2.10 遥か国神の島10
五分後……
「……………………何も起こらないなぁ……………………」
白衣をババンと翻したポーズのまま、Dr.ヘッドランドが呟く。
「……ふぇすねぇ……」
僕は口を塞がれたまま、答える。
「……体調とかに、何か変化はないか?」
ババンのまま聞いてくる。
「……ふぉくひは……ひぃへひゅへはふぉにゃははすひたくらひす……」
「えっ? 何て?」
Dr.ヘッドランドが聞き返しながら、キーボードを叩く。
シュン! と、口のベルトが外された。
「今、何て言った?」
「特には。強いて言えば、お腹が空いたくらいです……と言いました」
「チッ……まあ、もう少し様子を見よう。もう少しすればきっと、ババババンと大いに変化して、触手怪人になるはずだ……絶対に……多分」
Dr.ヘッドランドはキーボードから離れて、わざわざババンのポーズを取り直し、僕をジッと見つめた……
……………………
それから一時間後……
「……………………Dr.ヘッドランド、煙草吸い過ぎですよ。後、貧乏揺すりを止めてくれますか?」
ベットに横たわりながら言う。
「うっさいっ! バイトのくせに指図するなっ! お前が変化しないから、こっちはイライラしているんだっ! さっさと怪人に変われよっ!」
とっくにババンのポーズを止めて、椅子に座ったDr.ヘッドランドが、スパスパと煙草を不味そうに吹かしながら答えた。
「そろそろ、体に違和感の一つでも感じないのかっ!?」
半ギレで問いかけてくる。
「……特には……強いて言えば、お腹が空いたくらいです……」
問いには、素直に答える。
「お前はソレばっかだなっ!」
Dr.ヘッドランドは、不味そうにスパスパーと煙草を吹かしなが、そう吐き捨てた……
……………………
それから、さらに、一時間後……
「わわっ、何ですかそれっ!?」
全身のベルトが解除されて、ベットに腰かけながら聞く。
「ん? ハマグリの炊き込みご飯だぞ? ほら、真ん中にデカイはまぐりが入っているやつだ」
「お前、食べた事無いのか?」
Dr.ヘッドランドが部下の研究員に持ってきて貰った、賄いのおにぎりをパクつきなが答えた。
「僕は、シラスとワカメのおにぎり以外、食べたことないですよ~~」
炊き込みご飯のおにぎりを、ガン見しながら答える。
「ああ、コレは幹部用だったか……バイト用とは、違うんだなぁ……」
Dr.ヘッドランドは意外に整った唇で、パクリと齧り付く。
「いいなぁ、僕のこのシラスと、交換して下さいよ~」
「嫌だねっ。お前が腹減った腹減ったと煩いから、わざわざ持って来て貰ったんだ」
「さっさとバイト用の賄いを喰って、怪人に変身しろっ」
そこでDr.ヘッドランドは、ふと思いついたように言う。
「そうだよっ! お前、怪人になれば 幹部用の賄いになるんだぞ~。好きな物をリクエストすることも、可能なんだぞ~」
「本当ですかっ!? ナポリタンもOKですかっ!?」
「……お前、本当にナポリタンが好きなんだな……ああ、怪人のリクエストはかなり聞いて貰えるぞ、何てったって戦闘の要だからなっ」
「怪人になれば、賄いだけじゃなく、時給だって今の倍以上になるぞ」
「で、戦闘に出れば危険手当もつくし、敵を倒すか撤退させれば、勝利ボーナスも出るぞ」
「……なんと、ボーナスはその場で20万円取っ払いだ」
Dr.が、最後は声を、潜めて言う。
「マジですかっ!? そーゆーことは、早く言って下さいよぉーー!」
そうなると、話しは別だ。
食い入るように、話しを聞く。
「怪人になると、福利厚生で江ノ島内の幾つかのホテルやスパが、無料で使える特典もあったなぁ」
「毎月、給料日に一本[海苔羊羹]も貰えるし……そうそう、怪人なら当然、幹部正社員として、BIPに就職も出来るぞ。結構、給料良いぞぉ~」
「ぬおおぉぉ! 我が触手よっ伸びろぉぉぉーーーー!! のーびーろぉぉぉーーー!!!」
がぜん、やる気になって立ち上がり、気合を入れて、体のアチコチに力を入れて、踏ん張る。
「無限触手ぅぅぅぅーーーーー!! 細胞超複製ぃぃぃーーーー!!」
声を張り上げて、ババンのポーズを取る。
「……………………」
そんな僕の様子を、Dr.ヘッドランドは無言のまま、マスクの奥からジト目で見つめる。
「……………………ふう~、駄目だ。気合入れたら、お腹が空いてきちゃった……」
僕はアッサリ諦めて、座ってシラスおにぎりを掴む。
「あっ、そっちは何です!?」
「はぁぁぁ~~~~……コレは丸ごとホタテチャーハンのおにぎりだよ」
「ええぇ~~~!? いいなぁぁぁ~~~~」
「はぁぁぁ~~~~……」
Dr.ヘッドランドは、盛大に溜め息をついた……
……………………
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