1.4 Computer Children3
ちょっとだけ、登場人物紹介
杉山教頭 着物の着流しを着た、江戸弁の教頭
片目を瞑る癖がある
鍼灸の達人
芹園都子 無類の焼きうどん好き
教室に荷物を置いて、すかさず体育館に移動する。
今日は月一の全校集会の日なのだ。
体育館内は人熱れで少し蒸し暑く感じ……て、いるのはどうも僕だけのようだ。
ハンカチで汗を拭く。
眼鏡も拭く。
全校集会が始まり、教師からの連絡事項、生活指導教師のよく分からない訓辞の後、生徒会長の天紫野香織さんが壇上に立った。
「先日、学校近くの踏切で、観光客と我が校の生徒とのトラブルが発生したとの……」
天紫野会長が、一切、臆した表情を見せずに、堂々と話しだす。
その自信に溢れた姿には、育ちの良さと、そこから伴うカリスマ性が感じられた。
天紫野会長は僕らと同じ二年生で、実家は江ノ島周辺に、ホテルや飲食店を多数保有しているお嬢様だ。
当然のように成績は常にトップで、運動神経も良い。
しかも、龍巳さんと甲乙つけ難いほどの美人ときている。
天紫野会長は一年生の秋の次期会長選で選ばれ、今年の春から生徒会長をしている。
ウチの学校では、三年生は受験や就活があるので、生徒会長は出来ない。
なので、二年生の天紫野さんが生徒会長をするのは、別段異例ではない、ごく普通の、当たり前の出来事だ。
「……我が校の品位を落とさぬ行動を心がけて下さい」
天紫野会長の話が終了したようだ。
天紫野会長の雰囲気は、どことなくダ・カーポ3のメインヒロイン[森園立夏]に似ている(もちろん、会長さんは[森園立夏]のような金髪ではなくて黒髪だけど)と、僕らは常々話している。
……その理由は見た目だけではない。
「では最後に校訓斉唱っ!……イア! イア! フングルイ、ムグルウ・ナフ、クトゥルフ、ル・リエー、ウガー・ナグル、フタグン。母なるヒュドラっ! 父なるダゴンっ!」
天紫野会長が壇上で叫び、一人で[るー]っと万歳した。
「…………………………………………………………」
もちろん、そんな校訓は存在しない。
故に、突然発表された奇妙な校訓に、全校生徒が静まり返った。
「イア! イア! フングルイ、ムグルウ・ナフ、クトゥルフ、ル・リエー、ウガー・ナグル、フタグン。母なるヒュドラっ! 父なるダゴンっ!」
岩本校長、杉山教頭、そして生徒会顧問の女教師、一彩光瑠先生の三人のみが、よく通る声で復唱した。
そして堂々と拍手した。
パチパチパチパチ……
……パチ……パチチ……パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……
釣られて、呆気に取られていた生徒たちも、よく分からないまま、成りゆきで拍手する。
「う〜〜む、会長殿は相変わらずの厨二病で御座るなぁ……」
拍手しながら、一宮君が呆れ、ささやく。
「うむっ、そんなところも[森園立夏]に似ていて素晴らしいっ。あれでこそ天紫野嬢だ」
ダ・カーポ好きの椎名君は、満足気に強く頷く。
天紫野会長は困ったことに時々、あんな厨二病発言をするのだ。
もはや厨二病な言動は、天紫野会長の芸風と言って良いくらいで、そのせいで校内ではなんとなく、浮いた存在に見られている。
……まあ僕らとしては、とても好感が持てる人なのだが……
集会が終わり教室に戻る。
と、なぜか隣のクラス担任の一彩先生が、ウチの教室にやって来た。
一彩先生は現国の教師で、30代中頃の綺麗で優しい先生だ。
「担任の大岡先生は、ご家庭の事情で遅れるそうですので、朝のホームルームはありません」
一彩先生の口から、よく聞く台詞が出た。
皆、全く驚かない。
担任の大岡一大先生は、僕の家の近所に住む、科学教師だ。
いつもジャージの上に白衣を着ていて、時々、ヘッドギアを被っていたり、パジャマ姿で車通勤したり、授業中に爆睡したりする、ちょっと変な先生で、学校一の遅刻常習犯と言っても過言ではないだろう。
「[ランス]殿はよく遅れるで御座るな」
一宮君が笑う。
豪快な笑顔はなんとなく[アリスソフト]の人気キャラクターの鬼畜王[ランス]を彷彿とさせるので、僕ら三人は密かにそう呼んでいる。
「[ランス]に比べて一彩教諭は今日も良いな。大人の色香で、俺は倒れそうだ」
椎名君が小声で言った。
不人気な[ランス]先生に対して、一彩先生は生徒から人気が高い。
一彩先生は優しく、品があり、授業も上手なのだから当然といえる。
一彩先生が去り、その後は滞りなく午前の授業を受けた。
ちなみに、二限目の[ランス]先生の授業は、自習だった……
……………
昼休みになり、いつものように三人で、学食で食事をする。
僕は好物の、ナポリタンの特盛りをチョイス。
学食のナポリタンは、アルデンテなど忘却の彼方と言わんばかりの、ネロネロに軟らかくなったパスタに、ベタベタした甘ったるいケチャップが、極薄ベーコンと、変に辛い玉ねぎに絡み合う、ジャンクフードとして究極の域に達している、素晴らしいナポリタンだ。
混み合う学食で、空いているテーブルを見つけて、食事を開始する……と、隣にストンと人が座った。
「げっ! やっと席を見つけたと思ったら、キモオタ三人の隣かよっ」
座ったのは一年の時に同じクラスだった、芹園都子さんで、僕達の顔を見るなり嫌そうな声を上げた。
芹園さんがギギギギーーと、椅子をお尻でずらして僕から離れると、一緒に来た、彼女の三人の友人が、ケラケラと笑った。
芹園さんはギャルではないが、美人でお洒落で人気者、学校カースト上位に位置する女子で、校内美女ランキング(非公式)でもトップ10に入る人だ。
性格は気が強くて、流行などに敏感、青浜さんや龍巳さんとは違い、僕達三人を蛇蝎の如く嫌う……つまりごく一般的な女生徒だと言える。
「はぁ~、ここだけ温度が高いわ~、暑くて仕方ない」
焼きうどんを食べていた芹園さんが、手で顔を扇ぎながら、声高に独り言をいう。
太っている僕に対する、嫌味なのだろう。
「……芹園さんも、太ったから暑いの?」
つい反抗心を覚えて、思わずボソリと呟いてしまう。
「はぁぁあ!? ふざけるなっ、太ってないわよっ! アンタがデブのせいで、暑いって言ってるのよっ、このキモ里!」
芹園さんが甲高い声でキレた。
凄まじい勢いの罵倒はちょっと怖くて、余計な一言を呟いたことを後悔した。
「それに口っ! ケチャップが口の周りついてるのよっ! アンタ恥ずかしくないのっ!? この胴太モンゴイカっ!」
バンッ!
芹園さんがテーブルを叩いて席を立つ。
「あっち空いたわ、行きましょ!」
食べかけの焼きうどんが載ったトレーを持って、移動する。
「デブ」
「チビ」
「……中肉中背」
女子三人が罵倒語を残して、芹園さんの後を追った。
「ぷうぅ」
僕は芹園さんが移動したことに安堵して、軽く息を吐き、ナポリタンを貪るのを再開した。
「……なあ、中肉中背はおかしくないか? この俺はそんなにキャラが薄いのか?」
なぜか、罵倒に一番不満を現したのは、椎名君だった……
僕は美味しく、ナポリタンを完食して満足した。
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