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【イタ☆恋!】新・江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜☆現代ラブコメ・ファンタジー☆  作者: 綿野草空希
30 袖振り合うも多生の江ノ電

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141/163

30.7 いなせなロコモティブ7


 夜の江ノ島駅に、静かに潮風が流れる……


 海から少しだけ離れているので、潮騒はここまでは、聞こえてこない……


ぐぐぅぅぅぅ~~~……

 静かな夜の江ノ島駅に、盛大に、僕のお腹が鳴る音が流れた。


 「………………」

 顔を軽く赤くして、押し黙る。


 先ほどの[始めの一歩]の緊張で、大幅にカロリーでも消費したのだろうか?


 とにかく今のは、潮騒の音だと勘違いして欲しい。


 「…………ぶぷっ」

びくりっ

 近くで見ると、意外なほど華奢な青浜さんの肩が揺れた。


 「くくくくくっ。あんだ今のっ!? すっげぇ音っ。あははははっ」

 肩を揺らして笑い、こちらを向いた。


 「お腹鳴らしておいて、なーに澄ました顔してんだよっ、イケメンっ」

ぺちんっ

 白い歯を見せて笑いかけ、僕の肩を叩いた。


 「腹減ったのなら、その桃食べていいぞっ。あぁっ、サラミを家に置いて来たのは残念だったなっ。あっはっはっはっはっ」

 鵠沼《くげぬま》での意趣返(いしゅがえ)しか、そんなことを言って大笑した。


 「そっ、そんなに、笑わないでよぅ」

 照れ隠しに、小さく口を尖らせて、不平を言う。


 「もう八時過ぎてるし、さっ、さっき料理とかお弁当の話をしたからさぁ――」


 「あっはっはっはっはっ。に、したって、音量が半端(ハンパ)なかったぞっ、あっはっはっはっはっ」


 「ううぅぅ……」

 確かに、他の見知らぬ乗客が振り向くほどの爆音だったので、何も言い返せない。


 今もチラチラと、こちらを見る人たちがいるし……


 「はあぁぁぁ~、笑える……」

 青浜さんの笑いが、ようやく収まる。


 「でも、そうやってお腹を鳴らしていると、イケメンになろうが、お洒落な髪型に変えようが、やっぱり由比里は由比里のまんまだなぁって思って、あんだか安心するなっ。ぷくくっ」


 「そりゃ、僕は僕だもの……」


 (ううぅ、藤沢でも、似たようなことを言われたよなぁ)

 中身が伴ってないと指摘されて、軽く落ち込む。


ぷつぷつ

 「青浜さんだってさっき、お腹鳴らしたくせに……」

 ちょっと悔しくて、呟く。


 「そうさっ、あたしは高燃費高出力な女だから、お腹だって鳴るさっ。文句あっか」

むんっ!

 青浜さんは胸を張って、開き直った。


じーーーー

 思わず制服に隠されている、形の良さそうな胸の膨らみを凝視してしまう。


 (Fantastico《ファンタスティコ》!(素晴らしいっ!))

 落ち込む気持ちは、一瞬で収まった。


ガタンッ トトンッ ガタンッ コトン……

 江ノ島駅に、対向の藤沢行きがゆっくりと入ってきた。


 それは確か、旧500形と呼ばれる古い江ノ電のデザインを取り入れた、新500形と呼ばれる電車だった。


 古い300形と新500形が、江ノ島駅で並ぶ。


 僕のお腹の音と青浜さんの爆笑のせいで、まだこちらをチラチラと見る乗客がいる。


 なので、見るとはなしに、隣の新500形を見ながら、話の変更を試みる。


 「……えーと……。そうそう、さっきのお弁当の話の時に、チラっと思ったんだけどさぁ」


 「ん? あにさ?」


 「普段、青浜さんも料理とかって、するの?」

 何とはなしに、質問する。


 「ええぇっ!?!?」

かちんっ

 青浜さんはなぜか驚きの声を上げ、驚愕《きょうがく》の表情を浮かべ、固まってしまった。


 「へ? 青浜さん? どしたの?」

 突然、石化した青浜さんを疑問に思い、聞く。


 「………………す………………」

かちんっ こちんっ

 石化中の青浜さんの口が、辛《かろ》うじて動き出す。


 「す?」


 「……するっ。するぞっ! 結構、上手く出来るはずだっ! ……多分な――」

 青浜さんは、勢い良く答えた。


 が、最後の方はぼそぼそと言ったので、よく聞こえなかった。


 「………………」

キョトン

 なので、首を傾げて、ジッと見てしまう。


 「ほっ、ホントだぞっ。由比里の好きなナポリタンなんて、ちょちょいなんだぞっ」

ビシッ

 いいねっ! と親指を立てて、宣言した。


 「へえぇぇー、青浜さんの作ったナポリタンかぁ、食べてみたいなぁ~~」

 それを聞いて、[エプロン姿で台所に立ち、僕のためにナポリタンを作る]青浜さんを想像してしまう。


 青浜さんは結構、器用な人なので、きっと抜群に美味しいはずだ。


 (あぁ……いつかそんな日が来たら、幸せだろうなぁ)

 僕の脳が、トロトロに蕩《とろ》ける。


 隣のホームで、藤沢行きの乗客が乗り降りしている。


ぷしゅ~~ ばたむっ

おおんんんんんん……

 するとレトロな300形は、いそいそとドアを閉め、走り出した。


 「ぐぬぬぬぬぬ……」

 なぜか青浜さんが、頭を抱えて唸《うな》っている。


 「――ずっと[チャンスチャンス]ってうっさいから、余計なこと言っちゃうんだよっ、この害獣っ――」

ぶつぶつ ぷつぷつ

 よく聞こえないが、青浜さんは何やら一人で呟いている。


 ちょっと、話しかけづらい。


カン カン カン カン カン

 江ノ電は江ノ島駅を出発すると、一瞬、踏切で道路を横断するようなフェイントを見せる。


 が、横断せずに左に曲がって、道路の真ん中を走る路面電車に、まんまと化けてしまう。


キシンッ キキンッ シシキンンッ

 路面電車に変わった直後、龍口寺前の交差点に突入すると、車が右折するかの如く、グリンと急カーブを曲がる。


キシンッ キキンッ

みしみし みししっ みし

 車輪とレールが擦れて甲高い音を立て、木製の床が軋《きし》んで鳴いた。


カタカタ カタ コトト カタカタ

 昭和レトロなデザインの窓枠も鳴る。


ぐぐぅぅぅぅ~~~……

 今のは、木製の床の音では無い。


 また、青浜さんのお腹が鳴ったのだ。


 「……………………」

チラリ

 横顔を覗き見ると、日焼けした頬が、少し赤くなっていた。


 「ぷぷくっ。さすがは高燃費高出力だね」

 軽く仕返ししてみる。


 「僕のと同じくらい、大きな音だったよ」

ニッコリ

 そう言って、いいねっ! と笑顔で親指を立てる。


 「ぐっ! ぷくぷく笑うなっ、この害獣っ!」

ジロリ

 大きな瞳で睨まれた。


 「害獣?」

 何のことだろう?


【挿絵 夜の腰越商店街】

挿絵(By みてみん)

第30章「袖振り合うも多生の江ノ電」

終了まで、あと1話


【予告】

第31章のタイトルは「総統とイタリア怪人が愛した杜若《かきつばた》」

エピソードタイトルは「Noon Light Lover」になります。

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