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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希


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5.1 愛しい彼女とすれ違い1

ちょっとだけ、登場人物紹介

青浜夏音 マルチロールファイターな日焼け娘

時々、[何]を[あに]と発音する癖がある

椎名君 ただの中肉中背

 「めっ、眼鏡はコンタクトにしたんだぁ……コンタクトは汗をかいても、曇らなくて良いよねぇ……」


 学校へ続く坂道を上りながら、なおも適当な嘘を重ねる。


 ……のだが、先ほどから、なぜか隣の椎名君が、


 「ぐぬぬぬぬ……」


 と、変な唸り声を上げている。


 「えと……どしたの?」


 やっぱりダイエットという無理な言い訳は、何気なにげに鋭い椎名君には、通じなかったのかもしれない?


 不安になる。


 「くそうっ! 同じ頃にスタートしたのに、なぜ、こうも差がついたのだっ!」


 僕の不安をよそに、椎名君は唐突に叫び、その場で立ち止まった。


 そして、いきなりヒンズースクワットを開始した。


 「いちっ! にっ! さんっ! しっ! ……」


 気合の入った声で回数を数えながら、猛然とスクワットを続ける。


 「くそっ! ろくっ! マッチョ椎名がっ! ななっ! 爆誕してっ! はちっ! キャラ立ちっ! きゅう! させるはずだったっ! じゅうっ! のにっ!」


 「えっ!? ええっ!? えっ!? なにっ!? なに!?」


 親友の突然の奇行に、戸惑う。


 「ハハハぁ……実はですなぁ、ほら、椎名殿は[中肉中背]と呼ばれるのを気に病んでいたで御座ろう?」


 「それで先週の火曜日に一念発起し、中肉中背と呼ばれないために[マッチョ椎名]になると宣言しまして……それ以来、ずっとこの有様で御座るよ」


 一宮君が苦笑いで説明してくれた。


 「なぜだっ! じゅうよんっ! なぜ先にっ! じゅうごっ! イケメンキャラがっ! じゅうろくっ! 爆誕するのだぁぁ! じゅうななっ! ……」


 登校中の他の生徒が椎名君の奇行を、白い目で見て通り過ぎる。


 「ええぇと……イケメンキャラの話は別として、マッチョ椎名でキャラ立ちって、その方向性はどうかと思うよ?」


 「椎名君は[杉並]キャラで充分キャラ立ちしてるから、そのままで大丈夫だよ、ねっ?」


 友人としてとても恥ずかしいので、一週間の努力の甲斐かいなく、相変わらず[中肉中背]な椎名君を、優しく諭す。


 「ダメだっ! にじゅうっ! 杉並キャラはパンピーにはっ! にじゅういちっ! 通じないっ! にじゅうにっ! はぁっハァッはぁっハァッ……」


 息を切らせながらも、中肉中背君はがんとして譲らなかった。


 「まっ、まぁ、そのうち飽きて収まるで御座ろうて……」


 一宮君が諦め声で、そう耳打ちしてきた。


 「とても恥ずかしいで御座るが、しばしの辛抱で御座る……」


 「う、うん。そうだね。すぐに飽きるよね?……じゃあ、しばらく放置しようか……」


 そう、小声で返事をしていると……


タタタタタタッ……


 後ろから、軽やかに走る足音が聞こえた。


タタンッ!


 「オッス! 一宮、椎名っ」


 ぴょん、と僕らの前に走り出て、声をかけてきたのは、青浜さんだった。


 綺麗に日焼けした顔には、満面の笑みが浮かんでいた。


どきん


 一週間ぶりのその笑顔に、胸が高まる。


 「ぶっわっはっはっ! 椎名またやってるっ! 体を鍛えるのは賛成だけど、ここでスクワットは、さすがに迷惑だぞっ」


 そう言って椎名君の背中をポポンと叩いた青浜さんだが、その顔は今にも一緒にスクワットをしたくてウズウズしているようにも見えた。


 (あぁ、青浜さんだっ。やっぱり可愛いなぁ~。この屈託のなさが魅力だよなぁ……)


 思わず見惚みとれる。


 「お、おは……よう……です……ハァッはぁっ……」


 椎名君は顔を赤くして挨拶すると、静かにスクワットの体勢を解いた。


 良かった。


 友人にはまだ恥の概念が辛うじて残っているようで、本当に良かった。


 「おっ、もう止めるのか?」


 逆に青浜さんは、少し残念そうだった。


 「ま、いいや。ところで今日も由比里はいないのか?」


 大きな瞳をキョロキョロと動かして、周りを見渡しながら訊く。


 「もう一週間も前からずっと休みだし……あいつの具合、そんなに悪いのか? 二人は、どんな様子か聞いてるか?」


 当然だが、どうも僕がその由比里だと認識していないようだった。


 「お、おはよう青浜さん。久しぶり。僕はもう大丈夫だよ」


 緊張しつつも、精一杯の爽やかな笑顔を浮かべて、話しかける。


 「少し痩せたけど、僕が由比里だよ。由比里是陽」


 ちょっとカッコつけて、髪をかき上げながら自己紹介する。


 (どうだい? マイハニー。ニュー由比里是陽はイケてるでしょ?)


 自分でもかなりイタい奴だなぁと思うが、俄かナルシストに成るほどに、鏡でみたイケメン野郎の姿は僕に自信を与えていた。


 ……しかし。


 「は? あにあんた」


 青浜さんは大きな瞳で、ジロリと僕を一瞥いちべつした。


 「つまんない冗談。あんたが由比里のはずないじゃん」


 冷ややかな目で睨まれた。


 (わわわっ、凄い冷たい目っ! そうだよね、さすがに、俄かには信じ難いよね……)


 「ダダダ、ダイエットに成功したんだよぉ、ほらぁ? 青浜さんも痩せたほうが良いって言ってたしさぁ……」


 「ダイエットぉぅ? たったの一週間強でかぁ? ハハッ、本当につまんない」


 青浜さんが、心底呆れた顔をする。


 「特に、由比里が太ってることをダシにして笑いを取ろうってのが、本気で気に入らない。最低の冗談」


 (あ、そこを怒ってくれるんだぁ。やっぱり青浜さんはいいなぁ……)


 僕のことを思っての青浜さんの言葉に嬉しくなり、また胸が高鳴る。


 「いやいや、冗談じゃなくてね、本当にシン・ナポリタン粥ダイエットとランニングで……」


 (やっぱりダイエットって言い訳は無理だったかな? 理由を病気にしておけば良かった……)


 でも、椎名君たちに散々そう言ってしまったので、コレを押し通すしかない。


 「い、今、シン・ナポリタン粥ダイエットってYouTubeでバズっていてね。凄い効果だって有名なチューバーも……」


 信じずらい話しでも、僕が由比里だと理解して貰わねばならないので、つい必死になり、青浜さんにまとわりつくようにして、話しかける。


 「しつこいなぁ……あたし、YouTubeとか興味ないんだよね。……あ、もしかしてコレ、新手のナンパかなんかなのか?」


 鬱陶しそうに歩きかけた青浜さんはピタリと立ち止まり、僕をギロリと睨みつけた。


 「あたし、そうやって女に見境なしに言い寄る、顔だけが良いチャラ男って嫌いなんだ。ナンパなら他の女にしてくんない?」


 物凄く冷たく言い放つと、また歩き始めた。


 「ううぅ……」


 参った。


 聞く耳を持たないどころか、嫌な奴だと勘違いまでされてしまった。


 「あ、あいやい待たれよ、青浜殿。それがほ、本当にこの御仁、由比里殿なんで御座るよ」


 女子に免疫がなく、中々言葉を紡げなかった一宮君が、よいやく助け舟を出してくれた。


 ちなみに、椎名君は緊張しているのか、中肉中背のまま坂道にたたずんでいる。


 「ほ、ほら、証拠に口元にケチャップがついて御座るよ……」


 一宮君が僕の口元を指差した。


 「まっさかぁ……一宮まで一緒になってそんな性質たちの悪い冗談を……」


 青浜さんはそう言いつつ、僕の口元を凝視する……


 「……ああああぁぁぁ!? 本当に口元にケチャップがついてるっ! コレ由比里だあぁぁ!!」


 大きな瞳を見開いて、驚愕の声を上げた。


 「えっ!? 青浜さん、僕をソコで判断してたのっ!?」


 僕のアイデンティティとは一体なんだろう?

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