30.1 いなせなロコモティブ1
【挿絵 夜の藤沢駅周辺】
藤沢で、イタリアの伊達男をイメージした、シンプルなシャツやズボンを数着買う。
それと、足の横幅が減ったのか、今までの靴も微妙に緩く、靴擦れを起こしそうなので、通学用と私用の靴を一足ずつ買った。
おまけで、とある悪戯を思いつき、高座ハムのお店で、立派な太さと形のイタリアンサラミを一本購入した。
さらに途中、ふらりとゲームショップに立ち寄って、前から欲しかった、ゲームメーカー[戯画]のSLG[JINKI]を、うっかりと買ってしまった。
整形代を貯めるために、我慢するつもりだったが、ショップで眺めているうちに、気がついたら購入していた。
(予定より散財しちゃったけど、また頑張って、魔法少女を倒せばいいやっ)
現金は10万円を切ってしまったが、満足な買い物が出来たので、サッパリした気持ちで、藤沢駅に向かって歩き出す。
時刻は七時半を過ぎていて、外は暗い。
飲食店以外のお店は、少しずつ閉店し始めている。
「わとととっ……」
複数の紙袋を持っているので、歩くのに難儀する。
藤沢に来る前に、いったん家に寄って、通学鞄を置いてくればよかった。
(あー……まだいるなぁ……)
チラリ
立ち止まり、紙袋を持ち直しつつ、後ろをチラ見する。
と、少し離れた位置に、見慣れない他校の制服の女子二人組の姿が見えた。
実は、藤沢駅周辺を歩き回っている間、この高校生の二人組に道を聞かれたのだ。
僕はそこまで藤沢駅周辺に詳しくはないので、その場は適当に話を切り上げた。
だが、それ以来、この女子二人組は、僕の後ろをずっと歩いているのだ。
(イケメンの人って、大変なんだなぁ……)
今日はこれ以外に、
――知らない大人の女性に、何の脈略もなく話しかけられ
――見ず知らずの美熟女に、体をベタベタ触られながら、なぜか桃を六個もらい
――ギャルにLINEの交換を強請られたり
と、女性絡みのイベントが、次々に起こったのだ。
(ふうぅ~~、もうプチ・ストーキングだよね、コレ)
チラチラ
視界の隅の女子二人組を見て、内心、溜息をつく。
また、歩き出す。
(まあ、話しかける勇気がなくて[結果、後をつけてる状態]なんだろうけど、さ)
今のところは、本物のストーカーとは別物だろう。
……将来的には分からないけど。
ズルリッ
「うっ!? やっぱり持ちづらい。もうコッソリと、触手で荷物を持っちゃおうかなぁ? お腹減ったし」
紙袋を何度も持ち直しながら、そんなことを考えつつ、急ぎ足で歩く――
ウイィィィーー
――と、あるスポーツ用品の店の前を通った時、ちょうど自動ドアが開いた。
タタタンッ!
瞬間、店内から制服姿の女子が、ピョコンと歩道に飛び出した。
「わわっとっ!?」
ぴょん
女子とぶつかりかけて、慌てて飛びのく。
ドサ! ドサドサ……
激突は避けたが、飛びのいた拍子に、歩道に紙袋をばら撒いてしまった。
「うおっ!? わりぃ――」
ビクリ
制服姿の女子は、ショートカットを揺らして謝りかけ、固まった。
「あっ! えぇっ!? 青浜さんっ!?」
女子の顔を確認した僕は、驚き、声を上げた。
目の前で石化した女子は、どこからどう見ても、愛しの青浜さんだった。
「すっごい偶然だねっ!! 何で藤沢にいるのっ!?」
突然の女神の登場に、テンション爆上がりで聞く。
かぽん
「………………」
一方、なぜか青浜さんは石化が解けずに、返事が返って来ない。
カツカツカツカツ……
と、通行人のサラリーマンさんが、一瞬、冷たい目を僕に向けて、脇を通り過ぎた。
「あっと、いけねっ」
ヒョイ ヒョイ
紙袋を歩道にばら撒いたままなのを思い出して、慌てて拾い始める――
ひょい……
幾つか拾っていると、目の前の紙袋の一つが、誰かに持ち上げられた。
ひょい
見ると、石化が解けた青浜さんが、紙袋を拾っていた。
「荷物……。持ちながら拾うの大変だから、残りはあたしが拾ってやる。由比里は[クマぽっちゃん]みたいに、ぽちゃっと立ってろ」
ひょい ひょい
青浜さんはそう言いつつ、どんどんと拾っていく。
「あっ、ありがとう」
胸をドキドキさせながらも、お言葉に甘えて、言われた通りにする。
(ここ数日、学校では意図的に避けられてると思ったけど、今はそんな様子はないかな?)
様子を伺い、そう思った。
「ホイ、持てるか?」
青浜さんはテキパキと拾うと、素っ気無い感じで、紙袋を渡してくる。
「何でいっぺんに、こんなに買い込むんだよ? まったく」
ぷいっ
僕に渡し終えると、軽くダメだしをして、そっぽを向いた。
「えへへへっ。ほら、痩せたから、着る私服が無くなっちゃってさ。今日はバイトが休みだから、藤沢でまとめ買いしてたんだ」
(わぁ、久しぶりに会話してるよぅ。うれしい)
にへらぁ~~
紙袋を持ち直しながら、自然に笑みが浮かんでしまう。
「でももう、買い終わったから帰るよ。青浜さんは、何でこんな時間に藤沢に?」
再度、聞いてみる。
「あたしは……前から欲しいスパイクがあったんだよ。それを探しに藤沢まで来て、何軒か見て回ったんだ」
僕とは正反対に、青浜さんはかなりのローテンションで答えた。
「なるほど。それで見つかったの?」
ぶんぶん
青浜さんは、横に首を振る。
黒髪のショートカットが、サラサラと左右に揺れた。
「うんにゃ。この店に[有るには有った]けど、あたしにピッタリと合うサイズは無かった。今回も空振りだな。もう諦めて、帰るよ」
「そうなんだ。……拾ってくれて、ありがとうね。凄く助かったよ」
ニコッ
荷物を持ち直しながら、素直に笑顔でお礼を言う。
「はうぅ!? おっ、おうっ。それは良かったなっ。じゃっ、じゃあ、あたしはこれでさようならだっ!」
グリン!
青浜さんがいきなり、勢い良く踵を返した。
「ああぁ!? ちょっと待ってっ!? 青浜さんっ!!」
今にも走り出そうとする背中を、呼び止める。
「あ……あにさ?」
チラリ
青浜さんがなぜか、恐る恐るといった様子で、顔だけ振り向いた。
(この降って湧いたチャンスを逃したら、馬鹿だろうっ!)
勇気を出せっ!
「そそ、そのっ! おっ、同じ方向だから、一緒に帰ろうよっ!」
第30章「袖振り合うも多生の江ノ電」
終了まで、あと7話
☆この作品の時代設定は2020年代初頭です。
2026年現在[戯画]は活動を終了しています。




