31.4 Moon Light Lover4
「プレゼントだ。早くアレが治るといいな? 由比里」
そう言ってツナ缶を、まだ焼いていない豚玉のお椀の上でひっくり返し、全て投入した。
「ほへ? ありがと?」
僕はよく分からないけど、お礼を言う。
「由比里君、早くアレが治るといいわねぇ~」
ほのかさんが笑顔でいいねっ! と親指を立てると、踵を返して戻る。
パタパタパタパタ
その途中で
「――はい、杜若さん、サービスのツナ缶でーす」
へなちょこイケメンお兄さんにも、ツナ缶を渡していいねっ! と親指を立てた。
【挿絵 駄目な脳によく効くツナ缶 2回目】
「――おっ!? ありがとう、ほのかちゃーん」
「――杜若さんも、アレが治るといいわねぇ~」
「――ほへ、アレっ何?」
「――杜若、アレが、治ると、いいな」
「――だからアレって何だよ?」
そんな会話が耳に入った。
(うーん、アレって何だろう?)
何かは分からないが、あまり良くないことかもしれない。
ちょっと脳を、溶かしすぎてしまったようだ。
失敗。
気を引き締め直して、会話が弾むように心がけよう。
「えっと……特に他意はない質問なんだけど、青浜さん、明日の予定は?」
会話の糸口を探るために、まずは無難な質問をする。
「んー? 明日は練習試合。他の高校に遠征するんだ。由比里はー?」
「僕は土日、バイトの予定だよ」
そう、土曜日は訓練で、日曜日は――
「バイトなぁ~。……由比里ってバイト何にしてんだっけ?」
「タコせん――えぇと、片瀬でお土産用の縫いぐるみを作ってるよ」
「クマ?」
「ううん、カメ。椎名君と一宮君も一緒だよ」
「ふーん……あっ、そうだっ、今日の帰りに学校近くの坂道で、椎名と一宮に会ったけど、あいつらあんな場所で筋トレしてたぞっ。何でだ?」
「……えーと、多分、ストーキングと筋肉トレーニングが合わさった[ストー筋トレ]かな?」
「あにそれ? ツナ缶、追加するか?」
青浜さんは小首を傾げて、ストローでイチゴ牛乳を美味しそうに飲む。
ジュジュゥゥ~~
お好み焼きはいつの間にか、油が焼ける匂いから、生地が焼ける良い匂いに変わっていた。
匂いで空腹を感じ、それを誤魔化すために、僕はアイスコーヒーのグラスを掴む。
そして、一口飲もうとグラスを口に近づける――
「――おいおいっ、ミルクとガムシロ、入れないのかよっ!?」
それを見た青浜さんが、目を見開いて声を上げた。
僕がブラックのまま飲もうとしたことに、驚いている様子だ。
「え? さっぱりしたのを少しだけ飲みたい気分だったから、このまま一口飲もうかと思って。ミルクとガムシロは、後で入れるつもりだけど……何か、変だった?」
「ふっ、ふーーん。別に変ではないけどさ……」
青浜さんが、曖昧に答える。
(ははーん。コレは、もしかして……)
僕の中で、閃くものがあった。
「あれ? もしかして青浜さん、ブラック飲めないの?」
口元がニヤけそうになるのを堪え、平然と聞く。
「……飲める。飲めるさ。余裕だね。ブラックなんぞ、毎朝飲んでるさ。やっぱり朝はブラックコーヒーだねっ」
青浜さんは顰めっ面でいいねっ! と親指を立てた。
「あたしもコーヒーを頼めば良かったよ。残念」
「なんか、凄く嫌そうな顔をしてるけど?」
顰めっ面を指摘する。
「してない。そう見えるのは所謂、思想の違いによる認識の齟齬だ」
どこから仕入れた言葉か知らないが、妙に取って付けたような、反論が返ってきた。
こんな微妙な意地を張られると、好きな子にちょっと意地悪したい男心が、擡げる。
「じゃあさ、まだ口を付けてないから、良かったらコレ、飲んでよ」
コトン
笑顔で青浜さんの前に、ブラックコーヒーを置く。
「うぐっ!? ……おう……それはどうも、ごっつぁんです……」
青浜さんは、明らかに狼狽えつつそう言って、まじまじとコーヒーを観察する。
「ささっ、遠慮しないで、どうぞどうぞ」
笑顔で勧める。
「おう」
青浜さんは短く答えると不承不承で、まるで[げっ歯類]のように両手でグラスを掴んで、口のそばまで持ち上げる……
「………………」
が、いつまでも飲まずに、口をアヒル口にして[もにょもにょ]と動かし、苦そうな顔をする。
「……あ、あたし、ブラックは朝だけなんだ。夕飯には、ブラックは合わないんだぜっ! 知ってたか? 坊や」
コトン
そう言って、グラスをテーブルに戻した。
「なるほど、確かにそうかもねっ。じゃあ、コレを入れてあげるよ」
トクトク……
そう答えて、ミルクを掴んで青浜さんの手元にあるグラスに注ぐ。
「これも」
トクトク……
さらにガムシロップも注ぐ。
カランカラン
ストローでかき回して
「はい、どうぞ」
笑顔で勧める。
「うむ……」
青浜さんはそう答えるが、今度はグラスを持とうともしない。
そして、口をアヒル口にして[もにょもにょ]と動かし、苦そうな顔をする。
「……あたし通だから、冷たいコーヒーは[水浸しコーヒー]じゃないと飲まないんだ。アイスコーヒーはNGだ」
コトン
そう言って、飲まずにコーヒーをこちらに返してきた。
「……[水浸しコーヒー]じゃなくて[水出しコーヒー]でしょ?」
「ああ、そうともゆーな。これは哲学の違いによる認識の齟齬だな。……さーて。そろそろ焼けたかなっ?」
シュタ
青浜さんが強引に、閑話休題してヘラを掴む。
「なるほどー、青浜さんはブラックどころか、コーヒー自体が苦手なのねー」
ちょっと微笑ましい。
なので僕は、クマぽっちゃんを手に取り
「ぷくぷく。ナツネはおこちゃまだねっ」
懐かしいキャラの口調を、真似てからかった。
「あんだとぅ~!? 駆除するぞ害獣っ」
青浜さんは、とたんに顔を赤くして、クマぽっちゃんにヘラを突きつける。
「大体、そんな黒くて苦い[豆汁]の何が美味しいんだよっ。ばーか。ばーか」
可愛く罵倒してきた。
「いや、[豆汁]って……」
本当に、コーヒーが苦手だったらしい。
こんな些細な意地を張るなんて、本当に可愛いなぁ……
――ちなみに、日本のコーヒー通を自称する人たちは、日本のアイスコーヒーは不味くて、海外で一般的な[水出しコーヒー]が美味しいと言う。
で、逆に、外国のコーヒー通を自称する人たちは[水出しコーヒー]は香りが少なくて不味く、日本のアイスコーヒーこそ、香りが良くて美味しいと言うのだ。
なんとも、五十歩百歩で辿り着く隣の芝で団栗の背比べをする裸の王様の耳はロバーとデニーロ、だね。
自称[通人]以外から見れば、所詮はたかが[豆汁]なのにね――
「がるるぅ」
青浜さんは未だに、ヘラを構えてクマぽっちゃんを威嚇し続けている。
「まあまあ。それよりほら、焼けたっぽいよ?」
第31章「総統とイタリア怪人が愛した杜若」
終了まで、あと4話
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10月23日(金曜日)は投稿出来ず、すみませんでしたっ
m(_ _)m
「なろう認証騒動」の中、作者がなんとかログイン出来たのは、深夜の2時半で、どうにもなりませんでした。
今は、どうやって「なろう運営」に、「駄目な脳によく効くツナ缶」を食べてもらえるか、検討中ですっ☆
てへ♡




