14.1 エロティック・セブン EROTIC SEVEN6
「おおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!」
広場の外側、ピュア・シャイニング親衛隊とやらの一団から歓声が上がった。
「流石ブルーたんっ! 容赦無しっ!」
「そこに痺れる憧れるっ!」
「ピンクたんも良かったよー!」
やんや、やんやと盛り上がり声援を送っている。
「……シ……シマ……」
その歓声を聞いた武道家タイプと柔道家タイプの親衛隊員が、なおもヨロヨロと起き上がろうとする。
「親衛隊っそこまでっ!!」
骨伝導で、総統閣下の凛とした声が聞こえた。
二人の動きがピタリと止まる。
「四人共、パワースーツのみでよく戦ってくれました。お見事でした。後は主戦力の二人に任せて、休んで下さい」
総統閣下が労わるように、穏やかな声でそう告げた。
「シマァ……」
親衛隊員が悔しそうに返事をした。
いくら相手が魔法少女とはいえ、格闘家としては、素人の小娘に負けるのは歯噛みする思いだろう。
ドタドタ・ドタドタ……
数名の戦闘員が、親衛隊の四人に駆け寄り、救護に当たる。
倒れ伏していた他の二名も意識が戻ったようで、親衛隊の四人は戦闘員たちの肩を借りながら、粛々と撤退していった。
「さて……それであんたらは、いつまでそーやって、高みの見物を決め込むつもりなんだ?」
ブルーがそう言い放ち、ツカツカと、無防備にこちらに向かって歩いてくる。
「貴方たちが今回の乱暴狼藉を主導していたのですよね?」
一方ピンクは白弓をワッペンに戻して腰に収めると、油断なく、慎重に歩いてくる。
「将軍さん、もう悪事は働かないと約束して撤退して下さい。大人しく引き下がるのであれば、私たちは追撃したりはしませんから」
ピンクが諭すように言う。
「ふんっ! 小娘共がなにを戯言をっ」
将軍が軽く鼻を鳴らして一蹴する。
「この江の島は総統閣下の支配地ぞっ、立ち去るべきは貴様らの方だっ」
腰から鞭を引き抜き、柄先をピュア・シャイニングに向けて言い放つ。
「まあ、我々は貴様らのように甘えたことをヌカすつもりはない。我等の覇道を邪魔する貴様らは今殺す。撤退するのであればいつか総統閣下に仇名す貴様らをどこまでも追撃して殺す」
淡々と、だが力強く宣言した。
「そんな……」
将軍の返答を聞いたピンクは、酷く残念そうな声を出して肩を落とした。
「へんっ! 無駄だよ、ピンク。こんな馬鹿なことを仕出かす奴等なんてのは、一発ブチのめされて這い蹲らないと分からないんだよ」
一方、ブルーはヤル気満々なようで、ビシリと構えて、いつでも戦闘を始められる体勢をとった。
「這い蹲るだとぉ? はっ、片腹痛いわっ! 地に伏すのは貴様らの方だっ!!」
言い放った後、突然将軍が大仰に、僕を鞭の柄で指し示した。
「見ろっ! 今日は貴様らに引導を渡すために、最強の怪人を用意してやったぞっ」
(へ? ……あっ、僕のことね)
ついアルバイト戦闘員の頃の癖で、部外者のようにワクワクと三人のやり取りを黙って見入っていたのだが、突然のご指名で、自分が怪人だったことを、はたと思い出した。
「さあっ、死に逝く餓鬼共の冥土の土産に、貴様の恐怖に満ちたその名を、名告ってやれっ!」
カラー1将軍がそう叫ぶと、ピュア・シャイニングの視線が僕に向く。
大外の戦闘員も、さらにその外側にいる協力会員やピュア・シャイニング親衛隊の視線も、一斉に僕に集まる。
パチンッ
撮影小隊の戦闘員が照明をたき、スポットライトを僕に浴びせる。
「えっ!? ………」
完全な[今夜の主役]扱いに、一気に緊張が高まり、スポットライトの中で硬直する。
「総統閣下につけて戴いた、ありがたい名前があるだろっっ! それを早く名告れっ」
将軍が紺瑠璃のウィップで口元を隠しながら、小声で催促してくる。
「あっ! えっと……僕はですね……その……」
(うわあぁぁ、この衆人環視の中で、ナポリタンって名告らないといけないのかぁ!? 小っ恥ずかしいよぅ……)
ただでさえ耳目を集めて恥ずかしいのに、あんな変な怪人名を名告らないといけないとは……ついつい小声でごにょってしまう。
「そうじゃないっ! もっと大声で、おどろおどろしく名告るんだっ」
さらに将軍が小声で注意してくる。
「ナポリタンっ、ちゃんと悪の怪人らしいポーズもつけるのよっ」
続けて通信で、総統閣下も無茶振りをしてくる。
「蝦蟇石怪人ケロリンと名告んだぞ。間違えるなよ?」
Dr.ヘッドランドも、通信で無意味なミスリードを狙ってくる。
「おう、そこの女中さんよ、ちっと茶ぁを一杯淹れてくれねぇか? 熱ちぃやつなっ」
通信に余計な音声まで入る。
「合点承知の助平」
無線でお女中と呼ばれたCPと思われる人が、ヘンテコな返事をするのも聞こえた。
「早くしろっ! 早くしないとスポットライトの中、CPACをフルコーラスで歌わせるぞっ!」
業を煮やしたカラー1将軍が、得物の鞭をビュンと伸ばした。
「ううぅぅぅ……」
ここまできたら、覚悟を決めるしかない。
「いっ、いっ……イタリア怪人っ! ナポリタンだぁっ!!」
スポットライトの中、即興でマントをババンと翻す適当なポーズをつけながら、嫌々、大声で名告りを上げた。
しんっ………………
大亀ヶ岡広場が静寂に包まれる……
さらさらさらさら……
風で揺れる江の島の木々の音が、やけに響く……
しんっ………………
時が止まったかのように、なんの反応もない。
「ナポリタンっ! もう一度っ、もう一度、大きな声でっ! 思い切りよくっ!」
唯一、総統閣下だけが、そう催促してきた。
(ううううっ、こうなったら自棄だっ!!)
もっと派手にやってやるっ!
スタッ・バババッ!
モデル立ちのように、スラリと伸び上がるような姿勢で立ち、右手を横に真っ直ぐ伸ばして、マントを広げる。
スパンッ
左手は曲げて、手の平を後頭部に添え、挑発的に顎を上げて、右斜め上に顔を向けた。
タタンッ!
そのポーズのまま、2、3度、華麗に足踏みをする。
バンッ!
「いっ……イタァァァリア怪人っ!! ナポォォーーーーリタンっ!! だぁぁぁ!!」
丹田に力を込めて、精一杯、大声で叫んだ。
「ナポォォーーーーリタンっ!! だぁぁぁ!! ……」
「リタンっ!! だぁぁぁ! ……」
「だぁぁぁ……」
「ぁぁ……」
僕の名告りが、静かな江の島の空に木霊した……
(あぁ……なんで僕、自分自身の好物を、ポージングしながら力一杯叫んでいるんだろう?)
ポーズを取ったまま、人生の理不尽さに思いを馳せた……
第14章 「今晩の主役はナポリタン(晩御飯の話じゃないよ)」
終了まで、あと2話




