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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希


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3.10 C調言葉に気をつけて10

 「さあっ、コレでBIPが生き残る道が拓けたぞっ」


 Dr.ヘッドランドは、点けたばかりの咥え煙草を揉消す。


 「これで当初の目論見通りに、試作型触手細胞怪人初号に時間稼ぎをさせて、その間に少し能力が落ちる汎用量産型触手怪人の開発を成功させれば……」


 「くっ……くっくっくっ、そうなればBIP存続だけじゃなく、本当に世界征服も可能かもしれんなぁ、くっくっくっ」


 触手片の入った試験管を嬉しそうに掲げながら、悪の秘密結社の幹部に似つかわしい、怪しげな笑い声を上げた。


 「よしっ、今はここまでにしよう。今日は準備出来ないが後日、大がかりな精密検査をするつもりだからよろしくな」


 Dr.ヘッドランドは、ヨレヨレの白衣の襟を適当に直す。


 「私は今から上に成功の報告をしに行くから、今日はもう帰って良いぞ」


 実にマイペースに、一方的に終了を告げた。


 「ただ、もう怪人なんだから、どこに居ても呼び出しには即、反応して駆け付けろよっ」


 「えぇ~、授業中とかだと困るなぁ……あっ、それに青銅の鳥居で記憶消去されるから、島外では怪人だって自覚もない……」


 そこでふと思い出した。


 「あっ、そうだっ! 一週間前の夜から、青銅の鳥居が壊れているみたいですよ?」


 「一週間前、来る時は記憶の修復が起きましたが、帰る時は記憶の消去機能が、全然効いていませんでした」


 「それに、さっき来た時も、怪電波を受けてる感じがしなかったし」


 「一週間前だとぉ~? そんな報告は受けてないぞぉ」


 Dr.ヘッドランドは首をひねりながら、すぐに机に座り直してマウスを操作し、PCのモニターを睨んだ。


 「……うん報告は無い……」


カチカチ……


 「一週間も壊れたままで、気がつかないなんて有り得ないし……」


カチカチ……


 「どれ……うん、鳥居の機能に異常は見当たらないな」


カチカチ・・・


 「……なあ、記憶を失わなかったのは、怪人化注射の後か?」


 「はい」


 「ふうん。なら、一時的な記憶消去が起きなかったのは、鳥居に問題があったのではなく、お前の変化が原因だったのだろう」


 Dr.ヘッドランドはPC操作を止めて、椅子に座ったまま振り向く。


 「あの鳥居の機能はな、実は万能とは、ほど遠い仕組みなんだよ」


 「予め脳波をしっかりと測定して、本人の積極的な同意の下で催眠暗示をかけて、初めて機能するものなんだ。お前も採用後すぐにやっただろ?」


 「あ~、しました」


 初日に記憶についての説明を受けて、同意の下で催眠暗示をかけられたのを覚えている。


 それがアルバイト戦闘員採用の、絶対条件だったからだ。


 因みに戦闘時には、鳥居の機能は完全停止させて、戦闘員の記憶が消えないようになっている。


 江ノ島の外に出撃する時に、BIPの記憶が消えたら困るからだ。


 「仕組みの効果は脳からの記憶の除去ではなく、脳に記憶を残したまま、思い出さないようにする……いわば記憶に蓋をする事なんだ」


 「で、青銅の鳥居は、記憶の蓋を開け閉めする、スイッチのような役目を果たしているんだよ」


 「人間の脳は面白いものでな、思い出せない記憶があると、そこを適当で曖昧な記憶で勝手に補完してしまうものなんだ」


 「でな、青銅の鳥居を使って記憶の開け閉めを頻繁に繰り返していると、蓋の空いた状態……記憶を思い出した状態でも、ある程度、古い記憶は自身で補完した記憶と混ざって、かなり曖昧な代物になっていくんだよ」


 「正にアルバイト相手には打ってつけの仕組みってことだな」


 「お前もBIPに入った頃の、組織内での記憶はかなり曖昧なんじゃないか?」


 「いやぁ、ちゃんと覚えてますよ? ……アレ? ……う~~~ん、いや、しっかりと覚えてます。多分……」


 「その答えがまんま効果があった証拠だな。自覚出来ないほど、曖昧になってるんだよ」


 「えぇ~~~? 何だか狐につままれた気分だなぁ……」


 「で、仕組みが機能しなかった理由だがな、怪人化で以前に測定した脳波と変わってしまい、青銅の鳥居がお前を認識出来ずに、スイッチを入れなかったんじゃないかな?」


 「それか、怪人化のショックでお前の催眠暗示が解けて、お前側が記憶のスイッチを受けつけなくなってしまったのか……恐らく、そのどっちかだろう」


 そう解説すると、くるりと椅子を回転させて、再度PCに向かう。


 「まあ、丁度良かった。今説明したが、アレはあくまでも忠誠心が低いバイト用でな、いちいち鳥居で記憶を失ったら不都合な正社員、怪人、幹部には使わないんだ」


 「念のために今、採用時の登録したお前の脳波を、鳥居の登録から外しておこう」


カチカチ・・・


 「これでよし。もうお前は鳥居で記憶をなくすことはないぞ。よっこらしょ……」


 椅子から立ち上がる。


 「もうただのバイト君じゃないんだから、島外にいてもちゃんと緊急出動に応じろよ?」


 「なーに、魔法少女は恐らく学生だろうし、うちの総統閣下も高校生だ。平日昼の出動はほぼ、ないから安心しろ」


 サラッと爆弾発言が飛び出した。


 「えっ!? 総統閣下も高校生なんですかっ!? どこの高校ですかっ!?」


 若いだろうと思っていたけれど、まさか高校生だったとは。


 あの神々しい紫色の髪で高校に通っていたら、さぞ目立つだろう。


 「おっと、口が滑ったな……幾ら怪人でも、今の情報以上は知ってはいけないな」


 「もうその件は質問するな。知ったら、お前の記憶を除去しなくてはならなくなる」


 Dr.ヘッドランドが僕を一睨みする。


 「へ? 一時消去じゃなくて除去ですか?」


 「ああ、記憶に蓋をするのではなく、脳から記憶を完全に消すんだ」


「それには鳥居とは全く別の方法……特別な手術をする必要がある」


 「だが、その手術はあまり細かい選別が出来ないので、少なくとも数か月分の全ての記憶をゴッソリと削り取ってしまうことになるんだよ」


 「だから出来ればしたくないんだ」


 黒髪をガジカシとかきながら呟いた。


 「うげっ!? すっ、すみません。もう絶対に聞きませんっ」


 なんておっかない手術なんだ。


 さすがにちょっと、調子に乗り過ぎた。


 Dr.ヘッドランドは黙って静かに頷くと、触手片の入った試験管を持ってドアへ向かった。


 僕も後に続いた。

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