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新江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜  作者: 綿野草空希


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1.2 Computer Children1

ちょっとだけ、場所紹介 [小動高校前駅]

小動高校前駅は、腰越駅と鎌倉高校前駅の間にある、架空の駅。

海沿いの国道134号線と、丘との隙間に、片側1線のホームが建つ、無人駅。


 フルボッコの、約一週間前……


ギシシシ……キンッキキンッ! ギシシ……ミシ……


 なんの変哲へんてつもない月曜日の朝、江ノ島電鉄……通称[江ノ電]が狭い腰越商店街の中を、何度も加速と徐行を繰り返しながら、走り抜けていく。


 この江ノ島駅と腰越駅までの路面電車区間は、車と江ノ電が同時に走るには無理でしかない道幅なので、徐行して走っていても、たびたび強めのブレーキがかかり、かなり揺れる。


 そして、その度にブレーキ音とレールと車輪が擦れて鳴る、甲高い金属音が車内に響き、車両の連結部分がギシギシと悲鳴を上げた。


 僕は、朝の渋滞にはまっている車のドアミラーすれすれ……わずか10cm程度の隙間を残して、四両編成の電車が平然と通過して行くいつもの風景を、車内からぼんやりと眺めた。


 腰越駅を出て短い路面電車区間が終わると、電車は解き放たれたように一気にスピードを上げる……この瞬間はいつも、ちょっと怖い。


 パッと列車前方の視界に雄大な海が広がると、目的地の小動こゆるぎ高校前駅はすぐそこだ。


 江ノ電はスピードを落とし、海と丘の隙間に無理矢理造ったような小動こゆるぎ高校前駅に到着する。


 電車はドアが開くと同時に、制服姿の高校生を大量に吐き出す。


 僕もその流れにのって、一緒に狭いホームに降りる。


 学生を吐き出した江ノ電は、すぐに次の駅、鎌倉高校前駅へ向かって発車した。


 今朝は晴天で、海からの照り返しが強く、まだ初夏なのに暑い。


 僕は、ちょっとだけポッチャリ体型なので、改札を抜けただけで、汗が出る。


 駅から歩き出すと、すぐに汗だくだくになる。


 眼鏡も曇る。


 制服も湿る。


 それでも潮風はまだ冷たいので、真夏のような命の危機を感じる暑さには、ほど遠くて助かる。


 それにこの潮風は、オタの僕の無造作ヘアという名のもっさりボサボサ頭を、潮風に吹かれたせいに出来るので、二重にありがたい。


 ポケットからハンカチを取り出しつつ、学校へ向かう。


 この近辺にある、いくつかの[ただの踏切]は、すっかり国際的な観光地と化していて、小動こゆるぎ高校前駅のそばにある[ただの踏切]も、連日、外国人観光客が押し寄せてくる。

 


 朝なので、まだ踏切には、わざわざアジアから訪れた観光客の群れはいない。


 「由比里殿、おはようでござるっ」


 高校に向かう坂道で、後ろから声をかけられた。


 振り向くと、背の低い男子と、中肉中背の男子がいた。


 声をかけてきた背の低い男子は、一宮君だった。


 「おはよう、[同志]由比里」

 中肉中背の男子、椎名君が手をシュタッと上げて挨拶してきた。


 「おはよう、一宮君、椎名君。今日も暑いね」

 僕はハンカチで汗を拭き拭きしながら、笑顔で応える。


 一宮君、椎名君は僕のオタ友達にして、クラスメイトだ。


 そのまま三人で、学校に向かって並んで歩く。


 「由比里殿、やはりアニメ版[マブラブ・オルタ]の第三期はないようで御座るよ。椎名殿とも話して御座ったが、やはりTVアニメ化には限界があったというしか御座らんなぁ」

 一宮君が唐突に、そんな話を振ってきた。


 「やはり、あの壮大なストーリーは、PCゲームでしか表現出来ない、ということだな。視聴率も低く、円盤もグッズの売り上げも低調だそうだ」

 椎名君も重ねてくる。


 「あー、やっぱりそうかぁ……僕も観てて、これは厳しそうだなぁ、って思ったもん」

 これは僕自身、かなり気になっていた話題だったのですぐに応える。

 

 ここで説明しよう! (僕のナレーション口調を想像してねっ)


 [マブラブ・オルタ]とは、2000年代に発売された伝説的PCゲーム[マブラブ]と[マブラブ・オルタネイティブ]のことを指しているのであーる。


 [マブラブ]は前半が平和な日本の、横浜にある学校でのラブコメで、後半は地球外生命体との戦争で疲弊している並行世界に飛ばされた主人公が、横浜にある国連軍の基地で、パイロットの訓練を受ける話なのだっ。


 そして[マブラブ・オルタネイティブ]は[マブラブ]の後半で上手く活躍出来ずに死んでしまった主人公が、前世の記憶を持ちながら、もう一度、世界を救うために奮闘する、超長い、超感動の大作ゲームなのである。


 おそらく、文庫本に換算したら、4、50冊は軽くいく分量のシナリオなのであーる。


 それを2020年代になって、アニメ化したのであーる。

 

 超圧縮であーる。


 無茶なのであーる。


 あーる。

 

 「TVアニメだと相当駆け足だし、何より[人類を救うことに失敗して死に、その失敗した前世の記憶を持ってもう一度やり直す]のが物語のキーなのに、肝心の失敗した前世の部分を全部、端折はしょっているからね」


 「アレだと[マブラブ]のPCゲーム版をプレイしていない人には、一体、なんの物語なのか分からないだろうね」


 「結局、よくある張三李四のロボットアニメだと勘違いされて終わっちゃったみたいだね」

 そう鼻息荒く熱く語ると、すっかり眼鏡が曇ってしまった。


 慌てて眼鏡を外してハンカチで拭く。


 「ですなっ、さすがは由比里殿、分かって御座るな。」

 「うむ、それでこそ、我が[同志]だ。」


 僕の意見に友人……親友二人が、満足げな笑顔を見せる。


 「まあ、アニメの製作者が悪いわけでも、ましてやAgeが悪いのではない。結局、TVアニメという時間の限られた媒体自体に問題があるわけで……」


 「やはり実験的な物語は、PC版のAVGでしか……」


 そのまま歩きながら、三人共通の趣味話で盛り上がる。


 僕たち三人は、所謂いわゆるオタクと呼ばれる人種だ。


 それも[ギャルゲー]とか[美少女ゲーム]などと呼ばれるゲームのオタクという、[アニオタ]や[ドルオタ]などよりさらに肩身の狭い、一般人からは理解されづらい存在だ。


 僕らが生まれる以前の[美少女ゲーム]業界は活況に沸いていて、ゲームをリリースすれば、なんでも売れる状況だったそうだ。


 しかしそんな好景気は長くは続かず、十数年前からどのメーカーも売り上げが伸びなくなり、現在は長く、酷い不況の真っ只中で、しかも回復する兆しが全く見られないつらい状況なのだそうだ。


 そんな時代なので僕ら[美少女ゲーム]オタクたちは、とかく日陰者扱いされる日本のオタクの中でもさらに少数派であり、社会の隅で目立たぬように、ひっそり生息することを余儀なくされる、悲しい存在なのだ。


 低身長な友人の一宮君は[侍娘]が登場するような美少女ゲームを好み、そういったジャンルの作品を手がける、有名ライターの[タカヒロ]氏の熱烈なファンだ。


 そして、彼こそ苦難の美少女ゲーム業界を支えてくれている救世主、強気姉好侍娘命つよきあねずきたかひろのみことだと、あがたてまつっている。


 一方、中肉中背の友人の椎名君は、一般人にもある程度認知されている有名作品[ダ・カーポ]シリーズの大ファンだ。


 彼はこの作中に登場する、神出鬼没の怪しげなキャラ[杉並]に憧れていて、[杉並]の口癖を真似て、大仰おおぎょうに僕らを[同志]と呼ぶのだ。


 もちろん、ただ憧れているだけで、本人は神出鬼没でもなければ、特殊なスキルを持っているわけでもない、いたって平凡な中肉中背のオタク高校生だ。


 そしてこの二人を友人に持つ僕、由比里ゆいさと 是陽これあきは[美少女ゲーム]全般をまんべんなく愛しているのだが、強いて言えば、業界が元気だった頃の古いゲームを好む傾向がある。


 特にPCゲームメーカー[戯画]が一昔前にリリースした学園青春物の名作[この青空に約束を]の大ファンだ。


 僕はこの作品を生んだ、ライターの[丸戸史明]様を尊敬して、銘度喫茶丸戸史明命めいどのくにぬしのみことあがめているのだ……


 「…………それにしても同士たちよ。結局、マブラブのライター[吉宗綱紀]神は、どっちが苗字で、どっちが名前なんだ?」


 「え? 普通に考えれば、吉宗が苗字なんじゃないかな?」


 「ふむ。それか外国で名乗るように、[綱紀]が苗字で[吉宗]が名前って線のどっちかかな?」


 「いやいや、[吉]が苗字で[宗綱紀]が名前の線も御座ろう」


 「えっ!? そこで切るの? それだとライターじゃなくて、演歌歌手になっちゃうよ?」


 「[吉]が苗字で[宗綱]がミドルネームで[紀]が名前の可能性もあるな。」


 「ヨシ・ムネコウ・キ?……それはどうで御座ろうか?」


 「なら、コウ・キヨシ・ムネならどうだ? これならちょっと、アニメに出てくる日系人のバッタモノっぽくて有りだろ?」


 「いや、日系人のバッタモノって何よ? おっかないなぁ」

 もう、原型残ってないし。


 ……三人で姦しく伝説的超名作のマブラブを生んだ神様、君望吉宗綱紀選択命きみがのぞむおるたねいてぶのみことの話題を喋りながら坂を上る。


 先に校門が見えてきた……


 「……しかし、話は変りまするが、由比里殿は変わった四字熟語が好きで御座るな」


 「先ほどの張三李四は[平凡]とかそんな意味で御座ったかな? あまり耳にしない言葉で御座るなぁ。」


 「だな。まあ、同志由比里はライター志望だから仕方ない。一種の癖だろう」


 「ああ……うん、まあね……」

 椎名君の指摘通り、僕の夢はゲームライターやライトノベル作家なので、使える語彙ごいを増やそうとして、珍しい言葉を覚える癖があるのだ。


 僕自身、これは伝わり辛いから控えないと駄目だと分かっている。


 分かってはいるのだが、つい、せっかく覚えた言葉を使ってみたいという誘惑にかられてしまうのと、使わないとすぐに忘れてしまうので、なるべく使いたい、との思いがあって、度々口にしてしまうのだ。


 校門まであと少しだ……

 この物語は、私が数年に渡り書き溜めてきた小説を、再度、手直ししつつ、投稿しています。


 長い話ですが、頑張って、コツコツと投稿し続けます。

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