4.3 顔3
ちょっとだけ、登場人物紹介。
一宮君 ヲタ友達で、低身長の自称侍。
椎名君 ヲタ友達で、ただの中肉中背。
初夏の日差しで煌めく海を右手に見ながら、国道沿いを自転車で東に向かう。
頭の中は青浜さん、龍巳さんとのラブラブ妄想が激しく爆発していた。
「あははははっ、二人ともしょうがないなぁ~、僕を取り合って喧嘩しちゃ駄目だよぉ~……」
妄想が過ぎて、桃色トランス状態で、自転車を漕ぎながら学校へ急ぐ。
「分かった、じゃあ二人とも付き合っちゃお」
カン! カン! カン! カン……
脳内でハーレムエンドを迎えたところで、学校近くの踏み切りの前に到着した。
丁度、遮断機が下り始めたので、自転車を降りて江ノ電の通過を待つ。
すると、七里ガ浜方向から椎名君と一宮君が歩いて来た。
「おはようっ、二人とも」
上機嫌でシタッと手を上げてから、自転車を押して二人のそばに寄る。
「ぉ、ぉはよう……ござい、ます……」
二人は、ぼそぼそっと消え入りそうな声で挨拶を返すと、スルスルと僕から離れて行く。
「ちょっ、ちょっとちょっとっ、なんでそっち行っちゃうの!?」
再度、自転車を押して二人のそばに寄る。
「……その……僕らに何か……用ですか?」
椎名君が自身をいつもの一人称[俺]ではなく、僕と呼びながら、怪訝な顔でさらに離れて行く。
一宮君は目をバシャバシャと泳がせながら、無言で離れて行く。
「何か用って……二人ともどうしちゃったのよぉ?」
友人たちの余所余所しい態度に、上機嫌は一気に萎み、悲しくなる。
どんどん踏み切りから離れて行く二人に、ピタリとくっつき、追いかける。
「なっ、何なんですかっ、貴方はっ……いっ、嫌がらせは、止めて下さいっ」
椎名君がどんどん、七里ガ浜方向に戻って行く。
このままでは、隣の鎌倉高校前駅まで歩いて行ってしまいそうだ。
「どっ、何方か存ぜぬが、初対面で少々無礼では……ごっ、御座らぬかっ……」
ようやく口を開いた一宮君も、早足で七里ガ浜方向に逃げて行く……
「……あっ、そうか」
そこで気がつき、ピタリと立ち止まる。
(そうだよ、姿が変わったから、二人には僕だってことが、分からないんだ)
僕らオタは、リア充パンピー(一般人)が苦手で、極力接触を避ける傾向がある。
二人は、知らないスカしたイケメンが、面白半分に話しかけてきたと思い、逃げ出したのだろう。
「二人とも、分からないかな? ちょっと痩せちゃったけど、僕は由比里だよ。由比里是陽」
自分を指差しながら笑顔で訴えかける。
「はっ、ははは……じょ、冗談は止めて……下さい」
椎名君は苦笑いを浮かべて、さらに遠ざかる。
一宮君はとても嫌そうな顔で、僕をチラリと見てから、無言で目を逸らした。
「ホントに由比里なんだってぇ」
「ほら、先週の月曜日にDr.ヘッドランドに呼ばれたでしょ? あの時、怪人改造手術を受けてさ、それで……」
笑顔で説明しながら近づく……と、二人がキッと睨みつけてきた。
「ぼぼぼ僕らが、おっオタクだからって、そんなつまらない設定を、面白がると思わないで欲しいっ!」
「そうで御座るっ、拙者共はギャルゲーオタであって、そんな昭和風の厨二病を拗らせているのでは、ないで御座るっ!」
二人はオタクであることをからかわれたと思ったらしく、強い口調で拒絶してきた。
(あぁ~、二人共、青銅の鳥居でBIPの記憶を消されているんだった)
失敗した。
「ごめんっ、ごめんっ、今のは冗談。……ええと……」
風邪で痩せたと言おうか?
いや、さすがにその言い訳には、無理があるかな?
「ほっ……ほっ、本当はダイエットに成功したんだよっ。シン・ナポリタン粥ダイエットでっ」
咄嗟に思いついた言い訳は、風邪よりも無理があるモノになってしまった。
「シン・ナポリタン粥ダイエットぉ~~??」
二人は、超胡散臭いといった表情を浮かべて逃げる。
「そっ、そうっ。今YouTubeでバズってるやつっ」
僕も自身も超胡散臭いといった思いを浮かべながら追う。
「とにかくっ! 本当にライターの丸戸史明様を神と崇めている由比里是陽なんだってっ!」
僕がそう叫ぶと、二人がピタリと止まった。
「むむ。ライター丸戸史明神の名が出てくるとは……アレは本当に同志由比里なのか?」
「まさか……あ! 確かに良く見ると、口元にケチャップがついているで御座るよっ! アレは正しく由比里殿の証……」
「うーーん、確かにシン・ナポリタン粥ダイエットなんて胡散臭い代物に手を出すのは、同志由比里くらいのもの……」
二人はヒソヒソと話し合いながら、恐々と近づいてきた。
「少し質問して良いかね?」
椎名君が、だいぶいつもの調子に戻った話し方で、聞いてきた。
「うん、なんでも聞いて」
「では……コホン」
椎名君が一つ、咳払いをする。
「えー……侍娘が好きな同志一宮が、常時、愛用している折り畳み傘に、つけた名前は何だ?」
「さかき傘。辻堂さん最高っ」
「では、ダ・カーポ好きの椎名殿が、愛用する手帳につけた名前は?」
「エデンズノート。たけうちこうた神降臨っ」
「ではでは、日本三大瀑布と言ったら、袋田の滝、華厳の滝、もう一つは?」
「木緒なちの滝。シナリオ以外も凄いっ」
「だったらノベルゲームオタにとって、秋の味覚と言ったらズバリ、なんで御座る?」
「奈須きのこ。僕らの神様だっ!」
「なら、同志由比里が自分の愛機(PC)につけた名前は?」
「下倉バイオ。ニトロプラスも大好きっ! 虚淵玄神、最強っ!」
「じゃあ……ロミオとジュリエットの名台詞といったら?」
「ああ、ロミオっ、どうして貴方は[田中ロミオ]なのっ? ……ねえ? 本当にどうして、田中ロミオってライター名なんだろうね?」
「「うおおおおっーーーーー!? 本物だっ!! 本物の由比里是陽だぁぁぁーーー!!」」
二人が興奮気味に声を揃えて叫ぶ。
「こんなパンピーを完全に置いてけ堀にする問答が出来るのは、正しく同志である証拠だっ!」
「しかし、ここまで激変するとはっ! 一体、なにが起きたで御座るかっ!?」
「いやぁ~、チン・ナポリタン粥ダイエットに成功しただけだよぉ~」
無理な言い訳だが、さっきダイエットと言ってしまったし、もうコレで押し通すしかないだろう。
(まあ今度、アジトに行った時に、ちゃんと本当のことを説明すればいいよね)
「ダイエットって!? わずか一週間で御座るぞっ!?」
さすがに訝しがられる。
「それにチンじゃなくて、シン・ナポリタン粥ダイエットじゃなかったか?」
「そっ、そうだっけ?」
「あのっ、じっ、実は100キロ近くなった時から、密かにダイエットを始めてたんだっ」
「見た目には分かりずらかったけれど、ちょっと前から結構、体重は落ちていたんだよ?」
適当な言い訳を重ねる。
「むうぅぅ……しかし体型だけではなく、顔がまるでシルビィオ・オルランディ中尉みたいなイケメンになっているぞ?」
椎名君が腕を組んで、不審そうな顔をする。
「ハッハッハッ、然り然り」
「由比里殿は、本当はオルランディ中尉のように[傷痍軍人再戦力化手術]でも受けて、半サイボーグ化したのでは御座らんか?」
一宮君は、顔のことはあまり不審には思っていないようで、笑って冗談を言う。
ただ強ち外れてない冗談だったので、少し戸惑った。
「ははは……そうかもねぇ~……」
曖昧に笑いながら、押していた自転車を反転させる。
「はは……じ、実際、学校をズル休みして、ずっとハイ・ナポリタン粥ダイエットと、ランニングを続けてたから、一気にこうなっちゃったんだよねぇ~~」
三人で踏み切りに向かって歩き始める。
「チン・ナポリタン粥ダイエットだろ? 走り過ぎてランナーズハイにでもなったのか?」
「いやいやお二方、シン・ナポリタン粥ダイエットで御座ろうて……」
「そっ、そうだったっね。うん」
(二人にBIPの記憶があれば、説明が簡単なのになぁ~~)
後でバラすとはいえ、友達に嘘をつき続けるのは、嫌なものだ。
僕は小さな罪悪感を感じながら、二人に適当な嘘の説明を続けた……




