2.9 遥か国神の島9
Dr.ヘッドランドは煙草を揉み消して、ゆらりと立ち上がった。
「数千人でたった一人。お前が一番の適合者・・・いや、やっと見付かった唯一の適合者なんだよ」
「成功すれば、無限触手と超複製の両方が使えるようになるはずだ」
「お前は現総統閣下以上の能力を持つ、無敵の怪人に生まれ変わるんだ」
Dr.は、ヨレヨレの白衣の襟を、手でスススッと直した。
「現在、零型BIP細胞の改良も進めている」
「当初の予定では、いきなり人体に投入したりせずに、お前の細胞を採取、培養して実験を繰り返すはずだった……」
「お前は唯一の貴重なサンプルだからな、本来危険に晒すのは拙い。しかし……」
注射器を再度持つ。
「しかし状況が変わった。お前も聞いただろ? KMR47こと鎌倉夜叉狐が壊滅したのだ」
「そしてコレは知らされていない話しだが、湘南防衛機構サンシャインとアースジャスティスは、古くから共闘関係にある組織だ」
「何でも、創設者が兄弟だか従兄弟同士だったという噂でな……まあ、未確認だし、胡散臭い話しかもしれんがな」
「だからこの先、奴らが手を組んで、BIPに戦いを挑むのは、ほぼほぼ、間違いないと私は考えている」
「つまり総統閣下はああ言ってみせたが、実際はBIPの置かれている状況はかなり厳しいってことだ」
「一日でも早く、強力な新戦力を用意して備えなければ、BIPは早晩、滅び去るだろう」
Dr.ヘッドランドはすぐ横に立ち、注射器を構えた。
彼女の様子は真剣そのもので、マスクの奥の瞳には、焦りの揺らぎが見て取れた。
「状況は分かったな? もう実験を繰り返すなんて、悠長なことは言ってられないんだ」
「お前は今から[試作型触手細胞怪人初号]となる。無論、拒否権はない」
「なに、今回は人体改造手術はなしで、この注射一本だ、すぐに済む」
「さっき言った通り、痛みは筋肉注射程度。副反応もコロナワクチンより軽い予定だ」
「お前の血液は試験管内での実験では、成功確率100%だ。必ず上手くいく」
「追加で注射をしなければ、怪人化は100日以内……三ヶ月程度で解除されて、元の人間に戻る」
矢継ぎ早に捲くし立てる。
「まままま待って下さいっ! 話しは分かったけど、待って下さいっ!」
「僕、BIPは好きだけど、怪人なんてなりたくないですよっ! 僕はまだ高校生なんですっ! 怪人になったら、学校に行けなくなりますっ!」
必死に訴えかける。
「済まんな、我々も必死なんだよ。お前を怪人にするしかない、BIPの無能を許せ」
Dr.は、某ラダビ○ット指令とは正反対の台詞を口にして、片手でキーボードを叩く。
するとベットから、さらに無数のベルトが伸びて、僕を雁字搦めにし、口まで塞いでしまった。
プスッ……チューー……
身動きが取れなくなると間髪入れず、実に呆気なく、一切の躊躇なく、腕に注射されてしまう。
「んんんんんんんんんんっっっっ!?!?!?」
痛みより、血管内に異物が入る感触に、悪寒が走る。
Dr.ヘッドランドは、淀みない手つきで、注射器内の零型BIP細胞を、全て僕の体内へ注入していく。
プツ……コトリッ……
全て注入されて針が抜かれ、注射器内は机上に戻される。
「完了、だ」
「……さあっ、出でよっ。最強の[試作型触手細胞怪人初号]っ!」
白衣をババンと翻して、Dr.ヘッドランドが叫んだっ!
「んんんんっっっっ!?!?!?ぐうぬぬぬぬぬっっっ!!!!!」
ギュンッ! ギュンッ! ギュンッ! と、血液内を異物が駆け巡る感覚に、僕は強い恐怖を覚えた……
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