29.4 女呼んでブギウギ4
ドドドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「ひぃぃっ!?」
帚木さんも、廊下のホラーに気がつき、声を上げて顔を引きつらせた。
「ぐへへへっ、お奉行様っ。髪型を変えたんでごぜぇますねぇ~~」
一方、牧さんはチラリと廊下を見たにもかかわらず、まるで教室内に渦巻く強烈なプレッシャーなど存在しないかのように、越後屋を続ける。
この人は、かなりの強心臓の持ち主だ。
にへら~~
「その髪型、凄くお似合いでげすよぉ~。益々、格好良くなりましたなぁ。ねぇ? 里奈ぁ~」
越後屋牧さんは、揉み手で話を振る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「えっ!? ……う……うん……そう……だね……」
しかし帚木さんの方は、完全に芹園さんのプレッシャーに怯えきっているので、返事も漫ろだ。
(しかし……コレ、まずいな)
あらためて教室内に注意が向いた僕は、別の視線にも気がつき、焦りを感じた。
それは、磐田君ほどではないが、[敵意ある視線を、僕に向けてるクラスメイト男子が複数人いる]、ということだ。
今、食事を共にしている女子二人は、割とクラスの中で人気がある子たちだ。
彼女たちに気がある男子だって、何人かいても、おかしくはない。
(友人のせいで、無意味に敵が増えてしまった……)
ずぶずぶと泥沼に嵌っていく気分だ。
青浜さんの誤解が増え、芹園さんの怒りを買い、クラスの男子を敵に回す……
もう、どうやって状況を打開すれば良いのか、分からない。
(………………保健室に逃げちゃお)
打開案は、某ジョセフ・ジョースターが得意とした[逃走]くらいしか、思いつかなかった。
根本的な解決にはならないが、少なくとも今の針の筵からは、脱出出来る。
お弁当は、まだ半分くらいしか食べてない。
残したら、帚木さんに悪い。
(残りは保健室での検査を終えたら、ダッシュで戻って食べよう)
その頃にはきっと、クラスのほとぼりも冷めているだろう。
「……あぁっ、飲み物がないやあ~。こまったなぁ~。僕、ちょっと買って来るねぇ~……」
棒読みでそう呟いて、腰を浮かせ逃走を図る。
ポン!
その時、中腰状態の僕の肩を、誰かが叩いた。
くるり
振り向くと、そこには笑顔の中肉中背と一宮君が立っていた。
ニッコリ
「同志よ、その心配には及ばんぞっ」
「で、御座る。これは拙者共の、奢りで候ふ」
コトン
いつの間にか戻った友人二人が、机に小さいペットボトルのお茶と、紙コップに入った牛乳らしき飲み物を置いて、いいねっ! と親指を立てた。
「では、ごゆるりと。Ciao!」
「Addio!(あばよっ!)」
くるりっ
そしてイタリア風捨て台詞を残して、笑顔で踵を返した。
「Adieu!(おさらばっ!)」
なぜか牧さんが、フランス風捨て台詞を二人に返す。
シュタッ!
友人二人はそれを背中で聞き流し、軽く手を振り返した。
そのまま教室の後ろのドアへ移動すると、廊下からこちらを覗くように立った。
そして、なぜか一宮君は手にアンパンと牛乳を持って、こちら見張るように、鋭い目を向けている。
まるで、古いTVドラマの刑事みたいだ。
「いちっ! にっ! さんっ! しっ! ――」
一方、椎名君は手に大豆ビスケットと、プロテインシェイクのボトルを持って、スクワットをしながら、こちら見張るように、鋭い目を向けている。
こっちはある意味、奇抜で斬新な刑事像だと思う。
が、もしもこんな刑事がいたら、ただの怪しい中肉中背として、市民に通報されること請け合いだろう。
「飲み物、買いに行かなくて良かったねぇ~? 由比里君~」
ぐいいっ
やっとジョブが女子高生に戻った牧さんが、笑顔で僕の腕を引っ張る。
ぐぐっ
「ささ、座って座って~」
「……う……ん」
逃げることさえ叶わない僕は、不承不承で座り、食事を再開した。
(くそうぅ、椎名君と一宮君は、学食に行くんじゃなかったのかよぅ……)
これでは前門の虎、後門の狼で、逃げ道がない。
ドドドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ホラー芹園は、相変わらず呪われた仮面顔のまま、微動だにしない。
帚木さんは、それに怯えて縮こまる。
にへら~~
が、強心臓の牧さんは、平然と食事イベントを完遂させようとする。
「にじゅうにっ! にじゅうさんっ! にじゅう――」
友人二人は、廊下から僕が逃げないように監視。
ざわ……ざわざわざわ……
クラスメイトたちは、好奇と敵意の視線を投げかけてくる。
しん……
青浜さんは、もう食べ終わっているのに(あれ? 結構な量があったよね?)、なぜか背中を向けたまま、静かに座り続けている。
(うぅ、こんなはずではなかったのに……)
もう、味も会話も、頭に残らない。
僕は針の筵の中、食事を続けるしかなかった……
ちなみに、紙コップに入った飲み物は、[牛乳]ではなく、[プロテイン入りの豆乳]だったことは、覚えている……
――――――――
―――
―
その後、何とかお弁当を完食すると、帚木さんに丁寧にお礼を述べた。
そして、恐る恐る廊下に目をやると、いつの間にか、芹園さんの姿は廊下から消えていた。
ようやく胸を撫で下ろして、プロテイン入り豆乳を一気飲みし、一息ついた。
それを見届けた友人二人が、傍にやって来て[時間だから保健室に行こう]と誘ってきた。
僕は、すかさずソレに乗って、クラスメイトの好奇と敵意が飛び交う教室から、逃げるように退出した。
――結局、青浜さんは、最後までこちらを振り向かなかった――
保健室へ向かう道すがら、後ろをついて来る友人二人は、とても満足げだった。
彼らは僕が[芹園Endを迎えるか? はたまた、幻の帚木Endを迎えるか?]で、討論の花を咲かせていた。
盛り上がる友人たちを背に、僕は歯噛みしながら、黙々と保健室に向かった。
結局、保健室前に到着する頃には、友人二人は、僕が[触手暴走Bad End]を迎えることで、意見が纏まった……
いや、[触手暴走Bad End]ってどこから出たよ? おっかないなぁ。
ちなみに、学食前で[僕がいない理由]を、椎名君たちから聞いた時の芹園さんは、[恋愛怪人セリゾノン]と名付けたくなるほど、恐ろしい様子だったそうだ。
こっちは冗談抜きで、おっかないなぁ……
第29章「ジョブチェンジ・ランチ」
終了まで、あと2話
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