3.5 C調言葉に気をつけて5
上陸した江ノ島にはまだ人影がなく、ひっそりとしていた。
そのまま自転車で青銅の鳥居を潜り、弁財天仲見世通りを走り上る。
キキィィィーーー……
まだシャッターの下りている、海苔羊羹のお店の傍に自転車を置いて、横の狭い路地の中へ入る。
「717129……」
暗証番号を打って、アジト内に入る。
「幾ら早朝とはいえ、街中で触手の化け物に変わっていたら、大変な騒ぎになるところだったよ……」
とりあえず、最悪の事態は避けられ、ほっとする。
続けて網膜と指紋の認証を行い、無事、男子更衣室に入る。
室内には誰も居らず、ひっそりとしていた。
「よし、このまま行っちゃお」
一秒でも早く、Dr.ヘッドランドに診て欲しいので、ロッカーに鞄だけ放り込んで、戦闘員服に着替えずに、更衣室を飛び出す。
走って、個人研究室に向かう。
ドン! ドン! ドン!
「Dr.ヘッドランドっ! 居ますかっ!? 僕っ……戦闘員8712号ですっ、開けて下さいっ!?」
焦る気持ちで、強めにドアをノックしながら声をかける。
(あ、よく考えたら、こんな早朝に、Dr.が研究室にいるのかな?)
ノックしながら、ふと、そんな考えが頭に浮かぶ。
ドン! ドン! ドン!
(普通に考えたら、今頃は、自宅で寝ている可能性の方が高いよな……)
ドン! ドン! ドン!
それでも、焦りから、藁にも縋る気持ちで、ノックし続ける。
ドン! ドン! ドン!
「Dr.ヘッドランドっ! 居ますかっ!? 緊急事態なんですっ! Dr.ヘッドラ……」
プシュー……
「何だぁ~? 夜這いなら要らないから、よそに行けぇ~~……」
自動ドアが開き、同時に中から返答があった。
(やったっ! Dr.がいてくれたっ!)
僕は喜び、部屋を覗き込む。
室内は、雑多な機械が怪しく点滅するのみで、照明は落ちていた。
薄暗い部屋の奥から、さらに声が続く。
「連日の徹夜続きで、もう死にそうだ。迎撃するのも面倒だから、その辺の機械を適当に弄って、勝手に自爆死してくれ。じゃ、おやすみ……」
プシュー……
ドアが閉まりかける。
「ちょっと待ってっ! 夜這いじゃないんですっ! 僕、一週間前に来た、戦闘員8712号ですよっ!」
「急に体に異変が起きたんですっ! 診てくれませんかっ!?」
閉まりかけたドアを体で強引に押さえると、安全装置が働いたのか、ドアが戻った。
「戦闘員87……知らんなぁ。まあいい。男が朝に、体に異変を起こすのは、自然なことだ。私に頼らず、自分で何とかしろ~~。じゃあな~~」
「そうじゃなくてっ!! 僕っ、一週間前に[試作型触手細胞怪人初号]に成り損なった戦闘員ですよっ! 体が凄い変化を起こしたんですっ!」
僕は、勝手に半歩、室内に侵入しながら、雑多な機械の向こう側に叫ぶ。
「んん? …………ああ、そんなのいたなぁ。あの失敗作君が、今さら変化だと? ……分かった。入れ」
許可が出たので、すぐに機械の細道に体を通す。
少し開けた場所に抜けると、丁度、白衣のDr.ヘッドランドがベット(僕がこの前拘束された診察ベット)から、むくりと起き上がるところだった。
「ふあぁぁぁ~~~~。で、失敗作にどんな変化が起きたって? ライト・オン」
音声センサーでスイッチを入れたのか、室内に明かりが点いた。
ベッドに座った白衣の女性が、眠そうな目でこちらを見上げてる……
アイマスクのしていないその顔には、見覚えがあった。
「ええっ!? 神城岬先生!?」
緊急事態を忘れて、驚き叫ぶ。
神城岬先生……神城岬悠先生は小動高校の養護教諭……つまり、平たく言えば、保健室の先生だ。
20代後半の美人で、結構巨乳な先生なのだが、保健室で煙草を吸ったり、ヘンテコな機械を製作したり、訪れた生徒に人体実験を試みたりと、担任のランス先生の次に困った先生として有名だ。
ちなみに、僕と椎名君、一宮君は、密かに先生を[傍若無人なお姉さん]と呼んでいる。
まさかDr.ヘッドランドの正体が神城岬先生だったとは……世間の狭さに驚く。




