29.5 女呼んでブギウギ5
放課後になる。
結局、午後も青浜さんとは、話が出来なかった。
青浜さんは、五限目あとの休憩時間は、すぐに教室を出て行ってしまったし、放課後も弾丸のように、部活に行ってしまった。
(やっぱり、故意に避けられているのかな?)
渡り廊下の一件以来、まだ一言も話せていない。
お昼のお弁当事件も、明らかにマイナスに作用している感じだ。
ちょっと、挫けそうになる……。
が、友人二人がいやらしい笑顔で[一緒に帰ろう]と誘ってきたのを見て、怒りと共に、気持ちが再び奮い立った。
(くそう、このまま諦めて堪るかっ。週明けに、強引にでも機会を作ってやるっ)
まだ人の多い教室で、密かに決意を固めた。
―――――――
―――
―
椎名君、一宮君と一緒に、昇降口から外へと出る。
空は鈍色で、暑くもなく寒くもないが、少し湿度が高くて、潮風がベタつく。
昨日、一昨日は訓練だったが、今日のイタリア怪人稼業は休みだ。
なんだか久しぶりに、時間が空いた気がする。
せっかく時間が空いたので、放課後は、前々から必要だと考えていた[私服の購入]に使うと決めた。
いきなり痩せたせいで、今ある服は全て、サイズが合わないので着れない。
なので早急に、サイズの合う服を買いたいのだ。
下着は、すでにコンビニで買ったから、必要なのは普段着用の私服だけだ。
(でも、どうせ買うなら、お洒落な服にしたいよね。青浜さんとのデートに着ていけるくらいのさ)
髪型の次は、服だ。
青浜さんに振り向いてもらうために、自分磨きをしよう。
幸い、勝利ボーナスが20万円弱、残っている。
整形代を貯めないといけないが、私服は必要経費の内だろう。
歩きながら、B.I.P.から借りたスマホを取り出す。
ポム・ポムッ
スマホをタップし、お洒落な服を検索しながら、校門をくぐる。
(あ。そーいえば、スマホも買わないとなぁ。……でも、スマホってバカみたいに高いんだよなぁ。どうしよう?)
ふと気がつき、悩む。
(スマホ買うと、20万円の大部分が溶けるよなぁ? う~~ん。……正直、この端末でも不自由はないから、しばらく買わなくて良いか)
買うのは魔法少女を倒しまくって、お金が貯まってからにしよう。
(うん、そうしよう)
ポム・ススッ・ポムッ
僕は一人、脳内解決して、洋服の検索に集中した――
「――先ほどから無作法な[歩きスマホ]をカマしているが、それは何のつもりだ? リア充な若者気取りか?」
しばらくして坂道を下り切る頃、椎名君が冷たく声をかけてきた。
「いや……ちょっとお洒落な服を買いたくて、フッション系のサイトを調べてるんだ。……けど、どれもピンと来なくてさぁ……」
ポム・ススッ・ポムッ
僕は画面から目を離さずに、歩きながら適当に返事を返す。
「チッ……それがオタのすることか……」
「ちっ……そんな銭があるなら、ギャルゲーを買うべきで御座ろうに……」
二人の腹立たしげな舌打ちと呟きが、耳に入った。
ススッ・ポムッ ススッ・ポムッ
が、意に返さずに、画面をスクロールさせ続ける……
(う~~ん。……なんかこういう服装って、違うんだよねぇ……)
見ていたサイトは、どうもチャラい系の服ばかりで、カッコいいとも、着てみたいとも思えなかった。
僕はオタだから、今時の若者の服装に、つい反感を持ってしまう。
どうも、世間で騒がれているチャラい系のタレントやYouTuber、お笑い芸人なんかは、カッコいいとは思えない。
DQN系のゴテゴテさはドン引きするし、ラッパー系はもう[誰がなにを着てもみんな同じ]で、逆に[没個性]に見えてしまう。
(それに、こういった服装は、青浜さんも嫌いな気がするよ。性格的に)
ポムッ
見切りをつけて、サイトを閉じる。
(……あっ! そういえば前にフィリッポさんが、モテる服装の話をしていたなぁ……)
何だったっけ?
スマホから目を離して、踏切の向こう側に広がる海を眺めながら、考える。
フィリッポさんは[ゴテゴテと着飾った服装は、イケメン度を下げるだけ]と言っていた。
曰く[男は料理と同じ。素材が良いならシンプルに纏めた方が、その良さが引き立つ]とのこと。
[カジュアルではなく、明るい色(ただし原色不可)のシンプルなデザインの服が、男は一番セクシーに見える]との、持論を展開していた。
(確かにフィリッポさんは、男の色気があるよなぁ……)
僕はいつもナポリタンを食べながら[格好良いなぁ]と、憧れの気持ちを持って見ていたのだ。
イケメンになった今なら、フィリッポさんを真似ても笑われないだろうし、ああいった服装なら、僕も反感を持たずに、抵抗なく着れる。
(よしっ。その線で攻めてみよう。僕が目指すのは、イタリアの伊達男だっ)
これで買う服の方向性は決まった。
「――さて。僕はこれから、服を買いに藤沢に行くよ。じゃあ、また明日」
シュタッ!
踏切の横で、二人に告げて軽く手を振る。
「……拙者共は、由比里殿の言を信じずに、しばらく学校周辺で張り込むつもりで御座る」
一宮君が堂々と、僕への不信を告げた。
「だな。藤沢に着いて行くと、途中で撒かれるかもしれんしな。この周辺で、部活中の我等の女神をストーキングした方が、無難だろう」
椎名君も堂々と、自分が犯罪者であることを告げた。
「……そうですか」
(ま、本当に買い物に行くだけだし、信じてもらわなくても構わないさ)
友人にここまで信じてもらえないのは、少し悲しいが……
無人駅なので、三人で小動高校前駅の狭いホームに入る。
タタンッ・トトンッ・タタ……ガタンッ
と、すぐに藤沢行きの電車がやって来た。
「じゃあね」
プシュー
ドアが開き、僕だけが乗り込むために、足を一歩踏み入れる――
――と、そこには、目が眩みそうな光景が広がっていた。
「うおおぉっ!?」
思わず声が出てしまう。
「観音電車だっ!!」
――[観音電車]とは、[長谷寺本尊造立1300年を記念してラッピングされた江ノ電の特別列車]だ。
内装は、極楽浄土をイメージし[極彩色の煌びやかなラッピング]が施された、信じられないセンスの電車なのだ。
(注 現在は運行していません)
初お目見えの際は、長谷寺で祈祷してもらうほど、無駄に力の入った車両だ。
この観音電車、観光客にとってはインパクトがあって良いだろう。
が、毎日通学で使う身としては、コレに当たると、何とも微妙な気分になってしまう。
「ぷっ! 幸運で御座るなっ!」
「ぶははっ! お似合いだぞっ! イケメンっ」
友人二人が、ドアの外から僕をあざ笑う。
「ぐっ。……ふんっ! よっ、良かったよっ! これで、きっとこの後、ご利益で何か良いことが起きるよっ! ラッキーだねっ!」
すとんっ
僕はそう強がって、乗り込み座席に座る。
プシュー
ドアが閉まると、友人二人は半笑い顔で、僕を最後まで注意深く見送る。
ガタンッ
電車が動き出すと、二人はようやく、学校に向かって歩き出した。
本当に、青浜さんが部活を終えて下校するまで、ストーキングをするつもりのようだ。
ホームを離れた藤沢行きの観音電車は、ほどなく海から離れて、民家の軒裏スレスレを走り出す。
僕は、ハイセンスな内装に茫然自失としながら、電車に揺られる。
床面の[枯山水]模様を眺めていたら、ふと以前に、天紫野会長と江ノ電に乗ったことを思い出した。
(あ、そうだ。天紫野会長にゲーム貸すの、忘れてたなぁ……)
約束したのにあれ以来、会ってないし、見かけてもいない。
忘れずに、月曜日に持ってこよう。
(でも、隣のクラスに行って女子を呼び出すのは、緊張するよなぁ……どうしよう?)
それに、そんな場面を青浜さんに見られたら、また誤解されて、酷い墓穴になりそうだ。
あと、芹園さんに目撃されたら、またホラーになりそうだ。
ちょっと悩む。
――腰越駅を過ぎると、江ノ電は路面電車に変わる。
悩みながら、車窓を流れる腰越の町並みに目を移す……
と、自転車に乗った高校生が、江ノ電と並走していた。
(あっ、自転車の回収も忘れているぞっ)
もう、何日も置きっぱなしにしている。
でも、今から戻るのは面倒だ。
それに、舞い戻った僕を見て、友人二人が激しく誤解しそうだ。
(回収するのは、月曜日にしよう)
何だか今日は全部、来週に後回しにしている気がする……
特に、青浜さんに話しかけられず、結局、来週にしたのが、我ながら頂けない……
「……逃げてるつもりは、ないんだけどなぁ……」
キキンッ・キシシッ・キキッーー
僕の呟きは、龍口寺前の急カーブを曲がる車輪の音で、掻き消えた……
第29章「ジョブチェンジ・ランチ」
終了まで、あと1話
第29章の最終話は、夏音Sideになりますっ。
乞うご期待!
次回は金曜日に更新しますっ!




