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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希


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1.6 Computer Children5

ちょっとだけ、作者紹介

綿野草わたのくさ 空希うつけ

風に飛ばされるたんぽぽをイメージして、名をつけました

空希は[そら]ではなく[うつけ]と読みます

 天紫野会長が何も言わずに、まじまじと僕を見つめる。


 その視線で、我に返った。

 「ああっ……あの、つ、つい一人で熱苦しく語ってしまって……ご、ごめんなさい……」

 慌てて頭を下げる。


 熱くなると、急に滑舌良く持論を展開するのは、オタによく見られる癖だ。


 恥ずかしい……


 「貴方。……中々見所があるわね。感心したわ」

 天紫野会長が、どこまでも遠くまで見通せそうな澄んだ瞳で、ジッと僕を見てきた。


 「私のことを知っていたし、その制服、ウチの学校の生徒よね、貴方名前は?」


 「ゆっ、由比里是陽です。同じ二年生であの……隣のクラス……です」

 天紫野会長の澄んだ瞳に吸い込まれそうになって、慌ててまた目をそらして答える。


 「由比里、是陽、ね。覚えたわ」

 天紫野会長は満足気に、ウンウンと頷く。

 「貴方の家はこちらなの?」


 「いえ、家は鵠沼駅の方でして……今日はこれから、小田急線片瀬江ノ島駅前のロータリーで、友達と待ち合わせなんです……」


 「そう。私は江ノ島の家に向かうところなの。途中まで一緒に参りましょう」

 天紫野会長はびっくりするような提案をして、問答無用で僕を促した。


 断れるはずもなく、緊張しながらも、ついて行く。


 江ノ島電鉄江ノ島駅から海岸を目指して、観光客向けの店が多い[すばな通り]を、二人で歩く。


 天紫野会長は背筋をピンと伸ばし、しっかりと前を向いて、堂々と歩を進める。


 (緊張するけど、ギャルゲーに理解のある女子なんて貴重な存在だよね。ここは頑張ってお話しして、友達になれるようにしよう)


 横を歩きながら、一人決意を胸にする。


 「……あのぅ。……江ノ島の中に家があるんですか?」

 とりあえず、ありきたりの話から入ってみる。


 「ええ、島内に別邸がね。本邸は七里ガ浜の丘にあるわ」

 さらっとお嬢様発言が飛び出す。


 「家は島内で幾つか事業をしているから、別邸は仕事のための事務所みたいな物ね」


 「なっ、なるほど……」

 生きている世界が違うなぁ、と感じながらも、分かったように、ウンウンと頷いてみせる。


 じわり……と汗をかき始めたので、ハンカチを取り出す。


 すばな通りは、途中で微妙な上り坂になる。


 なので、太っている身では、歩くと汗をかいたり、膝に負担がかかったりするのだ。


 「……し、仕事のための別邸に行くという事は……あ、天紫野会長も何か仕事を手伝っていたり……してます?」

 汗を拭き拭き、尋ねる。


 「うーーん……そう……ね。……そう、一つの事業を今、任されているわ」

 天紫野会長は珍しく少し言い淀んだが、すぐにハッキリと言い切った。


 「私は天紫野家の一人娘。いずれ全ての事業を継がなくてはならないわ」

 綺麗に背筋の伸びた天紫野会長が、揺るぎなく話す。

 「だから今から、家の仕事をしているのよ」


 「ほへぇーー、この年で凄いですねっ。尊敬しちゃうなぁ……」

 僕なんかは、将来ライターやノベル作家に成りたいとは考えているが、卒業後は進学なのか、就職なのかさえまるで決めていない。


 なのに、天紫野会長はもう将来を決めて働いているなんて……


 「……あの、話は変わっちゃうんですけど……天紫野会長は何で、ウチの学校に入ったんですか?」


 「実家が七里ガ浜の丘なら、そばに七里ガ浜高校がありますし、会長の学力なら、鎌倉の有名私立とかにも入れると思いますけど……」


 段々と緊張も解けてきたので、色々と聞いてみる。

 「どうして、小動高校を選んだんですか?」


 「私のお父様とお母様が昔、小動高校に通っていたのよ」


 「だから私もお二人の母校……お父様とお母様が出会った小動高校に入学すると、子供の頃から決めていたの」


 潮風を浴びながら真っ直ぐ前を……江ノ島の方を見つめながら話す天紫野会長の姿に、僕は一瞬、神々しさを感じてしまった……


 「あぁ、何か素敵な考えですね、それって……凄く良いなと思います」


 きっと天紫野会長は、ご両親のことが、とても好きなのだろう。


 天紫野会長の外見だけではない美しさに、また正視出来なくなった僕は、アスファルトに視線を落として返事をした。


 「……ありがとう。うん、ありがと……」

天紫野会長は、噛み締めるように返事をした。


 すばな通りの終わりが近づいてきた。


 「それで、待ち合わせのお友達とは、ウチの学校の……男子……生徒かしら?」


 「あっ、はい。僕と同じオタっ、……ギャルゲー好きで、二人とも同じクラスです」


 「そう。……そう」

 天紫野会長は、こくりこくりと頷く。


 突き当たりの、国道134号に出る直前にある観光案内所の横で、二人立ち止まる。


 「あの……じゃあ、僕はここで……」


 「ええ、楽しかったわ。またお話ししましょう」


 「はい、また」


 「ええ、また。ごきげんよう、さようなら」


 「さようなら」


 天紫野会長は、背筋をピンと伸ばして、地下道に下りて[江ノ島弁天橋]に向かった。


 その凛とした背中を見送ってから、僕は右に曲がり、小田急江ノ島線片瀬江ノ島駅の方角に向かって、境川にかかる[弁天橋]を渡った。

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