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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希
3 初出撃からの爆誕

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7.9. 怪人君の空9

 BIPの、高校生怪人化禁止規定? について


 現在、BIP内において、この種の規定は確認されていない。

 「それはずいぶんな言い草ですね、Dr.ヘッドランド」

 地下路の先から、よく通る声が返って来た。

 「もしや私の年齢を、揶揄やゆしているのですか?」


 「えっ!? カラー1将軍っ!?」

 僕は驚き声を上げる。


 なんと、いつものセクシーなボンデージを着たカラー1将軍が、地下路の行き止まりで仁王立ちをしていた。


 その背中側にはエレベーターのような扉がある。


 「シマーーー!!」

 すかさず直立不動になって将軍に挨拶する。


 「おや将軍殿、聞こえていたのか? そいつは失敬、失敬」

 研究室長よりカラー1将軍の方が地位が上のはずなのに、Dr.ヘッドランドは将軍に全く萎縮いしゅくすることなく、平然と手をヒラヒラと振りながら歩み寄る。


 「ふんっ、ワザと聞こえるように話したくせに……まったく、貴女は昔から、いつもそうですね」

 そんな態度でそばまで来たDr.ヘッドランドに、カラー1将軍は激怒することもなく、諦め声で返した。


 僕も早足で、カラー1将軍のそばまで近づく。


 「おい、今回お前をサポートしてくれるカラー1将軍だ。御大おんたい自らサポートに名乗り出てくれたんだ。将軍が随伴ずいはんしたら間違っても死ぬことはないだろうから、よろしくご教授してもらえ」

 Dr.ヘッドランドは、カラー1将軍の不平を軽く聞き流して、硬直している僕の肩をポンと叩いた。


 「で、彼が新怪人ですね? ふむふむ……」

 カラー1将軍が、上から下まで、舐めるように観察する。


 ちょっと緊張……


 「話した通り、土産物のマスクに通信機能をつけた。パワースーツは戦闘員用の量産型のままで、黒マントで隠した」

 Dr.が簡素に説明する。


 「大学生だそうですが、この髪は?」

 カラー1将軍が、僕の頭を指差して聞く。


 「ああ、[カラー1プッシュ将軍]で染めた。元は黒髪だ」


 「そうですか……って、そのネーミング、どうにかなりませんかっ」


 「申請済みだから、もう、どうにもならんだろうな。ドンマイ」

 Dr.が、カラー1将軍に向かって[いいねっ!]と親指を立てた。


 「まったく……貴女って人は、どうしてそうなんでしょう……」

 カラー1将軍が頭を抱えて、ため息をついた。


 (あ……なんかこの二人……仲が好い?)

 冷徹無慈悲なはずのカラー1将軍の態度が、妙に柔らかい。

 二人の様子は、まるで姉妹が会話しているように感じた。


 「ま、そんな感じだな。私の仕事はここまで。後は任せた」

 Dr.はカラー1将軍に向かってそう言うと、さっさときびすを返す……と、その時。


カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン……

 唐突に、この場に不釣合いな下駄の音が、こちらに近づいて来ているのが分かり、Dr.が足を止めた。


 寸刻後、地下路の曲がり角から、ぬっと人影が現れでた。


 「おうっ、てめぇらかしましくやってやがんなっ」

 そう言ってシュタッと手を上げ近づくのは、不気味な一つ目のフルフェイスマスクを被った[一つ目怪人スギヤマン]将軍だった。


 「そいつがぁ、期待の新怪人かぁ……なんでぃ、随分と若そうじゃねぇか」


「シマーーー!!」

 すかさず、直立不動になって挨拶をする。


 説明しようっ! (僕のナレーション口調を……以下略)


 [一つ目怪人スギヤマン]将軍……この将軍は[杉山検校]をモチーフにした古株の怪人であーる。


 杉山検校とは、江戸時代の盲目の鍼師で、江の島の弁財天に深く帰依した人物として知られているのだ。


 そして、彼にはこんな逸話も残る。


 盲目の杉山検校が、徳川将軍綱吉の病を治した際、欲しい褒美を聞かれて[一つ、目が欲しい]と答えた。


 すると将軍綱吉は、江戸の[一つ目]という土地の屋敷を、杉山検校へ褒美として与えた……こんな話である。


 [一つ目怪人スギヤマン]将軍の、顔を完全に覆うスケキヨのような不気味なソフトマスクの、片目が塞がって一つ目にしてあるのは、おそらくこの逸話からインスピレートされたのだろう。


 スギヤマン将軍は、藍色のかすりの着物を着て、すそを端折って帯に挟む、いわゆる尻端折しっぱしょりをして、股引ももひきが見えている。


 そこに下駄履きなので、まるで時代劇の始末屋みたいな格好であーる。


 しかも特技は、針による攻撃であーる。


 もう、完全に始末屋さんであーる。

 あーる……。あーるあーる……。


 「おや? ご老体も、共に出撃するんで?」

 現れたスギヤマン将軍に向かって、Dr.ヘッドランドがからかうように、軽口で聞く。


 「へっ! 馬鹿抜かすねぇっ。こちとら、もう何十年も戦闘なんてしてねぇよ」

 下駄を鳴らし近づきながら、威勢の良い江戸弁で言い返す。


カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン

 「俺ぁようっ、皮被った餓鬼が、鬼女どもに囲まれて萎縮してんだろぅと思ってよぅ、ちっと励ましに来てやったんでぃ」


 「鬼女とはまた随分ですね、杉山将軍」

 「剥けてますっ! シマーーー!!」

 「ご老体だって、顔に皮被ってるじゃないか」

 一斉に三者三様の反応を見せる。


 しかしスギヤマン将軍はそんな反応に一切構うことなく、力強い手で僕の肩をガシッと掴んだ。


 「おうっ坊主よ。おっかねぇねーちゃんが要るからって硬くなっちまったらぁ、実力なんて出せやしねぇぜ。もちっと肩の力を抜きねぇ」

 僕の肩をグイグイと揉んでくる。


 戦闘員用のパワースーツはスローな力では硬化しないので、力がダイレクトに伝わる。


(痛てててっ! なんて力だっ!)

 軽く揉んでいる様子なのに、かなり痛い。


 将軍の背丈は普通だが、間近で見ると骨太の厚みのある体だと分かる。


 手の平も、節々が張っていて、とても力強い人なのだと、身をもって知った。


 「なんでぃ、本当にガチガチだなぁ……一つ、針で打ってやりてぇ所だがぁ、時間がねぇから仕方ねぇ、今はこのねーちゃんのでけぇケツでも撫でて[りらっくすぅ]しろやっ。俺がぁ許可する」


パチンッ!

 スギヤマン将軍はそう言うと、近くにいたカラー1将軍のお尻をパチンッと景気良く叩いた。


「キャッ!」

 ボンデージに半分包まれたお尻を叩かれたカラーワン将軍が、思いの外、可愛い声を上げ、頬を赤くした。


 「杉山将軍っ!」

 だが、すぐさま立ち直り、凄みを効かせた声と視線で睨みつける。

 「勝手に、馬鹿げた許可なんて出さないで下さいっ」


ささっ……

 Dr.ヘッドランドは素早く、スギヤマン将軍の手の届かない位置まで後退した。


 「がっはっはっはっはっ! なんでぃ、てめぇは普段、弁天様のためなら命も惜しくねぇって言ってやがんのに、坊主の勝利のためにケツの一つも差出せねぇのかよっ」


 「坊主が勝てば、弁天様は大喜びだってぇのによぅ」


 「それとこれとでは、話が別ですっ!」

 とうとう怒り出したカラー1将軍が、紺瑠璃こんるりのウイップをホルダーから引き抜く。


 「がっはっはっはっはっ! おおっ怖ぇ、怖ぇ」

 スギヤマン将軍がカラコロンっと下駄を鳴らして、後ずさる。


 「まあ、この一戦で全てが決する訳じゃねぇんだ。てめぇらはもちっと力を抜いて、出撃しやがれ」

 それだけ言うと、スギヤマン将軍はくるっと踵を返して、背中を向け歩き出した。


 その着物の背中には大きく[一切衆生二世安楽ゑ能し満大弁財天]と染め抜いてあった。


 「んじゃ、俺ぁ指揮所に戻るぜぇ……おいっ女医、てめぇも行くんだろっ? ならさっさと来いっ」

カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン……

 下駄を鳴らしながら、ズンズン歩いて行く。


 Dr.ヘッドランドはこちらを見てちょっと肩を竦めると、すぐに後を追って、スギヤマン将軍から少し離れて並んで歩く。


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