2.11 遥か国神の島11
それからさらに、さらに、一時間半後……
「……………………たくっ、すっかり寝ちまいやがって……おいっ、失敗作っ、起きろっ! おいっ!」
乱暴に顔を叩かれて、目が覚める。
「……………………ううん?……お母さん……もう朝ご飯?」
「誰がお母さんだっ、アホっ! 後、お前は食事のことばっかり言ってるなっ」
ペチン! ペチン! と、頬を叩かれる。
「お前、もう帰っていいぞっ」
「ほへぇ? いいんですかぁ? ……ふぁぁ……」
欠伸をしながら聞く。
「ああっ、帰って良しっ。怪人化は大失敗っ、零型BIP細胞は大失敗だっ!」
Dr.ヘッドランドは、ドスンと椅子に座る。
「さっき採った血液をな、今、よくよく調べたがなっ、お前の血液中にあるはずの零型BIP細胞は、まったぁぁぁーーーーーーーく、どこにも、見当たらなかったよっ」
「ただのコレステロール過多の、ドロドロ血液になってたよっ」
部屋に備え付けの大型顕微鏡を、苦々しく見ながら吐き捨てた。
「ない? どーゆーことです?」
「知らんっ! 消化でもしたんじゃないのか? この悪食小僧め」
Dr.ヘッドランドは背もたれに体を預けて、天を仰ぐ。
「さあー、これでBIPはいよいよ詰んだぞーー」
そのままダラリと弛緩する。
「終わり~終わり~みんな終わだ~仲良く相模湾に沈みましょう~……」
天井に向けて、投げ槍な歌を、歌い出す。
「あのぅ……何か、すみません……」
ベットに座りながら、頭を小さく下げる。
「いいよっ、BIPが潰れても、誰もお前のせいとは言わないよっ、失敗作君っ!」
とても嫌味な仰り方だった。
Dr.ヘッドランドはそのままクルリと背を向け、机のPCに向かう。
「しょうがない……悪足掻きかも知れんが、私はこのアジトを死守するためにも、BIP細胞の改良を急がねばならん」
「もう、失敗作に構ってはいられんのだ。帰れ」
真剣な声で呟くと、興味ナッシングといった感じで、シッシッと手で追い払われた。
「じゃ、じゃあ、お先に失礼しまぁ~す……」
これ以上ここに居ては、迷惑だろう。
僕はサッと、強化スーツを着直し、立ち上がる。
そして、強化目出し帽とアイマスクを掴むと、Dr.ヘッドランドの背中に頭を下げ、静かに部屋を退出した。
一人、廊下を歩きながら、目出し帽とアイマスクを装着する。
(まあ、Dr.ヘッドランドには悪いけど、正直、コレで良かったよ。助かった。ホッとした……)
幾ら特典が多いとはいえ、やっぱり怪人にはなりたくないのが本音だ。
「キモオタと呼ばれても、触手怪人になるよりは全然マシさっ。何も起きなくて本当に良かったよ」
きっと触手怪人の見た目はブニブニ、ドロドロの気持ち悪いモノだろう。
そうなったら、学校はおろか、フィリッポさんの[Orizzonte]にも行けなくなってしまう。
「なにより、流石の青浜さん、龍巳さんでも、触手男とは仲良くしないだろうからなぁ……あのお二人に嫌われるのだけは、嫌だ……」
オタな僕でも、この淡い恋心は、大切なものなんです。
ホッとして、足取り軽く戦闘員待機室に戻ると、中は閑散としていた。
時計を見ると、時刻はもう夜の九時を過ぎている。
偶発戦闘は大抵夕方に起こるものなので(この原因は、魔法少女が大抵、学生のためだからと言われている)、すでに大方の戦闘員は帰宅し、泊り込みの夜間待機戦闘員だけが残っていた。
「二人はもう、帰っちゃったかな?」
出勤表のボードを見ると、二人はもう退勤したみたいだ。
僕も退勤する時間を過ぎている。
正社員戦闘員に退勤すると伝えて、タイムカードを押し、更衣室に行って着替える。
「遅くなっちゃったなぁ……」
呟き、何気なくスマホを見る。
当然、圏外なので、スマホを見ることの無意味に気がつき、すぐに仕舞う。
アジト内は、スマホは使えない。
盗聴盗撮防止の妨害電波が出ているためだ。
アジト内では、BIPの特殊な通信機以外、スマホどころか、あらゆる一般の通信機が使えないようになっているのだ。
続きを読みたいと思った方はブクマを、
面白いと思った方は星評価を、
忘れずに押してくださいね。
押すと、なにかがイイ感じになります。




