31.7 Moon Light Lover7
二人で、二枚目を食べ始める。
僕の豚玉は、ツナと青海苔が強制トッピングされた、変わり種だけど……
(あ……でも、無駄にシーフード感の強い豚玉だけど、これはこれで美味いぞ……)
まぁ、豚玉感はとても薄いけどね。
もう、次が焼けるのを気にしなくても良い。
なので、ここからはのんびりと話しながら、食べることにした。
ハフハフ はふはふ
「……そう言えば[青ズゴック浜]ってよく聞くけど、青浜さん自身は[ズゴック]って知ってるの? アレって確か、凄く古いアニメの兵器だよね?」
ふと思いついたことを、咀嚼の合間に聞いてみる。
僕自身は、近年放送されたこのシリーズの[最新モノ]しか見たことがない。
なので所謂[ファースト]と呼ばれる最初期のアニメは、主な登場人物と有名な兵器が分かる程度で、どんな内容なのかは知らないのだ。
だから[ズゴック]も、名前と形がなんとなく分かる程度の知識しか、持ち合わせていない。
はふはふ ハフハフ
「……ああ。中学の時、クラスの男子にこのあだ名を付けられて、軽く広まったからさ、その時気になって、すぐにネットで調べたから知ってるよ」
青浜さんは、お好み焼きを飲み込んでから、答えた。
「何か微妙な見た目だったけど[ちょっと美味しそうだから、良いかっ]って思い直してさ、今では割りと、気に入ってる」
「えっ? ズゴックって美味しそう?」
姿かたちを思い出して、首を捻る。
「うん。アレって茹でたら、爪の辺りが美味しそうじゃん? [釜揚げズゴック]とか」
青浜さんは、イチゴ牛乳をチューと吸って、いいねっ! と親指を立てた。
「いやぁ~、確かに見た目が甲殻類ぽいけど、その発想は無かったなぁ。その感想は、青浜さんならでは、だよ」
「そんなこと無いだろ? だってその時、ネットに[茹でたズゴック]も一緒に載ってたぞ。釜揚げ後の[赤いズゴック]」
「えっ!? あのアニメに出てくる[赤い機体]って、茹でた後ってことなのっ!?」
衝撃の発言に、慄く。
「うん。多分そう」
こくり
青浜さんは、自信あり気に肯いた。
「[兵器を茹でる]って、凄いアニメだなぁ……。昭和、おっかない……」
もう世代の違いというより、それこそ、思想や哲学の違いを感じる。
とても興味が湧いた。
是非、今度見てみようと、心に誓う。
【挿絵 爪が美味な釜揚げズ◯ック(夏音談)】
パタパタパタ……
「――杜若さ~ん、高次さ~ん、そろそろタクシーが来ますよぉ~?」
ほのかさんが、奥の二人に声をかけた。
「――分かり、ました。お会計を、お願い、します。ほら、杜若、帰る、ぞ」
「――い~や~だ~ぁぁ~、乗らないぞぅ~」
「――なら、タクシーの、代わりに、葉山さんを、呼ぼうか?」
「――うっ……」
「――それで、葉山さん、から、菖蒲院様に、連絡が……」
「――わっ、わーーったよっ!!! シータクで帰るよっ! 帰りますよっ!!」
抵抗していた[へなちょこおにーさん]が、急に帰り仕度を始めた。
……が、酔っ払っているのか、イマイチ要領を得ない様子だ。
龍巳さんのお父さんはさっさと仕度をすませて、雪駄を突っかけ、一人こちらに歩み寄って来た。
ペタペタ ペタペタ
近くで見ると、相変わらずおっかない。
「夏坊、良ければ、明日、夕飯に、来ない、か?」
龍巳さんの角刈りお父さんは、朴訥だが、親しみのこもった声で、青浜さんに話しかけた。
「んー? 明日は遠征して試合だから、夕飯は部活の連中と食べるかも?」
青浜さんが、小首を傾げた。
「ま、どうなるか分かんないから、とりあえず明日はパス。明後日なら行くよ」
「分かった、明後日、な」
「あっ! ちょっと前から、鎌倉ハムが無傷でウチの冷蔵庫内に放置されてるから、ソレを持って行くって、桜花に伝えといて。超デカいヤツ」
「いいのか?」
「うん、ウチの親がお取り寄せして放置するのは、いつものことだからさ、問題なし。みんなで美味しく食べちゃおうよ」
「分かった。じゃあ、試合、頑張れ、よ」
シュタッ
龍巳さんのお父さんは軽く手を振って、レジに向かった。
「あーい」
シュタッ
青浜さんも振り返す。
ぽて ぽて ぽて ぽて
「イア~イア~フングルイ~ムグルウ~ナフ~クトゥルフ~……」
そこに[へなちょこおにーさん]が、不吉な呪文を陽気に唱えながら、フラフラとやって来た。
にへら~ ぽて ぽて
僕らに笑いかけて、通り過ぎる。
この人、普通にしていれば、カッコいいだろうに……
ぽて ぽて ぽて ぽて
「……ル~リエ~ウガ~ナグル~フタグン~。母なる~紫鬼ぃぃ~、父なる~植物学者ぁぁ~。てかぁ~?」
訳の分からないことを口走りながら、ふらふらと、胡乱な足取りでレジに向かった。
「――おーーい、高次ぃぃぃーー。お前もシータクに乗るかぁーー」
「――俺の、家は、隣だ。阿呆」
「――何だよ~、シータクで江の島観光でもしようぜぇ~……」
へなちょこおにーさんは、いつまでも騒々しい。
ほのかさんが、レジで二人の会計をする。
「……よく龍巳さんの家に、食べに行くの?」
それを横目で見つつ、青浜さんに聞く。
「まあな。子供の頃から、ちょくちょく通ってるんだ」
青浜さんは、最後に残った一切れをお皿に移しながら、話す。
「最早あたしは、龍巳さん家の子だっ」
「ふふふっ……。確かに青浜さんと龍巳さんって、姉妹っぽいよね。ほら、姉妹って、対照的な性格になることが多いから」
「あんだとぉ~? それはどう言う意味だぁ~?」
お好み焼きを箸で千切りながら、僕を軽くジト目で睨んできた。が、
「ま、兄妹って言わなかっただけ、良しとしてやる」
肩を竦め、素っ気なくそう言って、パクンとお好み焼きを口に放り込んだ。
カラカラカラカラ
レジでお会計を済ませた二人は、すでに暖簾を内側に仕舞った引き戸を開けて、出ていった。
「――うわぁあんっ、カオリちゃ――」
「――外で、騒ぐな。近所、迷惑――」
外から、へなちょこお兄さんの騒がしい声が、しばらくの間、聞こえてきた。
バタムッ ……ぶおおぉぉぉんーー……
が、すぐにタクシーが走り去る音が聞こえて、店内は静かになった。
「ふう。ご馳走ーー様でしたっ!」
パチンッ
青浜さんが箸を置くと、手を合わせた。
「ご馳走様でしたっ」
ほぼ同タイミングで食べ終わった僕も、箸を置いて、頭を下げる。
「由比里も食べ終わったか? なら、長居したら悪いから、飲み物飲んで少し休んだら、あたしらも出ようぜ」
「うん」
青浜さんの提案に、素直に頷く。
もうお開きにするのは、僕的にはとても残念だけど、いつまでも閉店出来ないのは、ほのかさんにとっては迷惑だろう。
ちゅるるるぅぅ~~
チュルルルゥゥ~~
飲み物の残りを、ストローで飲み干す……
第31章「総統とイタリア怪人が愛した杜若」
終了まで、あと1話




