5.4 愛しい彼女とすれ違い4
ちょっとだけ、登場人物紹介
磐田君 旧式量産型ヤンキー
「ぱくっ……もぐもぐもぐ……ぱくっ……もぐもぐもぐ……」
1限目は宇津瀬先生の数学の授業だった……のだが、相変わらず視線が痛い。
その理由は、授業中にも関わらず、運動後のたんぱく質補給に、プロテイン入りグミを黙々と食べる中肉中背のせいではなく、僕の激変によるものだ。
女子は好意的な視線を。
二席ほど離れた、斜め後ろに座る磐田君は、明らかな敵意の視線を、僕に向けている。
(後頭部がチリチリする。磐田君、あからさまな視線だなぁ……ヤンキーさんのガンってやつだよなぁ、コレ……)
怪人化したせいで常人より感覚が鋭くなっているのか、磐田君の姿は見えなくても、気配をハッキリと感じることが出来た。
「ぱくっ……もぐもぐもぐ……ぱくっ……もぐもぐもぐ……」
友人がプロテイン入りグミを咀嚼する気配もハッキリと感じられた。
「ヒヒッ……」
(むっ……磐田君が動いたぞ……)
後方で、微かな笑い声と、なにかが動く気配を察知した。
ヒュン!
(なにか投げた!?)
斜め後ろから、なにかの物体が飛来するのが分かり、自然と頭を下げて回避した。
一瞬の後、後方から物体が頭上を通過していった。
スコンッ!!
「キャアァ! 痛っ……」
僕の斜め前に座っていた女子、有賀尾さんの後頭部に、四角い白色の物体がヒットした。
ポトン……
床に落ちたそれは、消しゴムだった。
有賀尾さんは自分の頭を擦りながら、涙目で床のソレを見た。
「磐田君っ、貴方何してるのっ!?!?」
すかさず、宇津瀬先生が厳しい声で注意する。
ざわざわざわ……
「うわっ最低……」
「信じらんない……」
女子たちが、冷たい視線を磐田君に向けた。
「授業中に女の子に悪戯するなんてどうかしてるわよっ」
宇津瀬先生は厳しい先生なので、続けてキツく注意する。
「ここは義務教育じゃないの。勉強する気がないのなら、もう来なくても良いのよ?」
「いやっ、ちがっ、俺はあのキモ豚里にっ……くそっ!」
磐田君はなにか言い訳をしようとしたが、結局クラス中の冷たい視線に晒されて、口を閉ざし、不貞腐れた。
「キモいのはお前」
強気系女子の六条さんが、床の消しゴムをポンッと蹴る。
ポンッ……ポコッ……ボテッ……
そのまま、消しゴムは数人の女子たちに蹴られて、磐田君の足元に戻って行った。
「ぐっ……くそっ! キモ豚里の野郎のせいで……」
磐田君は僕へのヘイトを口にしながら、悔しそうに消しゴムを拾った。
(怪人化で感覚までかなり発達してるなぁ……)
これなら磐田君からの嫌がらせなんかは、全部スルー出来そうだ。
(でもちょっと有賀尾さんが可哀想だったな……避けずに手で弾いた方が良かったかも)
彼女もこれまで、僕を蔑んでいた女子の一人だったが、だからといって、嫌な思いをしても良いとは考えられない。
次は他の対応をした方が良いだろう。
(まあ、今回の騒ぎで、流石の磐田君も授業中はもう嫌がらせはして来ないかな?)
彼は自分が女子にモテててると思っているので、クラス中の女子から不評を買うような表立った嫌がらせは、もう控えるはずだ。
その後は滞りなく授業は進んだが、時おり、磐田君の敵意に満ちた視線を感じた。
「ぱくっ……もぐもぐもぐ……ぱくっ……もぐもぐもぐ……」
プロテイン入りグミを咀嚼する友人は、最後まで注意されることなく、1限目の授業は終了した。
…………
「それでそれでっ、由比里君はどんなダイエットをしたの?」
「あっ、それ聞きたいっ、聞きたいっ。そんなに上手く痩せられるダイエットっ、凄く知りたいっ」
「えと……YouTubeでバズってるシン・ナポリタン粥ダイエットってヤツで……」
シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ!
……僕は今、五人のクラスの女子に囲まれている……
今は休み時間中……1限目の授業が終了すると、席を立つ間も無く彼女らに囲まれてしまい、一方的な歓談がスタートしてしまった。
シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ!
ちなみにこのシャコンッ! シャコンッ! という煩うるさい音は、友人が握力を鍛える器具を激しく握る音です。
「あっ、そのダイエット知ってるっ。今、流行ってるよねっ」
「うんうん、私も見たことあるっ」
二人の女子が盛り上がる。
(えっ!? そんなダイエット本当にあるの!?)
超テキトーな出まかせだったのに……YouTubeって凄いなぁ。
「へー、そーなんだー、それ、わたしもやってみようかなぁ~」
「でもさ、でもさ、本当に急激に変わったよねぇ~、ビックリぃ」
「いや……あの、ちょっと前からダイエットを始めていて……分かりづらかったかもだけど、結構、前から体重は落ちてきてて……」
「あー、だよねーだよねー、私ソレ気がついてたよー。由比里君、最近痩せてきたなーってさぁ」
「あたしも、あたしも~。最近、格好良くなってきたなぁ~って実はチェックしてたんだあ~」
「そうそうぉーーー」
「「「「「きゃはははは……」」」」」
シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ! シャコンッ!
(うわぁ……みんな適当だなぁ。本当は僕、怪人化するまで体重は増える一方だったのに……)
ただ、この適当さが、不自然な激痩せを勝手に正当化してくれるのなら、ありがたい。
シャコンッ! シャコンンン……
「なあなあ、その握るの、あたしにもやらせてよっ」
視線のすみで、青浜さんが椎名君に話しかけるのが見えた。
龍巳さんと一宮君も一緒だ。
「あ、青浜嬢……どうぞ……」
とたんに顔を赤くした椎名君が、恭しく器具を渡す。
「へへっ、よーーし、いっくぞーー……へやっ!!!」
シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ!……
「おおっ、しっ、神速でご、御座るなっ。お見事っ!」
「さささ、さすがはスポーツ万能な、あ、青浜嬢、です……ね……」
「わははははははははっ、マルチロールファイターと呼ばれる前は、水陸両用の万能兵器[青ズゴック浜]の異名を持っていたからなっっ!!」
「夏音ちゃん、それ異名と言うよりは悪口だから……」
「「「「あはははは……」」」」
シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ! シャコッ!……
(うわぁ、龍巳さんも混ざって四人で楽しそうに話している。いいなぁ……)
教室内で二人と会話出来るのは、週に一度、有るか無いかのカーニバルだ。
僕もカーニバルに参加したい。
けれど、五人の女子が壁となり移動は出来ない。
「それでね、それでね……聞いてる?由比里君」
「ああっ、うん。聞いてるよ。面白いよね、あれ」
「だよねー、私[君の戸締り]が凄く好きなんだぁー」
「ウチは[すずめの名は]かなぁ~」
「うんうん、良いよねー」
「「「「「きゃはははは…………」」」」」
(ああ……みんな僕を、アニメオタクだと勘違いしているんだなぁ……)
話しを合わせてくれてるつもりなのだろうけど、この勘違い歓談はつらい……
(しかもパンピー受けした映画の話しだし……もしも僕がアニオタだったとしても、これだと話しが噛み合わなかっただろうなぁ……)
この女子の壁が、さっきから何かを言いたそうにしている磐田君を、結果的にブロックしてくれているのはありがたいけど、正直、青浜さん達の方が気になってしょうがない。
シャコッ!!!!
「ふぅ~……で椎名、あたしのタイムはどうだったっ?」
「たっタイム!? いや、ソレはその……タイムを競う物では、な、なくて……」
「もう、夏音ちゃん、これは得点競技だからタイムは関係ないよ」
「いやいや、たっ、龍巳殿も激しい勘違いを……」
「「「「「あはははは……」」」」」
(ううぅ……僕も青浜さんとお話しがしたいよ……)
せっかくイケメンになったのに、本命の子との仲は全然進展しない。
とてもおかしな状況だ。
(くうぅ、こんなはずでは……。いやいや、焦るな、まだ初日だよ)
あと三ヶ月の時間がある。
じっくりアプローチして必ず二人共、メロメロにしてみせるっ!
僕は四人を横目でチラチラと見ながら、休み時間をジリジリした気持ちで過ごした。
とうとう40話を超えました。
なのに、まだ戦闘シーンに入れてない。
この日の夕方から、初戦闘になる予定ですが、こうして投稿してみると、自身の小説のラグさには、自分でもびっくりしてます。
この物語はずっと書き溜めてた小説に、修正を加えつつ投稿しています。
ネタバレは出来ませんが、簡単な予告を。
戦闘シーンは計5回。
バイオレンスやグロテスクはなし。
夏音視点、天紫野香織視点、その他視点あり。
ラストはハッピーエンドです。




