31.6 Moon Light Lover6
一枚目のお好み焼きが、だいぶ消費された。
「おーーし。そろそろ、次のもひっくり返すかっ」
いったん箸を置いた青浜さんはそう言うと、器用にヘラを使って豚肉を、僕の豚玉の上にのせた。
小海老チーズ餅明太の上にも、少し残しておいたチーズをのせる。
そして、豚玉を
「おりぁ!」
くるりんっ
続けてチーズ餅明太を
「ほいさっ!」
くるりんっ
と、綺麗に引っくり返した。
「お見事っ」
「ん。さ、こいつらはすぐに焼けるから、一枚目の残りを、さっさとやっつけちゃおうぜっ」
「うん」
僕らはまた、食事を再開した――
「――はあぁぁ~~ああぁぁ~~。カオリちゃんがカマってくれないからさぁ~、しょうがなく角刈りなんかを誘って、お酒を飲む羽目になっちゃってさぁぁぁ~~~。ぁあぁあぁぁ~~~、なんて可哀想なボクちんなんだろ?」
「――ああ、本当に、可哀想な、ボクちんの、脳だな」
「――くっそぉぉぉ~~~、なんなんだよっ、今日はっ! 角刈り記念日かなにかかっ!?」
「――いや、今日は、ツナ缶、記念日だろ? 記念品に、アレが治る、ツナ缶、もらったし、な」
「――だから、アレってなんだよっ!」
「――まあ、お前も、いい年だ。そろそろ、子離れの、時期って、ことだな」
「――嫌ですぅぅぅ~~、ボクは一生、子離れなんてしません~~」
「――お前が、そのつもり、でも、子供は、勝手に、離れる、ものだ。特に、娘は、な」
「――そんなこと、ありませんん~~。カオリちゃんは小さい頃からずっと[お父様のお嫁さんになる]って言ってたも~~んっ。だからカオリちゃんは、誰にも渡しません~~」
「――娘なら、小さい時に、必ず言う、台詞を、真に、受ける、な。阿呆」
「――うっせいやいっ!」
「――しかし……お前は、ビール、だけで、よく、そこまで、酔えるな?」
「――逆に、高次はなんでそれだけ飲んでも、酔わないんだよぅ? 角刈りか? その角刈りが、余分にアルコール分解を促進しているのか? その角刈りは、第二の肝臓なのか?」
「――はいはい、そう、かもな」
「――んな訳あるかーーいっ!! てなっ。ほのかちゃ~~ん、おビール追加ねぇぇぇ~~」
「――……は~~い」
「――ああ、ほのかさん、もう、ビールは、いいです。それより、こいつを、帰宅、させるので、タクシーを、呼んで、下さい」
「――は~~い。了解でぇ~~すぅ」
「――やだやだやだっ! 僕ちんっ、カオリちゃんがかまってくれない家なんて、帰りたくないいぃぃ~~……」
ジュジュゥゥ~~
――鉄板の上では、二枚目のお好み焼きが焼けてきていた。
「ふふんっ。我ながら、ジャストタイミングだなっ」
にやり
一枚目を食べ終わった青浜さんが、不敵に笑って箸を置いた。
そして再度、ヘラを使って二枚目のお好み焼きを引っくり返すと、焼けた豚肉やチーズの面に、手際良くソースを塗る。
「しっかし、うるさい酔っ払いだなぁーー」
青浜さんが、奥の二人を振り返らずに、文句を口にする。
「だねー」
ちょうど食べ終わった僕も、箸を置いて同意を示す。
ずずずずずっ
そして口直しに、豆汁を一口啜った。
【挿絵 豆汁(夏音談)】
「ふぅぅ~。……ふと思ったんだけど、青浜さんって将来、お酒、呑みそうだよね?」
マヨを手にした青浜さんに、そう話す。
「いや、あたしお酒は駄目だ。かなり苦手」
「へ? お酒、飲んだことあるの?」
「うん。騙されての事故でな」
「去年の大晦日の夜、初詣前に近所の人たちと集まった時にさ、ここの隣の[阿呆にーちゃん]が[甘酒って名前なのに、ノンアルコールなのは変だ]って理由で、甘酒にこっそりと日本酒を混入させやがったんだよ。変なのは、自分の脳なのにな」
青浜さんは、マヨで綺麗に網目を描きつつ、話す。
「で、その悪戯にあたしは気がつかないでさ、湯呑みで半分飲んだところで、ぶっ倒れた」
「あらま。本当に弱いんだ」
「うん。それで結局、あたしだけ初詣に行けないほど行動不能になってさ、翌日は二日酔いで、頭がガンガン。たくっ、阿呆大和のせいで、最悪の年明けだったぜ」
「阿呆大和?」
「あ、ここの隣に住む[阿呆にーちゃん]の名前な。蔵前が苗字で、阿呆大和が名前」
青浜さんは、鰹節を手にして、訂正してくれた。
「それは、凄い本名だねっ」
当然、[蔵前 阿呆大和]って名前は、青浜さんの冗談だ。
「結局、撫子ちゃん……あぁ、ここの家の娘さんなっ。撫子ちゃんが[大和の駄目な脳天]に[ニューイヤー・カウントダウン踵落とし]を、新年と共にクリーンヒットさせたから、あたしの溜飲は下がったけどな」
青浜さんの手から放たれた鰹節が、お好み焼きの上で踊りだす。
「それは……新年早々、カオスだったね」
「まあ、いつも通りの年明けって噂もあるけどなっ。阿呆がいるから。あ…………」
ぱさっ……
青海苔の缶を手にした青浜さんは、自分の[小海老チーズ餅明太]の上にかけ始めたが、一振りしたところで止めた――
「…………そうそう、その時一緒にいた桜花がさっ、[今年の甘酒はいつもより美味しいねっ]って言って、大和の悪戯があったことに気がつくまで、パカパカと飲んで、お替りしまくっていたぞっ」
ばさっ! ばさっ!
――そして、急に僕の豚玉の上に、問答無用で青海苔を振りかけ始めた。
ばさっ! ばさっ! ばさっ! ばさっ!
引くくらい、大量に。
ばさっ! ばさっ! ばさっ! ばさっ!
「あの、青海苔はその程度で……」
「次の日も、ケロッとしてたしな。いやぁ~、桜花は成人したら、凄い酒呑みになるぞっ。もし大学に進学したら、きっと[ミス鯨飲]の名を欲しいままにするなっ」
コトン
青浜さんはそう話すと、やっと青海苔の缶を置いてくれた。
「あたしどっち道、お酒飲んで酔っ払ってる大人を見るのが嫌いだから、自分が成人しても、呑みたいとは思わないだろうな。――よしっ! 食べようぜっ」
「……うん」
ハフハフ はふはふ
はふはふ ハフハフ
二人で、二枚目を食べ始める。
僕の豚玉は、ツナと青海苔が強制トッピングされた、変わり種だけど……
(あ……でも、無駄にシーフード感の強い豚玉だけど、これはこれで美味いぞ……)
まぁ、豚玉感はとても薄いけどね。
もう、次が焼けるのを気にしなくても良い。
なので、ここからはのんびりと話しながら、食べることにした……
第31章「総統とイタリア怪人が愛した杜若」
終了まで、あと2話




