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【イタ☆恋!】新・江の島縁起〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜☆現代ラブコメ・ファンタジー☆  作者: 綿野草空希
30 袖振り合うも多生の江ノ電

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138/163

30.4 いなせなロコモティブ4

オンンンン……

 と、江ノ電が速度を落とし始めた。


 (てっ、しまったっ! 鵠沼《くげぬま》駅に着いちゃうよっ!)

 僕の最寄り駅はここ、鵠沼《くげぬま》駅だ。


 (せっかくのチャンスなのに、誤解を解く言い訳が出来てないぞっ!)


 大失敗だ。


ンン……

 僕がいくら慌てても、江ノ電は容赦なく鵠沼《くげぬま》駅に入って行く。


 この駅は島式のホームなので、対向の藤沢行きの電車が、すでに到着して待っていた。


プシューー……

 ドアが開く。


 このまま青浜さんと別れるのは、余りにも勿体《もったい》ない。


 (どどどっ、どうしよう!? いっそ、乗りすごして、腰越まで行っちゃうか!?)

 そんな事を考えて、僕が立ち上がれずにいると――


ひょい

 ――唐突《とうとつ》に青浜さんが、荷物を持ったまま立ち上がった。


 「何(あに)してんだ? 由比里の家は鵠沼《くげぬま》だろ? サッサと降りないと、ドア閉まるぞ」

タッタッスタンッ

 青浜さんは、不思議そうな顔で座ったままの僕を一瞥《いちべつ》すると、チャッチャッとドアに向かい、降りてしまう。


 「ほへ?」

きょとん

 予想外の行動に、呆けてその背中を見送っていると、発車のベルが鳴った……


 「……うわぁぁっ!? 降りますっ、降りますっ!」

 弾かれるように立ち上がる。


ハバッ! ダダッ・ピョンッ! 

 急いで荷物を抱えると、怪人化で得た身体能力をフル活用して、一足飛びでドアから踊り出る。


プシューー……バダンッ!

 次の瞬間、背中でドアが閉まった。


 「……いつもそうやって、降りてんのか?」

 青浜さんが、心底不思議そうに小首を傾げて、聞いた。


 「ぷ。変なの」


ガガッコンッ……オオンンンンンン……

 ホームを挟んだ[藤沢行き]と[鎌倉行き]の江ノ電が、わずかな時間差で、別方向に向かって走り出す。


ガタンッ トトンッ ガタンッ コトン……

 江ノ電は光と音の余韻《よいん》を残して、速やかに夜の闇に溶けていった。


 「あのっ、何で青浜さんまで、鵠沼《くげぬま》で降りたの!?」

 他の乗客が階段へと歩き始めるなか、僕はホームに佇《たたず》んで、質問した。


 「あんでって、由比里一人じゃ、また荷物落とすだろ? あたしがコレを家まで持って行ってやるよ」

 青浜さんは当然といった様子で、自身の手に持った荷物を軽く掲げた。


 「ええぇっ!? そんなっ、悪いよっ!」

 二度目の想像以上の厚意《こうい》に、驚き慌てる。


 「まさかそこまでしてもらおうとは、僕、考えて無かったよっ」


 「いや、車内でこの荷物を渡して[はい、さよなら]って言う方が、逆におかしくないか?」

 青浜さんは、軽く肩を竦《すく》めた。


 「自分で乗りかかった船だ、最後までやるのがスジだろ?」


 「あっ、ありがとっ!」

 (うわぁ、相変わらず行動が男前だよなぁ。そこに痺れる憧れるって感じだよね)

 青浜さんは、こういう人なのだ。


 ますます、惚れてしまう。


 「凄く助かるよっ!」

ビシリ

 頭を下げる。


 「今度、何かお礼するからね」


 「別にいいよ、そんなん。中途半端だとあたし、背中がムズムズしてきて嫌なだけだし。ほい。さっさと行くぞ」

タッタッ

 青浜さんが僕を促し、歩き出す。


 すでにホームには、僕たち以外の人影は無くなっていた。


 僕も追いかけるように、歩き出す。


 「ホント悪いね。ここまでしてもらっちゃって」

 まだ一緒にいられることを喜びつつも、迷惑をかけていると考えて、恐縮する。


 「だから別にいいって。……確か前、家は近いって言ってたよな?」


 「うん。ここから徒歩二分くらい。境川の近くなんだ」

 地下を通って駅の外に出る。


挿絵(By みてみん)

【挿絵 江ノ電鵠沼駅】


タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ♪

 自宅に向かって歩き出すと、直ぐに静かな住宅街になる。


ぐぐぅぅぅぅ~~~……

 突然、静かな夜の鵠沼《くげぬま》に、青浜さんのお腹の音が、鳴り響いた。


 「!?!?」

ポンッ

 音でもしたかのように、青浜さんの顔が、一瞬で真っ赤になった。


 「そそそそそっ、そのっ、さっきペペロンチーノの話をしたからっ、お腹が減ったんだっ! 文句あるかっ!」

 逆切れというか開き直りというか、顔を赤くしながらも、堂々と言い切った。


 「ふふふっ、文句なんて、全然ないよっ」

 [らしく]て、可愛いなぁ、と思いつつ答えた。


 「そうだ、その桃でも食べる? 荷物持ってくれたお礼ってことで、もらい物だけど良かったら、どうぞっ」

 ちょっとだけ、からかうような口調に変える。


 「なんなら、こっちのサラミもガブッとイッちゃって良いよぅ~?」


 「む。……どっちも歩きながらじゃ、食べられないだろっ」

 まだ顔が赤い青浜さんが、ジト目で、ぶっきら棒に返す。


 「ふふふっ。じゃあさっ、真面目な話で、この後お礼に、夜ご飯を驕《おご》るよっ」

 冗談で話の流れが良くなったのか、自然と誘い文句が口から出た。


 「片瀬江ノ島駅のロータリーの近くに、おススメのイタリア料理店があるんだけど、そこなんてどうかな?」

 渡り廊下の言い訳もしたいし、何よりもっと一緒にいたい一心で、本気のお誘いをかける。


 「それっ――。……いや、やっぱりいいよ」

 青浜さんは少しの間《ま》の後、ハッキリと断った。


 「あたし、昨日も一昨日もパスタだったしさ。まあ、お礼は桃だけで良いよ」

 青浜さんの頬の赤みは、いつの間にか消えていた。


 「今回のことは、コレもらってチャラでいい」

 そう言って、軽くビニールを掲げて、静かに微笑んだ。


 僕は二の句を告げられないまま、自宅の前に着いてしまった……


―――――――

―――

―


 鵠沼《くげぬま》は、古くは日本初の分譲別荘地だったそうだ。


 広大な敷地の高級別荘地として、明治時代に開発され、その後は徐々(じょじょ)に高級住宅地として発展。


 現在は、古くからある高級住宅地エリアと、鵠沼《くげぬま》駅周辺の、再分割されて普通の広さになった、一般住宅が立ち並ぶエリアに分かれている。


 もちろん、僕の家は、その一般住宅の方だ。


ガッチャ! ポイッ ポポイッ

 マイ鍵で玄関を開けて、次々に、荷物を中に放り込む。


 「青浜さん、もう暗いし、この後、僕が家まで送るよっ」

 玄関に荷物を放りながら、不退転《ふたいてん》の決意でそう告げる。


 (絶対に、このチャンスを活かすっ。ここで[さよなら]なんてするものかっ!)

 ここはどんなに断られても、喰らいつかないといけない場面だ。


 ――そうっ、散々プレイしたギャルゲーだと、ここはそんな場面なのだっ。


 「あんだ? 送り狼にでもなるつもりか? イケメン」

 青浜さんは、桃の入ったビニール以外の荷物を僕に渡しながら、茶化すように返事をした。


 「そんなつもりは無いからっ。本気で心配だから、送りたいのっ」


 実際、[チャンスを活かす]気がなくとも、好きな女の子を一人で、湘南の夜道


 ――この辺りの住宅街は大丈夫だが、腰越は超有名な片瀬や七里ヶ浜のすぐ側だ――


 を、歩かせたくはない。


 つまり、送るのは一石二鳥、……いや一石三鳥くらいの利点がある。


 (まぁ、まだ六月だから、胡乱《うろん》なヤツは、さすがに少ないだろうけどさ)


 「おいおい、このあたしが[マルチロールファイター]と[水陸両用の青ズゴック浜]の異名を持っていると知って、言ってるのか?」

ニヤリ

 青浜さんは、余裕の笑みを浮かべる。


 「変態が現れたって迎撃か逃走、どっちを選んでも、ビタイチ負けるつもりは無いぜっ!」

ビシッ

 青浜さんは格好よく、親指を下に向けるポーズを取った。


 (あれ? なんだろう? デジャビュ?)

 このポーズ、どこかで見た気がするのだが……


 (って、そんなことは、どうでもいいやっ! ココは何としても、押し切らなくてはっ!)


 「運動神経が良いのは知っているけど、それでも青浜さんは可愛い女の子なんだから、危ないよっ」

 真剣に願い出る。


 「心配だから、お願いっ! 送らせてっ!」


 「可愛っ!?!? ……そっ……あたっ、あたしっ……」

第30章「袖振り合うも多生の江ノ電」

終了まで、あと4話



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