29.2 女呼んでブギウギ2
にや……
ニヤ……
瞬間、友人二人の口元が、嫌らしく吊り上ったっ!
ガシッ!
ガシッ!
二人がまた、僕の両腕を左右からロックした。
「よしっ。同志の意思を尊重して、学食を無理強いするのは止めよう」
「応。やはりそれが、友人として正しい態度で御座るな」
グイグイグイグイ
そのまま二人は僕を、半ば強引に教室内に連れて戻る。
「えっ? は? なに?」
意味が分からず戸惑う僕は、たいして抵抗もせずに、連れて行かれる。
グイグイグイグイ
「あいや、卒爾で相済まぬが、お二方っ。一つ聞いては下さらぬかっ」
一宮君が、興に乗った声で、座っている帚木さん、牧さんに声をかけた。
(注 卒爾は[突然]の意味)
!?!?
女子二人が、驚き顔でこちらを見る。
グイグイグイグイ
「我等三人は、学食に行く予定だったが、同志由比里は弁当を受け取ったので、一人だけ、学食に行かないと決まったのだ。混んだ学食で弁当を食べるのは、マナー違反だからな」
中肉中背もそう言いつつ、女子二人に、僕を引っ張っていく。
ググイッ
「だが、拙者共が学食に参ると、由比里殿は一人ぼっちの昼食となるので、可愛そうで御座ろう? で、御座ろうの?」
女子二人のすぐ傍まで来た。
「そこで済まないが、同志由比里を帚木嬢たちの食事の仲間に、加えてはくれまいか?」
友人二人が、見事な連携で話を進めて、女子二人にとんでもない提案を持ちかけた。
「「「えっ!?」」」
ポカンとなりゆきを見守っていた僕と女子二人が、同時に驚きの声を上げた。
「友が一人寂しく食事を摂るのは、どうしても忍びない。ここは俺の筋肉に免じて一つ頼まれてはくれまいか? フロント・ラット・スプレッド!!」
中肉中背がうそ臭いスマイルを浮かべて腕を放し、ポージング付きで頼む。
「帚木殿も弁当の感想が聞けて、一石二鳥だと拙者は愚考する次第で御座るが、如何で御座ろうか?」
一宮君も腕を放して、侍と言うよりは越後屋といった感じのうそ臭い笑顔で、手もみをしながら二人に問いかけた。
「ちょっ!? 何を勝手にっ――」
僕は驚き、抗議の声を上げる。 が、途中で――
「ソレっ、良いかもねっ!!」
パチンッ
牧さんが僕の言葉を遮るように声を上げて、笑顔で手を叩いた。
「ナイスアイディアだよっ。賛成っ!」
牧さんが諸手を上げて、賛同した。
にや……
ニヤ……
瞬間、また友人二人の口元が嫌らしく吊り上ったっ!
「ちょっと。和泉子……」
帚木さんが顔を赤くして軽く抗議する。
が、本気で拒絶するつもりも、ないように見えた。
「結構! お決まりで御座いますねっ。ではでは、椅子をお持ち致しましょう」
そそくさ そそくさ
侍から商人にジョブチェンジした一宮君が、笑顔で僕の椅子を取りに向かった。
サササッ サササッ
そして神速で取って返すと、僕の椅子を、女子二人の机に並べてしまう。
「ささっ、お客様っ。お疲れで御座いましょう? どうぞ遠慮なさらないでっ」
そそくさ そそくさ
こちらも女子高生から女将さんにジョブチェンジした牧さんが、かなり強引に、僕の腕を引っ張って、椅子の前に連れて行く。
「さっ、こちらにお座り下さいっ」
そそくさ そそくさ
未だにマッチョにジョブチェンジ出来ない椎名君が、椅子を引いて、座れる態勢を整えた。
「「「さあっ、どうぞっ」」」
三人が百万ドルの笑顔で声を揃え、着席するように促した。
チラッ
帚木さんは顔を赤くしつつも、薄っすらと期待した眼差しを、僕に向けた。
「ううぅ……」
帚木さんの乙女の眼差しと、合計三百万ドルの笑顔を拒絶出来るほど、僕の心臓は強くなかった――
ストン……
とうとう僕は、お弁当の入った巾着を胸に抱えたまま、座ってしまう。
僕は、Noと言えないイタリア怪人なのだ。
(注 Noはイタリア語の[いいえ])
「では、ごゆるりと。Ciao!」
「Arrivederci!(さようなら)」
クルリ
着席を確認した友人二人は、笑顔で踵を返す。
イタリア語を使ったのは、きっとさっきの意趣返しなのだろう。
チッ! つくづく良い友達だ。
「Au revoir!(さようなら)」
なぜか牧さんが、フランス語で返した。
シュタッ
シュタッ
友人二人はそれを背中で聞き流し、軽く手を振り返して、そのまま教室を出ていった。
ざわざわざわ……ざわ……
突然発生した、僕と女子二人の見慣れない食事グループに、人も疎らな教室内が、某カイジのように、静かにざわつき始める。
チラリ チラリ
クラスメイトの好奇の視線が、全身に刺さって、痛い。
「ささっ、由比里君はお弁当を開いてねぇ~。里奈はすっっごくお料理上手だから、期待して大丈夫だよぉ~」
ジョブが女子高生に戻った牧さんが、クラスメイトの視線を物ともせずに、朗らかに僕の手から巾着を奪う。
サササッ
「はい。どーぞ」
牧さんは巾着からお弁当を取り出して、僕の目の前に置いた。
……もう、この場で食べる以外に、選択肢は残されていない……
「……うん。……その、いただきます」
ぺこり
頬を赤らめてこちらを見ている帚木さんに、軽く頭を下げて、お弁当箱に手をかける。
パカ……
開けると、お弁当独特の、冷めたお米の良い匂いが、ほんのりとした。
中はコンビニ弁当……などというオチは、当然ない。
奇を衒った感もない、見た目鮮やかな、オーソドックスな手作り弁当だった。
俵型にごま塩のご飯。
鳥のから揚げ。 ミニハンバーグ。 タコさんウインナー。
出汁巻卵。 ブロッコリーとプチトマト。 そして――
「――あ、ナポリタンも入っている」
思わず呟く。
お弁当の隅に、ちょこんと可愛く、ナポリタンが入っていた。
「あのぅ。由比里君の好物だと、聞いたから……」
徹頭徹尾、ジョブが[乙女]の帚木さんが、小さな声で答えた。
「うん、好物なんだ。ありがとう」
とても嬉しく、素直に笑顔でお礼を言う。
「いただきます」
見た目はかなり美味しそうなので、早速、箸を掴んで、弁当へ向けた……
第29章「ジョブチェンジ・ランチ」
終了まで、あと4話




