2.8 遥か国神の島8
「えっ!? えっ!? えっ!?」
突然のことに驚き、声を上げる。
「なななっ、何ですかっ、コレっ!? うっ、動かないっ!」
自分で言うのもなんだが、金属ベルトが体に食い込む姿は、縛られたチャーシューのようだった。
「……何か、ラーメンが食べたくなってきたな……終わったら食べに行くか……」
僕と同じことを考えたDr.ヘッドランドは、疑問をスルーしてベッドから離れる。
そして、机から奇怪で巨大な注射器を取り出した。
さらに、蛍光オレンジの液体が入ったビンも、取り出す。
「ふふん~~、らららぁぁ~~~、ふん~……」
Dr.は鼻歌を歌いながら、注射器でチューーと怪しい液体を吸い上げる。
「あのあのっ、Dr.ヘッドランドっ。コレは何なんですかっ! ベルトを外して下さいっ!」
嫌な予感しかしないので、なんとか抜け出そうともがく。
「それにその注射っ、まさか僕に打つつもりじゃないですよねっ!?」
「打つぞ、打つ打つ」
「お前は健康診断で、色々と体に問題があるのが分かってなぁ、戦闘員の健康を預かる身としては、放置出来ないのだよー」
酷い棒読みで説明しつつ、ユラリとそばに立つ。
「コレは血糖値と、コレステロール値と、薄毛と剛毛を改善する、健康に良いお薬だよー」
「打てば忽ち、成人病にかからなくなるぞー、良かったなぁー?」
「嘘ですっ、そんな異次元の色彩をした液体が、体に良いはずがありませんっ!」
「本当は、なにかの改造手術をするつもなんでしょうぅ!? 僕嫌ですっ!!」
はっきりとは見えないが、どう考えてもまともな薬の色ではない。
動けないなりにも、注射出来ないように、ジタバタと暴れる。
「ウソジャナイヨー。痛みは筋肉注射程度でぇー、副反応もコロナワクチンより軽いはずだよー」
ひらひらと手を振って、胡散臭い笑顔を向けてくる。
「嫌だっ! 嫌だっ! 嫌だっ! 嫌だっ! 嫌だっ! 絶対っ嫌だぁぁぁぁーーーーっ!」
首を振って、抵抗を続けた。
「はぁ~~~、たくっ、しょうがない。じゃあ、本当の事を説明してやるよ」
Dr.ヘッドランドは面倒臭そうに頭をガシガシとかくと、机に戻って注射器を置いた。
「コレの中身は、長年に渡り研究が続けられて、ようやく実用化の目途がついた、汎用型超複製触手細胞[零型BIP細胞]だよ」
Dr.はギシッと音を立てて、椅子に座った。
「お前は、この前の偽健康診断で採取した血液によって[零型BIP細胞]の適合者だと、判明したんだよ」
「零型BIP……細胞? 適合者?」
ベットに寝ながら、首を傾ける。
「そうだ。この細胞の素はな、前総統閣下と現総統閣下のものでな」
「……ええとな、最近、総統閣下の家系は古き神々、混沌の支配者たちの血が入っている、なんてクトゥルフ風の話を取り入れ始めてたろ?」
「あ、それ、止めたそうですよ?」
「ああ、らしいな」
「けど、そんな話しを吹いても、何ら違和感がないほど、生まれつき特殊能力を持った家系なんだ」
「人工的、後天的に能力を与えられた怪人とはまったく違う、人とは別の生命なんだよ」
煙草を取り出して火を着ける。
「ふぅぅーー……前総統閣下は細胞複製能力は弱いが[無限触手]の能力を、生まれながらに使えたそうだ」
「そして現総統閣下は[触手]は持たないが[細胞超複製]の能力を、生まれながらに持っていて、ほぼ不死身の肉体なんだ。ふぅぅーー……」
Dr.ヘッドランドは実に不味そうに、煙草の煙を吐き出した。
「BIPの怪人達は、改造手術に加え総統家の血液を飲んで、怪人化を果たしている」
「だが、この適合者が少なく、その能力も、歴代の総統閣下の力には遠く及ばないのが、長年の問題だったのだ」
「そこで、総統閣下の家系が持つ異能力を、完全に移植した怪人が出来ないものかと、BIPでは古くから、総統家の血液と細胞の研究が続けられていたんだ」
「でな、一月程前にようやく、ただ血液を飲むより、遥かに効果が高いと思われる[零型BIP細胞]が完成したのだ」
「これは理論上、旧来の手法よりも適合性が高く、かつ総統家の特殊能力を完全再現出来るという、素晴らしい物になるはずだったのだ」
「ふぅぅーー……ふふっ、あの時は、長年の研究が報われたと、我々は狂喜乱舞して喜んだものだ……だが」
Dr.ヘッドランドは椅子の背もたれに、深くもたれる……と、ギシシと椅子が軋む音がした。
「だが……な、試しに採取した人血液に[零型BIP細胞]を、試験管内で混ぜて実験してみたところ、著しい拒絶反応が起こったのだ」
「血液、零型BIP細胞、共に崩壊してしまったのだ……理論的には、適合性が高いはずなのにな」
長い髪をワサワサとかく。
「そこで、多くの人間の血液サンプルを集めて、実験してみたが、どれも結果は同じ」
「動物実験は問題ないのに、人血液だけは何百、何千と試してみたが、一人の適合者も出ないんだ。」
「これでは旧来の手法の方が、断然適合率が高くなってしまう」
「結局、零型BIP細胞は、適合者が見つからない失敗作だと諦めかけていた……だが」
「昨日、例の嘘の健康診断で、駄目元で集めておいたアルバイト戦闘員の血液サンプルをな、やけくそ気味に実験してたんだ」
「そしたら突然、唯一、お前の血液だけが、一切の拒絶反応を見せずに、完璧な適合を起こしたんだよ」
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