5.3 愛しい彼女とすれ違い3
ちょっとだけ、登場人物紹介
一彩光璃 国語教師 生徒会顧問
養護教諭の神城岬悠とは親戚
モリナオ様 ???
「よんじゅいちっ! よんじゅにっ! よんじゅさんっ! ……」
教室に入ってから、クラスメイトの視線が痛い。
理由は、教室の後ろで腕立て伏せを続ける中肉中背のせいではなく、僕の激変によるものだ。
女子は戸惑いと好奇心が入りまじった視線を。
男子のクラスカースト上位者たちは、戸惑いと敵愾心が入りまじった視線を、席に座っている僕に向けてきている。
「ごじゅういちっ! ごじゅうにっ! ごじゅうさんっ! ……」
ちなみに中肉中背の奇行は、このクラスの風景に溶け込み、誰も気にしていない。
「ねえねえっ、夏音っ! あの人がキモ里……由比里君って本当なのっ!?」
「あ~、そうらしいねぇ~」
「ええぇーマジでぇ!? 何で急にあんなに格好良くなったのっ!?」
「YouTubeのダイエットがどうのって……てか同じ質問ばっかりでもうメンドイ。後は本人に聞けよ」
僕への[質問受付]と化している青浜さんは、ウンザリした様子でそう言った。
「ええぇー、直接は恥ずかしいよぉー」
「南ちゃん、代わりに聞いて来てー」
「無理むりムリっ、緊張するから無理ぃー」
「きゃはははは……」
さっきから、女子たちの会話がまる聞こえだ。
(聞こえるように悪口を言われるのもキツいけど、聞こえるように格好良いと騒がれるのも、かなり居た堪れないものなんだね……)
こんな時、どんな顔をして、聞こえてないフリをすれば良いのだろうか?
「ろくじゅう、いちっ! ろくじゅう、にっ! ろくじゅう……さんっ! ……」
そしてどんな顔をして、友人の奇行を、見て見ぬフリをすれば良いのだろうか?
(しかし、今まで蛇蝎の如く僕を気持ち悪がってた女子まで、格好良いと言ってるよ……なんて手の平返しなんだろう)
褒められているが、そのことを気分悪く感じ、素直に喜び、浮かれる気にはなれなかった。
「……なぁお前、キモ豚里なのか?」
突然、声をかけられたので顔を上げる。
と、クラスカースト最上位男子の磐田君が立っていた。
磐田君は、校内の不良グループに入っているヤンキーで、腕力と威圧感で男子のクラスカースト最上位に立っている。
本人は自分は格好良くて、男女共に人気があると勘違いしているが、男子は彼の取り巻き以外は総スカン。
女子は、青浜さん曰く[密かに嫌っている子はかなり多い。あたしも大嫌い]との評価を得ている、残念な量産型のヤンキーさんだ。
カースト最下層の僕たちオタ三人組は、イジメに遭わない防衛策として、極力、彼の視界に入らないように努力してきた。
目立たないことを心がけてきたので、今までは彼の興味を引くことなく、存在しない者のように放置されてきたのだ。
なので、こうして話しかけられることは、今まで皆無だったのだが……
「おいっ! お前はっ、キモ豚里なのかって聞いてんだよっ!」
ちょっと返事が遅れただけで、もう語気を強める自制心のない磐田君。
「えと……僕は由比里です……」
正直苦手な相手……というか、やっぱりちょっと怖いので、顔を横にそらしながら返事する。
「チッ……」
僕の返事を聞いた磐田君は、苦々しい顔で舌打ちすると、それ以上は何も言わずに、彼の腰巾着グループの中に戻っていった。
「ふうぅ~……」
簡単に済み、正直ホッとする。
(でもこれは拙いなぁ)
僕はどうも彼の興味を……それも悪い方向への興味を引いてしまったようだ。
(今までの努力が水の泡だ……)
僕らは本当に気を使ってきたのだ。
オタはオタ話を始めると、夢中になって声が大きくなり、周囲から顰蹙を買う。
なので、僕らはまず、教室内ではオタ話をしないと取り決めた。
そして、昼休みの教室はカースト上位者の無法地帯になることが多いので、必ず教室から出た。
昼食は学食でとり、食後はチャイムギリギリまで教室に戻らずに特別教室近くの、湿った雰囲気の階段のすみなどで過ごした。
こうして、視界に入らないようにしてきたのだ。
存在を消すのが僕らの生存術だったのだ。
(目立つのは拙いんだよなぁ……あ、でもこの体なら戦闘力が高いから、ヤンキーなんて怖くないかな?)
さすがに触手を使う訳にはいかないが、怪人の僕は単純な身体能力だけでも、ただのヤンキーなんかには負けないだろう。
それに、一年近く所属したBIPの記憶が残っているのも大きい。
戦闘に参加しないとはいっても、全く危険な目に遭わなかった訳ではない。
少なくとも、クラスのヤンキー君と対峙する以上の恐怖は、色々と経験しているのだ。
正直、彼にはもう、大した恐怖を感じない。
き~~んこ~~んか~~んこ~~ん~~
ホームルームの予鈴が鳴った。
みんなが席につこうとすると、隣のクラス担任の一彩先生がやってきた。
「担任の大岡先生は遅れるそうなので、本日このクラスのホームルームはありません」
教壇に立って、普段通りの伝言を簡単に伝えると、すぐに去って行こうとする……
「えっ!? モリナオ様!?」
一瞬、僕を視界の端に捕らえた一彩先生がビクリと立ち止まり、声を上げて二度見した。
(あ、一彩先生も流石に、僕の激痩せには驚くか)
「どもです……」
一彩先生に聞こえない程度に呟きつつ、座ったままペコリと頭を下げた。
「…………」
目が合った一彩先生は、戸惑ったようにその場で二、三足踏みすると、フルフルと首を振った。
そして黙って退出した。
途端に教室にざわめきが戻る。
そして皆、担任教師の不在を特に気にする様子もなく、普段通り1限目の授業の準備を始めた。
「はちじゅう……いちっ! はちじゅう……にっ! ぐっ! はっ、はちじゅう……さ……んっ! ……」
皆、中肉中背の奇行を特に気にする様子もなく、普段通り授業の準備を続ける。
「何で女子も磐田君も一彩先生も、アッチを気にしないんだろう? 断然、僕より目立っているよね?」
未だに続く友人の奇行を見ながら首を傾げた……
…………
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