怪人なんだから、卑怯に決まってるじゃんね)
お気楽というか、あまり正義に対する信念みたいなものが、ブルーにはないように感じた。
「イタリア人っ、作戦練るから、ちょっとタイムなーーーー?」
ブルーが両手でTの字を作り、堂々と宣言した。
「へ?」
あまりのことに、固まる。
そんな僕をよそに、二人はさも当然といった様子で、なにかヒソヒソと話し始めた……
…………………………
Another side
「あたしアイツ駄目。触手キモいし、変に頑丈だし、ペース崩されるし、苦手かもしんない」
「珍しいね、対戦相手でお化け関係以外で、夏音ちゃんが苦手だって言うなんて」
「いやいや、あたしお化けなんて怖くないから。ヨサノンだろうが与謝野晶子だろうが、余裕でぶっ飛ばせるからな」
「ふふっ、与謝野晶子はぶっ飛ばしちゃ駄目だよ? ……冗談はさて置き、私もこの怪人さんは本当に強い……ううん、本当に上手いと思うよ」
「単純な強さじゃなくて、自分の能力を上手く使うことに長けているよね。こういう搦め手を使う相手は、夏音ちゃんとは相性が悪いかもね」
「かもなぁ……しかし、あのイタリア人さぁ、何かあたしばっかり攻撃してこないか?」
「ふふふっ、あの怪人さんに好かれちゃったのかもね。それに夏音ちゃんも、自分からもよく突っかかっていくから……あっ! いけないっ! また将軍さんがどこかに隠れちゃったっ。また鞭に、怪しい力を溜められちゃう……」
「チッ、あっちもメンドイよなぁ……しかしあのエロい格好の将軍もよくやるよ。あたしなら絶対あんなヤラシイ服は着ないぜっ。もしこの衣装がエロかったら、絶対、ピュア・シャイニングにならなかったな」
「あっ、うん。[龍体素子集引変換加速機巧]が勝手にデザインするらしいけど、本当にコレで良かったよね」
「ま、ちょっと足が出過ぎな気もするけど、動きづらいのも困るしな。……あ、でもあのエロイタリア人、足に触手を絡める時、妙に動きがエロいんだよっ。戦闘中にキスしようとするしさ、エロ将軍といい、あいつらとんだ変態コンビだよなっ」
「そっ、そうなのっ!? それは破廉恥で極悪な外人さんだねっ。退治しなきゃ」
「だなっ。あいつは人類の敵の前に、乙女の敵だな」
「うーーーん、でも、そんな破廉恥な外人さんと、どう戦えばいいのだろう……」
「もう、アレしかないんじゃないか? たぶんあのイタリア人、この調子だともう一つか二つ、奥の手を隠してるぞ?」
「そうだね。でも使いどころが難しいし……何かこう、上手い突破こうがあるといいけど……」
「………………」
「あの……何か[こう]、と突破[こう]をかけて……」
ピロピコピーン
「あーあー、ピンクとブルーよ、聞こえとるか? ワシじゃ、長官じゃ……」
…………………………
第17章 「密談 ✕ 密談?」
終了まで、あと2話




