32.3 神様からの贈り物3
訓練区画に入り、さらに地下へと下る。
ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ
椎名君は日頃のウエイトを着けた生活が功を奏したのか、研究室からここまで歩いても、微かに息を切らす程度だ。
ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ
ちなみに椎名君は現在、光学迷彩スーツを頭から着ているが、外を確認する[外部カメラモニター]のみを起動させている状態なので、姿は見えている。
「ここだ……。さあ、入れ」
ギギギィィィーーーー
Dr.が一つの、頑丈で重そうなドアを開けると、自ら中に入った。
僕も続けて中に入る。
「ここ……ですか?」
僕は、十畳程度の何もない古ぼけた部屋を見渡しながら聞く。
初めて入る[五次元防壁訓練室]は、拍子抜けするほどに狭い部屋で、奇妙なことに床が土だった。
「そうだ」
ピッ ピッ カタカタカタ ピピッ
短く返事をすると、Dr.ヘッドランドは部屋にある唯一の物体である、ドア近くのコンソールパネルの前に立ち、操作を始める。
カタカタカタ ピピッ ポンッ!
Dr.は何かをキーボードで入力して、最後に大きなスイッチを押した。
ブインンンンンンン~~~~~~~~~
途端に不気味な低音が、部屋を包む。
ぐにゃぁ~~ググニャ~~あぁぁりりぐにやゃあぁ~~~~
そして突然、目の前の空気が[ぐにゃぐにゃ]と歪始めた。
「うっ!?」
僕は立眩みのような感覚に襲われて、思わず目を閉じて、足を踏ん張る。
「おっ!? おえぇぇ~~」
近くで、椎名君が気持ち悪そうにえずいた。
「よし。拡張が完了したぞ」
Dr.ヘッドランドの平然とした声が聞こえた。
僕はゆっくりと、目を開ける……
「!?!?」
と、なんと目の前にあったはずの、古びた部屋の白い壁が見えなくなっていた。
「えっ!? えっ?」
混乱しながら上を見上げると、そこには天井が見あたらなかった。
そこは、いくら見回しても果てが見えない、距離感が分からない、白い空間だった。
「こっ! これはっ!?」
キョロキョロ ガチャ ガチャ
光学迷彩スーツをすっぽり被っている椎名君は、ガチャガチャと音を立てながら、辺りを見回す。
「なっ、なんと面妖なっ!?」
ぺたん
立ち眩みが酷かったのか、一宮君は土の上に座り込んで声を上げた。
一見すると、僕らは広大な荒野の中に取り残されたようにも見える。
が、地面以外は白一色の空間は、経験したことのない虚無感に襲われるものだった。
方向感覚や距離感を失い、不安になる。
「この部屋は[五次元拡張装置]を使って空間を歪めていてな、装置の性能は[壁と天井までの距離を最大100キロ]まで広げることが出来るものだ」
説明の声に振り向くと、Dr.ヘッドランドがドア近くのコンソールパネルの前に、平然と立っていた。
「ま、それをやると阿呆みたいに電力を喰って、各部署から――特に経理からお叱りを受けるからな、今回は短く[最小の500m]に設定した」
Dr.ヘッドランドは軽く肩を竦めて、説明を終えた。
「そ、そうですか……」
後ろには、さっき入って来たドアや元々の壁があることに気がつき、ホッとする。
が、そのまま壁の先を目で追うと、横も上も、途中から朧に歪んで境目が見えず、少し不安になる。
「拡張後、このドア近辺の壁以外は、エネルギーを無効化する[五次元防壁]に変わるからな、前方になら好きなだけ、飛び道具の発射実験が出来るぞ」
Dr.が淡々と補足する。
「あのぅ、明かりとかはどうなっているんですか?」
疑問が湧いて、口に出る。
この空間は、光源が見当たらないのに、かなり明るい。
確か元の部屋では、天井に蛍光灯が点いていたと思ったが……
「超科学の基礎知識のない人間に仕組みを説明するには、小一時間はかかるぞ? 聞きたいか?」
Dr.ヘッドランドが、面倒臭そうに返答する。
「いいえ、結構です」
[こんなやり取り、マブラヴ・オルタネイティブの作中にあったなぁ]と思いつつ、断る。
「それは良かった。私も暇じゃないんで、いやさ遠慮したかったんだ。……さて、由比里と椎名は、不具合がないかどうか、とりあえず動いてみろ」
「了解です」
カチッ
僕は、ベルトにあるスイッチを押して、専用パワースーツを起動させる。
ガシャン
「光学迷彩、オン」
ブインッ
椎名君も、音声スイッチで光学迷彩を起動させる。
椎名君はすぐに姿が消えた――
――が、相変わらずガシャガシャと金属音がし、おまけにブーツは消えずに残っている。
シルシルシルシルシル……
僕はソレを横目で見つつ、まずは脇腹から六本の触臂を伸ばしてみる。
穴の位置はピッタリで、出し入れに、なんの違和感もなかった。
シルシル うねうね シルシル くねくね
触臂を、伸ばしたり縮めたりしてみる。
「六つの穴に、問題はなさそうだな? よし。なら次は一宮、ナポリタンに攻撃してみろ。なーに、手加減しなくても、当たらないはずだ」
Dr.ヘッドランドが、一宮君に指示を出した。
「動きの確認なんだから、ナポリタンは反撃するなよ? 当たれば最悪、一宮は大怪我では済まないからな」
「シマァ」
「シマァーー!!」
こうして僕は一宮君と、軽く手合わせをすることになった……
―――――――
―――
―
「いざっ、参るっ!」
バババババッ ザザッ ぶんっ シュシュ
一宮君は、訓練で習ったキックとパンチのコンビネーションを、数種類まぜて繰り出す。
もちろん、その技は親衛隊員などと比べられるモノではなく、なんとか形になっている、素人技だった。
タタンッ
僕はそれをしっかりと目で追い、軽くステップを踏んで、攻撃を避けるだけだ――
が、
「うおおぉおっ!? おおうっ!? わわわっ!!」
ズザザザザザァァーーー……
第32章「新装備慣熟と新能力」
終了まで、あと3話




