3.6 C調言葉に気をつけて6
「……そうだ。視力も良くなって眼鏡要らずなんですが、それも零型BIP細胞の作用ですか?」
再度ベッドに腰掛けて、コーヒーを入れるDr.の背中に問いかける。
「ほうぅ、視力も回復したか。それは特に考慮してなかったが、理論的には当然有り得る話しだな。超複製による最適復元だ。……ほれ、出来たぞ」
ブラックコーヒーを渡された。
「ども……あちっ……じゃあ、この……二枚目顔も、最適化のお陰ですか?」
この顔が、僕本来のポテンシャルなのだろうか?
片手を白衣のポケットに突っ込み、立ったままコーヒーを飲むDr.ヘッドランドに聞く。
「それは知らん」
グビッ……
「あぁあぁぁ~安物のインスタントは不味くて目が覚めるなぁ……」
「まぁ、普通に考えれば、それはお前の元の顔なんじゃないのか? 太る前の顔は覚えていないのか?」
Dr.は煙草と同じように、実に不味そうにコーヒーを飲みながら応えた。
「いえ、物心付いた時からのネイティブぽっちゃりアンだったから、痩せた顔は知らないです」
子供の頃から、デブに始まり東前頭三枚目まで、多種多様なあだ名で呼ばれてきた身なので、痩せた顔は一度も見た事がない。
「何がネイティブぽっちゃりアン、だ。つまらん」
グビッ……
Dr.はやる気のない突っ込みを入れて、コーヒーを飲む。
「ふぅぅ~~。うーーん、顔については何とも言えんな。超複製は身体の最適復元だから、個人の主観に左右される顔の造形に影響するのかなぁ?」
戦闘力とは無関係な問題のせいか、Dr.はイマイチ、真面目に考えていない様子だった。
グビッ……
「ふぅぅ~…………あああっ!? そうだっ!! お前の顔っ!! アレだっ!!」
Dr.が突然、何かに気がついて、叫んだ。
「アレって何ですか?」
「いやっ、そうだよっ。最初、お前のその顔を見た時、[誰かに似てるなぁ?]って思ったんだよっ」
なおも、興奮気味に話す。
「ほへ? 誰に似てるんですか?」
「零型BIP細胞の提供者の一人、前総統閣下だよっ。あのおっさんのスカした顔にかなり似てんだよっ」
「ええっ!? 前総統閣下にですかっ!?」
てか、前総統閣下をおっさんって……
「ああ、最重要機密になるから詳しく話せんがな、総統の家系は長寿で美形揃いなんだよ」
「で、今のお前は、まるで総統家の直系血族みたいな顔立ちなんだ」
「ああ~、なるほど。て、ことは、この顔は、零型BIP細胞を提供して下さった総統閣下の影響で、間違いなさそうですねぇ~。まぁ、そうですよねぇ~……」
うん、僕の元の顔が、こんなイケメンなはずないよね。
ちょっとガッカリだけど、納得した。
「しかし、そんなに総統閣下の家系は、長寿の美形揃いなんですか?」
末端の僕には知らされなかった情報に興味を覚えて、気を取り直し質問する。
「ああ、前総統は40代なのに20代の爽やかな二枚目青年に見えるし、前々総統……つまり初代総統閣下は今、80才を過ぎているのに30代の美女に見える超美魔女なんだぞ」
「さらに初代総統閣下の父親と祖母も、まだ生きているとの噂があるしな……ま、そっちは、私は見たことはないが」
「へえぇぇ、凄い家系ですね」
さすがは[人ならざる者の家系]といったところだろう。
「それにしても、初代総統閣下は女性だったんですね」
「なんだぁ、お前はそんな事も知らなかったのか? 初代総統は伝説の悪の戦妃として有名だぞ?」
「鎌倉夜叉狐の初代当主、妖艶な[真紅の荼吉尼天]と初代BIP総統、冷艶な[黒紫の天女]」
「二人は、日本の悪の秘密結社史に[湘南二天妃]としてその名が残るほどで、南関東で一時代を築いたと言われているんだ。さすがに、これは常識だぞ?」
「ほへえぇ、そうだったんですねぇ……」
ぶっちゃけ、初めて知った。
「さて、話しを顔のことに戻すが、前例が一切ないからな、その顔がお前本来の顔なのか、総統家の細胞による影響なのかは、半々ってところだと思っておけ」
Dr.ヘッドランドは素っ気無く肩を竦めた。
「なんせお前が初めてだからな。理論通り100日以内で触手怪人化が解けるのかを観察するために、お前には一旦、追加の注射は打たない予定でいるんだ」
「だから約三ヶ月後には、自のずと顔の謎は解けるだろう。ま、戦闘力には関係ないし、それで良いだろ?」
Dr.は、くぴっと喉を鳴らしてコーヒーを煽る。
「ふぅぅ~。それに、別に顔が良くなって困ることもないだろ? 三ヶ月はそのままだから、しばらくはスカしたイケメンとして過ごせ」
Dr.が、飲み終わったマグカップを机に置く。
「まぁ、元のおデブ姿に愛着があった訳でもないですし、それで良いですけど……」
と、そこで気がつく。
……あれ? 痩せて男前になって、怪人として時給がUp。
しかも戦闘に勝てば、ボーナスが20万円……って、もしかして僕、良い事尽くめ?




