32.4 神様からの贈り物4
「いざっ、参るっ!」
バババババッ ザザッ ぶんっ シュシュ
一宮君は訓練で習ったキックとパンチのコンビネーションを、数種類まぜて繰り出す。
もちろん、その技は親衛隊員などと比べられるモノではなく、なんとか形になっている素人技だった。
タタンッ
僕はそれをしっかりと目で追い、軽くステップを踏んで、攻撃を避けるだけだ――
が、
「うおおぉおっ!? おおうっ!? わわわっ!!」
スーツにパワーがあり過ぎて、軽く避けただけで、体が大きく振られてしまう。
「どわわわぁ!!」
ズザザザザザァァーーー……
結局、攻撃が当たってもいないのに、一人で勝手に転んでしまった。
「はっはっはっ、どうしたで御座るなぁ?」
一宮君が、攻撃を止めて笑う。
「ふふふっ。なんとも懐かしい、光景で御座るなぁ」
ガシャン
「くっくっくっ、確かに。初めて戦闘員用パワースーツを着た時も、そんな状態だったなっ」
ブーツのみが、虚空から相槌を打った。
「くっそぅ、ミスった……」
パタパタ
マントについた土を払いながら、起き上がる。
「おいおい、ナポン~。ダメダメじゃないかよ~? 勘弁してくれよ~」
くしゃ くしゃ くしゃ
それを見ていたDr.ヘッドランドが、自身の長い髪を引っかき回しながら、絶望的な声を上げた。
「あぁ、大丈夫ですよ、Dr.。これって初めて戦闘員用パワースーツを着た時に、誰もが経験する失敗と同じだと思います。数時間――いや、数十分で慣れますよ」
くしゃ……
「ん? そうなのか?」
「はい。初めての時と、まったく同じ感覚なんです。その時も、スーツのパワーに戸惑って、勝手に転がり回っていましたから」
ガシャン
「そうそう。指導していた正社員戦闘員も[誰もが通る道だ]と笑っていたな」
またブーツのみが、虚空から相槌を打った。
「生身とはまるで勝手が違うで御座るからなぁ……。博士殿、戦闘員スーツより遥かにパワーがあるのならば、これは致し方なき事と思われますぞ?」
「ほう。そんなものなのか? ……で、ソレはすぐに慣れるんだな?」
Dr.ヘッドランドが、念を押した。
「はい。コレに慣れないと、戦闘員には成れないんです。僕らは、この違和感にちゃんと慣れたんですよ。だからこの新スーツにも、慣れる自信がありますっ」
僕は堂々と、言い切ってみせた。
(出来ないかも? なんて言って、あとで怪人をクビにされたら困るもんね)
青浜さんと交際し、整形代を稼ぎ切るまでは、この仕事は辞められない。
無理にでも、このスーツには慣れてみせる。
「おお、そうかそうか。ナポリンは頼りない[精子臭いクソ餓鬼]だと思っていたが、中々、言うじゃないかっ。安心した」
Dr.ヘッドランドが、いいねっ! と親指を立てた。
「え!? 僕を[精子臭い]と思っていたんですか?」
そこに驚愕して、問い返す。
「ああ。実際、臭うからな」
Dr.ヘッドランドは、笑顔でいいねっ! と親指を立てた。
「うっ嘘だっ!」
「嘘じゃないよ。なあ?」
ガシャン
「真実だな」
「で、御座る」
Dr.と友人二人は、哀れみを含んだ真剣な声で、そう返答した。
「そっ、そうですか……。これからは気をつけます……」
僕は赤面して、皆に頭を下げた。
帰ったら、全ての衣服にフ○ブリーズをかけようと、心に誓う。
にやり……
ニヤリ……
にかり……
その時、Dr.はアイマスク、一宮君は目出し帽、椎名君に至っては顔どころか姿さえ見えない恰好だったので、三人の口元がいやらしく歪んだことに、僕は気がつかなかった……
「とっ、ところでっ、今までは装備のロールアウトに、立ち会わなかったのですか?」
恥ずかしさから、話を逸らす。
「当然、全部立ち会ってるよ」
ぽん ぽん ぽん?
Dr.ヘッドランドが、白衣のポケットを叩いて、煙草を探す。
ぽん?
「開発が全部後手に回って、突貫で製作したそのスーツが異例なんだよ」
ぽむ?
「普通、専用スーツの開発は、怪人と共同で少しずつ進めるもんなんだ。いきなり完成品を[はい、どうぞ]って渡したりはしないんだよ――おお、ここにあったか……」
「ああ、なるほど。それで末端の戦闘員には、慣熟訓練が必要なことを、知らなかったんですね」
これは大きな組織ならではの、弊害かもしれないと感じた。
そして[この人は腐って大幹部の一人なんだなぁ]と、改めて思い出した。
「よし。じゃあ、ぐだぐだと話してないで再開しよう。明日は戦闘なんだから、時間に余裕はないぞっ。ナポリタン、慣れるんなら、さっさと慣れてくれ」
Dr.ヘッドランドが煙草を一本、口に運びながら再開を指示し、僕らは真剣に慣熟訓練を始めた……
……約三十分後
ドビュュュンンッ!!
「凄いですよっ、このスーツ!」
僕は、まるで空を飛ぶかのように、高々と跳躍する。
「これ多分、ピュア・シャイニングより、速いですよーー!!」
もはや、一宮君は僕の動きにはまったく付いてこれず、ポツンと佇んでいる。
「違和感とかはっ、どうだぁーーーー?」
Dr.ヘッドランドが、地上から叫ぶ。
ズババババッ ヒュンヒュン ビュン ドシュシューー
「動きが良すぎるから、まだちょっとだけ違和感がありますかねぇーー? まあ、ほんのちょっとだけですけどぉぉーー」
自由落下しながら空中で一人、虚空に向かって回し蹴りやパンチの連打を放ちながら答える。
「特に問題はありませーーんっ!!」
「んーーーー」
ひらひら
Dr.ヘッドランドが[了解]と手を振ると、迷彩中の椎名君のそばに寄る。
タンッ! ビョーーン……
僕は華麗に着地すると、また高く飛び跳ねた。
ガシャ ガシャ ガシャ ガシャ……
「うーーん。……やはり何度見ても、少し光学迷彩がずれているなぁ?」
Dr.ヘッドランドが、光学迷彩スーツのプラグに小型端末を繋げる。
カタカタカタ……カタカタカタカタ……
「これは、ここでの微調整では、直らんかなぁ……」
小型端末で何やらコードを打ち込んでいる。
先ほどから、こんな調整を繰り返しているが、あまり上手くいっていないようだ……
スタタンッ
僕はそのそばに、静かに着地した。
ガチャ ギギギィィィーーーー……
と、その時、突然[五次元防壁訓練室]のドアが開いた。
「おうっ。やってるか?」
シュタッ
そう声をかけて部屋に入って来たのは、一つ目怪人スギヤマン将軍だった。
「「「シマァーー!!」」」
僕らは声を揃えて、挨拶をした。
からん ころん からん ころん
スギヤマン将軍がこちらにやって来る。
カタカタカタ……カタカタカタカタ……
「どうした? ご老体。なにか問題でも?」
Dr.ヘッドランドがコードを打ち込みながら、顔も上げずに聞く。
からん ころん
「ん? あぁ、ちっとな、様子を見に来ただけでぃ。てめぇは構わず続けなっ」
スギヤマン将軍は懐から煙管を取り出すと、手慰みにクルクルと回す。
そして徐に、僕を見やる。
「なぁ、皮被り坊主よ。無限触手の調子は、どうでぃ?」
遠慮のない視線で、僕の上から下まで眺め回す。
「ええと……特には変わりはないですね。問題ありません。あと、被ってません」
「そうかい。じゃあよう、他の場所に触手が生えたりは、してねぇかい?」
「他ですか? うーーん、戦闘以来、別の場所に生やすのを試していなかったので――」
「なら、ちょっくら今、試してくれねぇか?」
スギヤマン将軍が、喰い気味に聞いてきた。
「はあ。分かりました……」
意図がよく分からないが、試すことにした……
第32章「新装備慣熟と新能力」
終了まで、あと2話




