3.4 C調言葉に気をつけて4
って!
のん気に観察してる場合じゃないぞっ!
コレはどう考えても、
「風邪をひいて痩せました、テヘペロ」
ってレベルの話じゃないっ!
完全な異常現象だっ!
こんな異常を起こす原因で、思い当たるのは……
「そうだよっ! 思い当たるのは一つしかないっ! Dr.ヘッドランドの注射だっ!! アレしか考えられないっ!!」
[失敗した]
[注射した細胞は消えてなくなった]
そんな言葉を聞いて、すっかり終わったことにしていた。
……いや、僕が、終わったことにしたかったんだ。
あの注射の後、帰り道で体調を崩して寝込んだくせに、怪人になんてなりたくない気持ちがまさって、ワザと頭から消していたんだ。
……心の隅で、もしかしたら? と、不安を覚えていたのに……
「視力が急に良くなったのだって、異常だったし……」
(そうそう、母さんが部屋に来る度に[何だかちょっと、ゲッソリしてきたわねぇ~~]なんて言ってたっけ)
研究室では気がつかなかっただけで、実際はゆっくりと、体に変化が起きていたのだ。
「ぐっ! じゃあ、もしかしてっ! コレからさらに変化が起きて、ドロドロブヨブヨの触手怪人になるのかっ!?」
ヤバいぞっ!!
不安になり、再度、鏡の中の、自分の体を確認する。
隅々まで体を映し、どこかに触手が生えてないかを確認する。
しかし鏡に映るのは人間の、それもとても整った体があるだけだった……
ひとまず、ほっとする。
「……でも、コレから、なにが起きても不思議じゃないよ、ね?……どうしよう……」
今後に対し、漠然とした不安を覚える。
「よしっ! とりあえずDr.ヘッドランドに診て貰おうっ!」
それ以外、対処方が浮かばない。
今からBIPに行こう。
触手怪人化を止められるか……いや、止めてくれるかは分からないが、最悪、変化するにも、BIPアジトの中で、Dr.ヘッドランドの前の方が良いだろう。
自宅で触手怪人になんかなったら、洒落にならない。
善は急げ。
僕は、すぐに風呂場から飛び出すと、髪と体をパパッと簡単に拭く。
髪はかなり濡れたままだが、そのまま換えのシャツとパンツを着る。
が、痩せたので、両方ともブカブカのダボダボだった。
行きと同じように、パンツを手で押さえながら部屋に戻る。
ブカブカの下着の上に、ブカブカの制服を無理やり着た。
どうせ、この体に合う服なんて持ってないのだから、制服でいいだろう。
「……何か、昔の漫画に出てくる、不良のズボンみたいだな……」
ブカブカのズボンを見て、そんなことを考える。
ボンタン、とか、そんな名前だっけ?
一応、通学鞄に、財布とスマホを突っ込んで持つ。
「これで電車に乗るのは恥ずかしいから、自転車で行こう」
現在、時刻は5時過ぎ。
始発は確か5時半頃だったから、どの道、江ノ電は不可だろう。
玄関を飛び出して、ガレージから潮風で所々錆びが浮いたママチャリを出す。
[サーカスの熊みたい、逝なす]
と、妹の檸檬に言われるので、普段は滅多に自転車には乗らない。
いつ、さらなる変化が起きるか分からないので、早く行こう。
ギュンッッ!!
自転車を漕ぎ出すと、体重が軽いせいなのか、ペダルがやけに軽い。
「自転車って、こんなに速かったっけ?」
軽く疑問を感じて走っていると、あっと言う間に、鵠沼海岸付近の国道134号線まで出た。
「まあ、急いでいるから丁度良いや」
海面からは、薄っすらと朝靄が立ち上っていた。
砂浜から吹く、早朝の柔らかい潮風を全身で切りながら、海沿いを疾走する。
早朝なので、交通量はまだ少ない。
途中で、真っ黒なフルカウルのバイクに乗った、ライダーと擦れ違った。
新江ノ島水族館前を通り過ぎ、片瀬橋を渡る。
ギュンと国道から江ノ島弁天橋の隣の車道[江ノ島大橋]へ曲がる。
僕の目に、靄々とした相模湾に浮かぶ、美しい江ノ島の姿が飛び込んできた。
「……綺麗だな……」
見飽きたほどに見慣れた観光地の江ノ島だが、早朝の薄靄の中に浮かぶ姿は、絶景と評しても大袈裟では無い美しさだった。
空には、青白く輝く有明月まで浮かんでいて、とても絵になっていた。
ひと時、自身の危機を忘れ、自転車を漕ぎながら見入る。
薄く棚霧る長い橋を、一気に走り抜ける。




