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【イタ☆恋!】新・江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜☆現代ラブコメ・ファンタジー☆  作者: 綿野草空希
31 総統とイタリア怪人が愛した杜若

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145/163

31.3 Moon Light Lover3


 「それじゃあ、ごゆっくりぃ~」

パタパタパタパタ

 ほのかさんは、空になった二つのお椀だけお盆に載せて、厨房に戻って行った。


 すぐに、鉄板の上のお好み焼きは、表面からプチプチと気泡が出来て弾け、油の焼ける匂いを放ち始める。


 (……あっ、そういえば、青浜さんと一緒に食事するのは初めてだなぁ)

 プチプチと弾ける気泡を眺めていると、ふとその事実に気がついた。


 鉄板から視線を上げて、おしぼりで手を拭く青浜さんを見る。


 と、大きな瞳と、バッチリ目が合った。


 「べー」

 青浜さんは小さく舌を出すとおしぼりを置いて、横を向き、[クマぽっちゃん]を手に取った。


 そして意味もなく、ぽっちゃりとしたお腹をムニムニと弄《いじ》りだした。


 (あぁ、こんな仕草も可愛いなぁ……幸せだなぁ……)


 偶然にも藤沢でエンカウントして、こうして夕食を共に出来るなんて、本当にラッキーだ。


 これも観音電車のご利益なのだろうか?


 そして自問する。


 二人で外食する――


 この状況は、最早《もはや》デートだと言ったら、過言だろうか?


 いや、過言ではない。


 これはデートである。


 僕らの初デートなのだと、思ってしまおう。


にへらぁ~

 思わず頬が緩む。


 青浜さんは横を向いて、ぽちゃりしたクマを弄っている。


 だが時折、大きな瞳を動かして、チラリチラリとこちらを窺《うかが》うような視線を送ってくるのだ。


 江ノ電の中でもそうだったが、今日の青浜さんの仕草や表情は、僕を憎からず思っているように感じられた。


 [もしかしたら、青浜さんも僕のことを結構(けっこう)意識しているのでは?]と、思わず期待を抱いてしまう。


 (意外と青浜さんも[デートみたいだ]と考えていたりして……)

 順調ではなかったが、日々のアプローチが――、特に今日のアプローチが、少しずつ伝わったのかもしれない。


 (さて。ここからさらに、仲を深めるステップは何だろう? うーーーん……あっ! やっぱり連絡先の交換かしら?)

 思いつく。が、


 すぐに、現在のスマホは借り物だったことを思い出す。


 勝利ボーナスの20万円は、もう半分ちょっと使ってしまったので、残りでスマホを買うのはキツイ。


 (まあ、まだ連絡先の交換はいいか……次の勝利ボーナスでスマホを買ってから聞こう)


 怪人化の解除――つまりイケメン化の解除は三か月だ。


 だから、あまりのんびりとはしていられない。


 けれど、ここで一気に距離を縮めようとするのは、焦りすぎだと思った。


 ([急(せ)いては事を仕損じる]ってやつだよね。今日はだいぶ強引に誘ったから、これ以上畳みかけたら、強く拒否られるかもしれない)


 そう考えると、スマホがなくて聞けないのは、不幸中の幸いかもしれない。


 それに、知り合ってからかなり間を空けてから連絡先を聞くのは、ほぼほぼ、告白に等しいと思うのは僕だけだろうか?


 知り合ってすぐに聞けば、友達になるためだと思われる。


 が、友達になってから聞くのは、暗に[友達以上になりたい]と宣言している感じがするのだ。


 こう考えると、連絡先の交換は意外とハードルが高い。


 それこそタイミングを見誤ると、そこまで積み上げた関係が、一気に水の泡になる危険性があると感じた。


 (なら、連絡先の交換は、告白直前に聞く方がタイミング的に一番良いかな?)


 これなら、連絡先の交換OKが出れば、そのまま自信を持って告白出来る。


 もし交換NGなら、告白を一時中断して、再度、慎重にアプローチをかけて、仕切り直して告白だ。


 ……まあ、そうなったらタイムリミットがある僕には、相当、厳しい状況だが……


 (……うーーーむ……告白かぁ……)

 青浜さんを前にそんなことを考えていると、今、告白する訳でもないのに、妙に緊張してくる。


 と、なると、身が固くなり[今、感じている手応えは、気のせいなんじゃないのか?]と疑心暗鬼が頭を擡《もた》げてきた……


 (……オタクの僕が告白か……本当に出来るのか? 成功するのか?)

 こんな上っ面だけ格好良くなったオタクが、本当に憧れの人と結ばれるのだろうか?


 (いや、弱気になるなっ、自分を信じろ、きっと上手くいく。絶対に恋人になってやる)

 それに僕は元々、ノーチャンスだった人間なのだ。


 そして今は、僕の人生で真っ当な恋愛が出来るラストチャンスを得ている。


 ここでチャレンジしなければ、一生、後悔する。


 (不安になったら、ポジティブシンキングだ。成功後を想像しよう)

 無理にでも、妄想を膨らますことにした。


 交際後の、ラブラブな二人の情景を思い浮かべる。


 (初めはプラトニックな交際だよねぇ。一緒に登下校してさ、人の少ない時は互いに照れながらも、手を繋いじゃたりするだぁ)


 (で、プラトニックでもキスくらいはしちゃってさぁ、帰りぎわ、家の前でチュッって……なーーーーんてねっ! でへへへへっ!)

 段々と妄想が広がる。


 (僕らは何て呼び合うのかな? 互いに呼び捨てで、是陽と夏音かな? ダーリンとハニーは古臭いけど、憧れなんだよなぁ……)

 際限無く、だだ広がる。


 良い感じに、脳が溶けてきた。


 (順調に交際を続けるうちに、今日の初デートは二人の大切な思い出になるんだろうなぁ。きっとこの日は二人の[思い出の記念日]として記憶され、毎年、二人でこのお店を訪れたりするはずだな、えへへへ。それでそれで、[今日の記念日]の呼び方を二人で決めるんだ。えへ。[なに記念日]が良いかしら? [お好み焼き記念日]かなぁ? それとも[江ノ電記念日]かな? うーん、マイハニーは[なに記念日]って言うかなぁ~。えへへ)

 クマを弄る愛しい人を見つめる。


 と、ピタリと目が合った。


にへらぁ~

 「僕は[角刈り記念日]以外なら何でも良いよ、ハニー」

 脳が溶けたまま微笑み、いいねっ! と親指を立てて、愛しい人にウインクした。


 「……うん、分かった、[角刈り記念日]以外にするよ」

 青浜さんが、なぜか哀れむような目で優しく返事をし、厨房《ちゅうぼう》を向く。


 「ほのかさん追加注文ーー。DHA入りのツナ缶ってあるー? アレが改善するやつーー」

 と、呼びかけつつ、クマを置いた。


 「……は~~い、やっ君(蔵前大和)用のツナ缶で良ければ一杯あるけど、それで良いかしらぁ~?」

 ほのかさんが、厨房から顔を出してそう応えた。


 「うん、OK」

 青浜さんが返事をする。


パタパタパタパタ

 と、ほのかさんがツナ缶を手に持って、厨房から出て来た。


 奥の席では、龍巳さんのお父さんが意外にも甲斐甲斐しく、出来上がった焼きそばをお兄さんのお皿に移している。


パタパタパタパタ

 その横を、ほのかさんが小走りに通って、やって来た。


 「でもコレ、いくら食べてもやっ君(蔵前大和)のアレが治らないって、なっちゃん(本所撫子)(ほのかの娘)が嘆《なげ》いていたヤツよ~?」

 ほのかさんが、青浜さんにツナ缶を一つ手渡す。


 缶にはデカデカと[駄目な脳によく効く! DHA・EPA入り!]と書かれていた。


挿絵(By みてみん)

【挿絵 駄目な脳によく効くツナ缶】


 「ありがと、ほのかさん。こいつは大和と違ってまだ軽症だから、たぶん効くよ」

 青浜さんは、受け取ったツナ缶の蓋を、パカリと開けた。


 そして


 「プレゼントだ。早くアレが治るといいな? 由比里」

 そう言ってツナ缶を、まだ焼いていない豚玉のお椀の上でひっくり返し、全て投入した。


 「ほへ? ありがと?」

 僕はよく分からないけど、お礼を言った……

第31章「総統とイタリア怪人が愛した杜若《かきつばた》」

終了まで、あと5話


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