6.1 BRAND NEW DAY GIRL1
その後、結局、二限目終わりの休み時間も同じように、クラスの女子(8人に増量)に囲まれた。
他の女子達と一緒にいた青浜さん龍巳さんとは、話せずに終わった。
それと、この休み時間中は、廊下に僕を見に来たと思われる女子の姿が、チラホラと確認出来た。
あと、これは補足だが、磐田君については、一限目以降、嫌がらせはなく、平穏だった。
あと、こっちは蛇足だが、椎名君については、運動後のリカバリータイムで睡眠中だったので、平穏だった。
そして四限目前の休み時間になった……
「桜花、トイレ行こうぜ」
休憩時間が始まってすぐ、青浜さんが立ち上がって、龍巳さんを誘うのが見えた。
(チャンスだ)
僕の周りには、まだ、女子の壁が出来ていない。
ダッと立ち上がり、廊下へ出て行く二人を追う。
「あのっ、青浜さん、龍巳さん」
クラス前の廊下で声をかけると、二人が振り向く。
「ん?……何さ」
「あ……由比里君、どうかしたの?」
青浜さんは淡白に返事をし、龍巳さんはニコリと微笑み、小首を傾げた。
(よしっ思い切って誘うぞっ!)
「えと……あの……そのね……」
実は授業中にずっと、二人との仲を進展させる方法を考えた。
で、とりあえず放課後に、ちょっとした買い食いに誘ってみることを思いついたのだ。
「そのっ、紀のくにや……うぅ……」
(デートに誘う訳ではないのに、いざとなると緊張するなぁぁ~~)
[紀の國屋本店]のアイス最中を食べに行こうと誘いたい。
だが、女の子を買い食いに誘うなんて、生まれて初めての経験なので、緊張して上手く言葉が出なかった。
「そのその……最中を……」
「……あたしさ、今トイレに行きたいんだ。話は今度にしてくんない?」
僕がマゴついていると、青浜さんが焦れたように聞いてきた。
「ああっ! ごっごめんっ! ……どうぞ……」
(そうだよっ、女の子がトイレに行くタイミングで声をかけるなんて、ダメダメじゃんっ!)
頭を下げて、行くように促す。
「ん」
青浜さんはヒラヒラと手を振ると、さっさと行ってしまう。
龍巳さんは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに軽く会釈して、青浜さんの後に続いた。
ずーーーーーん……
(失敗したあぁぁぁ……)
廊下の真ん中で、江ノ島の蝦蟇石のように固まる。
(イケメンになっても上手くいかないもんだなぁ……)
やっぱ外見だけ変わっても、しょせん、中身は女子に免疫のないオタだ。
圧倒的に経験不足だった。
自分の不甲斐なさを、痛感する。
(トイレから出て来るのを待つか? いやいや、それはキモイと思われるか……)
人が行き交う廊下に立ち、考える……
「……うそだぁ~、あのキモ里が格好良くなる訳ないじゃん。見間違えたんじゃないの?」
「ホントなんだってっ。もう、ちょーイケメンになってるんだってっ! 絶対、都子のタイプだってっ!」
姦しい、女子の話し声が近づいてくる。
(やはり、いったん教室に戻って、作戦を練り直そう)
この程度では諦められない。
後でもう一度、トライだっ。
決意を新たにして、教室に戻るために、クルリと踵を返す。
「えぇー、キモ里がタイプなんて絶対ありえなっ……」
振り向く……と、前方不注意な女子が、間近に迫っていた。
ドンッ!
「キャアアアァ!?!?」
「都子っ!!」
廊下の真ん中で、女子と正面衝突してしまう。
僕は軽い衝撃で済んだが、僕の胸にぶち当たった女子はよろけて、真後ろに倒れこむ。
動体視力も良くなっているみたいで、女の子が倒れていくのが、スローモーションのように見えた。
(あっ、拙いっ!)
このままでは、床に頭をぶつけてしまう。
咄嗟にスッと体が動いた。
パヒシッ!
一瞬で片膝を着き、お姫様抱っこのように、背中に手を回して受け止めた。
(ふぅ~、良かった。床に激突する前に、何とかキャッチ出来た)
ホント、この体は凄い俊敏性だ。
両腕に心地よい重さを感じながら、安堵する。
「あの、大丈夫?」
問いかけつつ、女子の顔を覗き込む。
「あっ……」
なんと、抱きとめている女子は、芹園都子さんだった。
「ごっごめんっ、芹園さん……」
僕はすぐに顔をそむけて、身を硬くする。
「都子っ、平気っ!? ……あ、由比里……くん……」
芹園さんとよく一緒にいる女子が、心配そうに近づいてから、なぜか、また離れた。
(うわぁ~、芹園さんを抱き締めてるっ! [キモいから触るな]って罵倒されるぞっ)
手を離さなくては……
でも、手を離したら、芹園さんを床に打ちつけてしまうので、どうすることも出来ない。
「……………………」
……罵倒されると思ったが、芹園さんはいつまで経っても、黙ったままだった。
「……あの、芹園さん?」
不思議に思い、恐恐と顔を覗き込む。
「……………………」
芹園さんは黙ったまま身を任せ、僕の顔を、ぽぉー……と、見つめ続けていた。
(ボーとして、どうしたんだろう? もしかして、頭でも打ったのかな?)
しかし、確実にキャッチした自信があるので、この心配は杞憂だろう。
(それにしても芹園さんって、凄く華奢な肩をしているんだなぁ)
それに、とても良い匂いがする……
焼きうどんばかり食べている子なのに、不思議だ。
(近くで見ると本当に整った顔をしてるのが分かる。肌も何か[毎日お手入れしてる]って感じの質感だなぁ)
性格はアレだが、この人はやっぱり、美人であることに、間違いはない。
(ととっ!そんなこと考えてる場合じゃない。罵倒される前に、芹園さんを立たせて離れよう)
いつまでも身を任せている芹園さんを腕から下ろし、怒られないよう、丁重に立たせてあげる。
彼女はまだボーとしているので、その隙に僕は、数歩後ろに離脱する。
「ぶ、ぶつかって、ごめんね」
ぶつかって来たのは芹園さんの方だが、怒られる前に先手必勝で、謝罪して頭を下げる。
「えと……怪我はない……ですか?」
文句の一つも覚悟しながら、訊いてみる。
「はい……大丈夫……です」
しかし芹園さんは、いつものような罵倒も文句も言わず、顔を赤らめながら、か細い声で答えた。
「……ありが……とう」
なんと、お礼まで口にした。
(ぼーとしてるし、顔が赤いし……芹園さん、今日は具合が悪いのかな?)
なら、調子が出て罵倒される前に、このまま逃げてしまおう。
「そっ、それじゃあ、もう行くね」
ヒラリと軽く手を振って、素早く、教室の入り口に向かって逃走する。
「あ……由比……里……く」
芹園さんが、なにか言いかけた気もしたが、無視してダッシュ。
と、その時、教室のもう一つの入り口に、いつの間にか、トイレから戻った青浜さんが立っていた。
無言でジッと、こちらを見ている。
「あっ! 青浜さ……」
目が合ったので軽く手を振ろうとすると、青浜さんは、フッと無表情な顔をそむけて、教室に入ってしまった。
キ~ン・コ~ン・カ~ン……
チャイムが鳴る。
(??? 青浜さん、どうしたんだろう? なんか様子が変だよね?)
僕は戸惑い、首を傾げながら、着席した……
……………………
「都子っ、都子っ。今のが由比里君だよっ! 凄いイケメンになってたでしょっ!? ねっ!? ねっ!? ねっ!?」
「……………………うん、凄く格好良かった。……由比里……くん。……素敵……」
……………………
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