30.2 いなせなロコモティブ2
「そそ、そのっ! おっ、同じ方向だから、一緒に帰ろうよっ!」
清水の舞台から飛び降りるつもりで、思い切って誘う。
「ええっ!?!?」
グリリン!
青浜さんが驚きの声を上げて、今度は全身で振り返った。
ずざざっ!
そして驚愕の表情で、半歩、後退りして僕を見た。
「ほっ、ほら、どっちも帰るには江ノ電に乗るんだしさっ。せっかくのフライデーナイトだしっ。[袖振り合うも他生の縁]だしっ。旅は道連れ、世は情けだしさっ!」
支離滅裂だが、懸命に説得する。
「つまりそのっ、せっかくだから青浜さんと、一緒に帰りたいん……です」
顔が赤くなるのを感じながらも、行きに乗った[観音電車]にご利益があることを信じて、真摯に伝える。
「……おっ、おう。……そっか[殴り合うも多少はOK]な。そのことわざ、聞いたことがある気がするよ……」
ぷいっ
答えながら、青浜さんがまたそっぽを向いた。
「……そうだなっ。せっかくのFriday night feverだもんなっ。トゥギャザーゴーホームがベターだよなっ」
そっぽを向いたまま、ルー化した青浜さんは頷いて、支離滅裂に同意してくれた。
(うおおおっ!? OKしてくれたぞっ!! やったっ! やったっ! やったぞっ! 思い切って言ってみるもんだねっ!)
すぐに承諾してもらえたことに驚きつつも、喜びが溢れる。
(もしかして、ここ数日避けられてると感じたのは、僕の気のせいだったのかもしれないねっ)
(あ、でも[殴り合うも多少はOK]とか言ってたし、どうなんだろう?)
(……と、とにかく、コレは物凄いチャンスだっ。好印象を持ってもらえるように、頑張ろうっ!)
内心で気合を入れる。
「……そっ、それでは帰りましょうか?」
緊張しながら、歩み寄り促す。
シュタッ
「おう。了解だ」
硬い表情の青浜さんが手を上げて応え、横に並ぶ。
「ではっ」
二人並んで、駅に向かって歩き出す――
どたっ! タタタンッ・たたどた……
が、気合と緊張が空回りして、歩き方がぎこちない。
(あれ? あれれ? あれれれれっ!?)
どんどんおかしくなり、終いには、完全に難波歩きに変った。
ドタ・ダダ・ドタ・ダダ……
見ると、なぜか青浜さんまで、難波歩きになっている。
ドタ・ダダ・ドタ・ダダ・ドタ・ダダ・ドタ・ダダ……
難波歩きの僕らが、夜の藤沢を行く――
「――わとととっ!」
ほんの1ブロックも歩かないうちに、難波歩きが災いして、紙袋のバランスを崩してしまう。
ポンッ ポポンッ
「おととと!?」
一つの紙袋をお手玉して、ふらつく。
ドンッ!
「あ痛てっ!」
ふらついたせいで、歩道に出ていた看板にぶつかってしまった。
ポンッ ポポンッ ポン
「うわわわわわっ!?」
その拍子で、他の紙袋まで、舞い上げてしまう。
瞬間、触手を使って全てをキャッチしようと手を伸ばし――
――かけたが、慌てて踏みとどまる。
ドサ・ザサ・ボテッ・ドサ
「ああああっ!?」
結局、なす術もなく、全ての荷物を歩道に投げ出してしまった。
(ううっ、また歩道に荷物をぶちまけてる……。ドジして、みっともないなぁ……)
チラリ
情けない気分で、青浜さんの反応を覗き見る
「ぷっ。まったく」
くすり
すると青浜さんが、呆れ顔ながらも笑った。
「そういうドジな所は、前のまんまだなっ」
ひょい ひょひょい
青浜さんは表情が柔らかくなって、いくつかの紙袋を拾い始めた。
「このまま、あたしが半分、持ってやるよ」
青浜さんはそう言うと、拾った紙袋を持ち直す。
「えっ!? そんなっ、悪いよっ。全部、自分で持つよっ」
残りを拾っていた僕は、突然の提案に驚き、断る。
「いや、いいって。だいたい、何度も落とされたら、帰るのに時間がかかって、あたしもメンドイしさ」
青浜さんはキッパリ言い切り、しっかりと荷物を持ってしまった。
「そ、そう? じゃあ、ありがとう」
ぺこり
頭を下げる。
(あぁ、やっぱり青浜さんは優しいなぁ。いいなぁ、寄り添って、従いたい)
益々、惚れてしまう。
「あっ、ソレは靴が入ってて重いから、僕が持つよっ。そっちの桃も、微妙に重いから僕が持つ」
青浜さんの優しさは嬉しいが、やはり格好つけたいので、軽い荷物との交換を薦める。
「はいはい。ほれ……。あ、桃、全然軽いから、このままでいいぞ」
青浜さんは、素直に交換に応じてくれた。
なので、パパッと荷物を受け渡す。
これで重い荷物は僕の手に、軽い荷物は青浜さんの手に、綺麗に分けられた。
「おし。じゃ、帰るか」
「うん」
タタッ
僕らは歩き出す。
タッ タッ
今度は二人とも自然な歩みで、江ノ電の藤沢駅を目指す。
「……重くない?」
タッ タッ タッ
「ふっ、よゆー、よゆー。……でも、何で桃なんて買ったんだ?」
青浜さんは小気味良く歩きながら、聞いた。
タッ タッ タッ タッ
「それは買ったんじゃなくて、見ず知らずの熟女からもらった物です。渡された理由は不明」
タッ タッ タッ タッ タッ
「ふふっ。醜女に追われたら、この桃を投げて逃げろ、ってことなのかなぁ?」
この桃は、美熟女の日本神話ジョークだったのかな?
「死米? 賞味期限切れの古古米か?」
きょとん
青浜さんが、可愛く小首を傾げた。
タッ タッ タッ タッ タッ タッ
「あ、いやいや。また伝わりづらい冗談言っちゃった。ごめん」
僕は時々、コレをやってしまう。
チラリ
軽く反省しつつ、歩きながら後ろを振り向く。
と、いつの間にか、プチストーキングの女子二人組の姿は、消えていた。
(桃を投げずに済んだなぁ。なんて思ったら、怒られるかな?)
あの子たちは、醜女と呼ぶような顔じゃなかったし、さすがにこれは失礼だろう。
タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ
(まあ、青浜さんほどの美人でもなかったけどさ……)
「このサラミも、もらったのか?」
青浜さんが、自身が持つ高座ハムのビニール袋を、軽く上げて聞く。
「いや、それは買ったんだ。普段からお世話になっている恩師への、お土産にしようと思ってさ」
とあるDr.の、胡散臭い笑顔を思い浮かべながら、答えた。
タッ タッ タッ
「お礼参り用ってやつだね」
タッ タッ タッ
「……担任にお礼?」
タッ タッ タッ
「まさか」
タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ♪
いつの間にか二人の足音が、綺麗なリズムを奏でていた……
第30章「袖振り合うも多生の江ノ電」
終了まで、あと6話




