4.1 顔1
ちょっとだけ、登場人物の紹介
茂倉紗弥、BIPの事務のアルバイト。
[コーポかみしろ]に住む大学四年生。
兄の病気?で悩んでいる。
研究室から出て、静かな廊下に、カツカツカツと靴音を響かせながら、Dr.ヘッドランドが前を歩く。
「……あのぅ、ところで先生、これから学校に行きたいんですけど……」
「制服がブカブカで困っちゃって……これ、BIPの超科学力でピッタリに直せませんかぁ?」
Dr.の後ろを歩きながら、駄目元で聞いてみる。
「そんな服屋みたいな超科学はない」
「ま、悪の組織の怪人なんだから、学校なんてどうでもいいじゃないか。もう辞めちゃえよ」
Dr.は振り向きもせずに、さっさと廊下を歩きながら答えた。
「いやいや、養護教諭とは思えない発言はしないで下さい」
Dr.の背中に突っ込む。
「しょうがない、確か潜入用の制服が、諜報課の衣装庫にあったはずだ。そこで適当なのを借りていけ。来い」
Dr.はクルッと方向転換をして廊下を曲がった。
僕も後に続く。
「体型が変わったのは怪人化のせいだからなぁ、まぁBIPの責任になるわなぁ……」
ズンズンと歩きながら呟く。
「三ヶ月後に怪人化が解けてもすぐに太る事はないはずだし、恐らく解けた後に精密検査して、またすぐ注射して怪人化してもらうだろうからな、お前は新しい制服を買ったほうが良いだろうな」
「はぁい……」
「その時はBIP宛てで領収書を貰ってこいよ。経費で落ちるかもしれんからな」
「えぇ~、宛名がBIPですかぁ?」
それはちょっとなぁ……
しばらく歩くと、諜報課の前に着いた。
ガチャ……
「おい、小動高の制服一式を借りるぞっ」
Dr.ヘッドランドが無遠慮に諜報課のドアを開けて、中に声をかける。
しーーーーん……
「なんっだよぉ、誰もいないのかよぉ~~~」
「せんせー、どうかしたんですかぁ~~~?」
別の方から声がかかった。
見ると女性事務員らしき人(事務服にアイマスク)が、眠そうな様子で廊下を歩いてくる。
僕は今、アイマスクをしていないので、あまり顔を見られたくない。
そっと、後ろを向いた。
「おおっ、紗弥か? お前今日、当直だったのか?」
「もぅ~。名前で呼ばないで下さいよ、せんせー」
当直明けなのか、眠そうな声で返事を返す。
「諜報課の連中が出勤したら、小動高の制服一式を借りた、と伝えておいてくれ」
「また、女子高生のコスプレですかぁ~? せんせーも好きですねぇ~」
「馬鹿、今日は違うぞ。男子用だ」
「えっ!? 小動高の男子用……お兄ぃが昔着てた制服ですね……」
一転、紗弥と呼ばれた事務員は、寂しそうに声を落とす。
「そだな」
Dr.ヘッドランドは軽く肩を竦めて返事し、ノブを握ったままだったドアをバタンと閉めた。
そのまま、すぐ隣の古臭いドアを開ける。
「ほれ、ここでサイズが合うのを選べ。借りたらちゃんと、貸し出しノートに記入しとけよ」
Dr.にポンと背中を押されて、衣装部屋に放り込まれる。
「はぁ~い……」
(貸し出しノートって、アナログだなぁ……)
衣装庫の中は布の迷宮といった様子で、雑然と、多種多様な服がハンガーに吊るされて並んでいた。
「さって、私は上に報告に行くかなっ」
「いやぁ~、これでやっと徹夜から解放されるわぁ~」
「ボーナスも出るしなぁ~、今日は学校サボって一杯やって寝るぞぉ~。おい紗弥。お前のアパートで一緒に飲むか?」
バタン!
Dr.がドアを閉める。
「えー、私、今日は大学ですから無理ですよ~。それにウチ、四畳半なんだから、また寝られたら狭くて嫌ですよ~」
「何だよ、もう四回生なんだからサボっちまえよ~」
「嫌ですよ~。て、それより今の子、どうしたんですか? なにか、太陽克服技術の進展に関係があったんで……」
カツカツカツ……
話し声と足音を残して去ってしまった……本当にマイペースだなぁ……
一人、服の迷宮の捜索を始める。
しばらく右往左往としていると[小動高男子制服]とマジックで書かれたダンボール箱を見つけたので、蓋を開ける。
中はビニールに入ったクリーニング済みの制服が大量に入っていたので、ぴったりのやつを見つけるために、引っかき回す…………
「……コレで良いかなぁ……」
試着を繰り返すこと数回、なんとか体に合った制服を見つけた。
貸し出しノートに戦闘員番号、小動高男子制服一式とサイズを記入する。
……ふと、興味本位で前のページを覗き見ると、貸し出し履歴に、Dr.ヘッドランドの名前が沢山あった。
(ナース服とかチャイナ服とかキャビンアテンダントとか……何してるんだ、あの人は? 意外に暇人?)
呆れつつも、さらにパラパラと捲る。
(おいおい、女医の衣装借りてるよっ! 何時も白衣なんだから、女医を借りる必要ないよねっ!?)
思わず熱心に、貸し出しノートを読んでしまう。
(うわっ、カラー1将軍のボンデージまで……あああっ!? シャイニング・ピンクの衣装まで借りてるよっ!? 何を借りているんだっ、あの先生はっ!?)
と、いうか、諜報課はシャイニング・ピンクの衣装なんて、どうやって手に入れたんだ?
「……キリがないから止めよ。もう学校に行かなきゃ……」
気になりながらも、あまりに不毛だと思い、貸し出しノートを置いた。
衣装部屋を出る。
更衣室に戻り、時刻を確認すると、七時少し前だった。
この時間なら一旦うちに戻るのは止めて、このまま学校に行った方が良いだろう。
ロッカーから鞄を取り出して、更衣室を後にする。
有限会社お土産べんてんてんのドアから出て、弁財天仲見世通りへ。
弁財天仲見世通りの店々は、早い所ではもう開店準備を始めていた。
観光客はいないが、お店の従業員さん達がちらほらいるので、自転車を押しながら弁財天仲見世通りを下る。




