28.5 メリージェーンと琢マッシーーン5
「あ、ナポリタンくんッスね! 初めましてッス! シマァーー」
ヨサノンさんが、その見た目からは想像もつかないほど、明るく、可愛らしい声で、挨拶を返してきた。
「は、初めまして。新怪人のナポリタンです。よろしくお願いします」
ぺこり
見た目のギャップに戸惑いながらも、頭を下げる。
「あいっ。こちらこそッス!」
シュタッ
ヨサノンさんは、気さくに手を振る。
かぱっ
そして、徐にポッキーの箱を開けた。
カリカリカリカリカリカリカリ……
そのまま、ハムスターを思わせる様子で、食べ始めた。
ヨサノンさんの前には、飲みかけの自販機のお茶が置いてある。
(僕も、なにか飲もうかなぁ)
ちょっと喉が渇いたので、休憩室内の自販機の前に立つ。
「あ」
が、すぐに、お金を怪人部屋に置いてきたことに、気がついた。
(取りに戻ろうか……ん?)
悩んでいると、近くにウォーターサーバーがあるのに気がつく。
無料のようなので、紙コップにその水を注いで、ヨサノンさんから少し離れた場所に座る。
カリカリカリカリカリカリカリ……
ヨサノンさんは相変わらず、ポッキーを一心不乱に食べ続けていた。
長い[乱れ髪]のわずかな隙間に、次々とポッキーが消えていく。
一週間ほど前は、あちこちに包帯を巻いて痛々しかったが、今は包帯は全て取れているように見えた。
「……あのぅ……もう、怪我はいいんですか?」
気になったので、思い切って聞いてみる。
「あいっ、大丈夫ッス。ボクは怪人化のお陰で、怪我の治りが通常の三倍ほど早いッスからねっ」
「もうすぐ復帰出来そうなので、こうしてリハビリにやって来たッスよ」
ぴっ ぴっ
楽しそうに、ポッキーを振りながら答えてくれた。
てか、ヨサノンさんって、ボクっ娘だったんだなぁ。
「ところで、噂では、ナポリタンくんは治癒能力で、一瞬で怪我が治ると聞いたッスけど、本当ッスか?」
「あ、ですです。一昨日の怪我も、治療室に行く前に、飛ばされた空中で治ってました」
ちょっと、自慢げに話してしまう。
「ははぁ~、それは羨ましいッスねぇ~」
「ナポリタンくんは戦闘能力が高いし、治癒能力もあるから、もしかしたらここ何十年間で、湘南最強の怪人なんじゃないかって、みんなが噂してるッスよ」
「ええ~? そうなんですかねぇ……」
照れるなぁ。
「まあ、ボクもB.I.P.歴はそこまで長くないので、確かなことは言えないッスけどねっ。こう見えても、まだ大学生ッスからっ」
いいねっ! と、親指を立てた。
「えっ!? 大学生だったんですか!?」
ちょっとビックリ。
「あいっ、鎌倉の大学に通ってるッス。そうそう、ナポリタンくんも大学生なんスよね? どこの大学ッスか?」
「ええっと……」
(どうしよう。B.I.P.では大学生の設定だけど、大学のことなんて、全然分からないしなぁ……)
辻堂周辺に、慶応大や立教大のキャンパスがあるのは知っているけど、詳しく知らないし……
僕が答えに困っていると、ヨサノンさんがスクッと立ち上がった。
ビシッ
「バトルロワイヤル。体育会とゼミ系サークル以外のお遊びサークルの皆さんには、ボックスの優先使用権を賭けて、サークル同士のつぶし合いをしていただきますっ」
ヨサノンさんが急に、口調を変えてそう言った。
「……このセリフ、知ってるッスか?」
ブンブンブン
当然、知らないので、首を横に振る。
知らないし、全く意味が分からない。
「そッスか。じゃあ、ナポリタンくんは、ウチの大学の学生じゃないッスね」
すとん
ヨサノンさんがいいね! と親指を立て、着席した。
「もしも、ナポリタンくんがウチの大学で、他のサークル――」
「特に今、抗争中の[江ノ島電鉄研究会・製菓ラッピング反対派]のメンバーだったら、たとえ同じ怪人仲間でも、容赦はしなかったッス」
「はぁ、そうですか。……何か大変そうですね」
大学って、変なところなんだなぁ……
「さって、ボクはそろそろ[五次元防壁訓練室]に行くッスね」
すたっ
ヨサノンさんが、お茶を一気飲みして、再度、立ち上がる。
「ボクも最強のナポリタンくんを見習って、頑張らねばいかんッス」
むんっ
そう言うと、小っちゃい力こぶを作った。
「あ、五次元防壁訓練室で、何か特殊な訓練をするんですか?」
興味を覚えて、聞く。
「あいっ、前から与謝野晶子の怨念を、戦闘でどう表現するかが、課題なんッス。今回は、ソレを訓練するッス」
元気に、意味不明な返答をしてくれた。
「いや、与謝野の怨念って、何ですか? おっかない……」
やっぱりこの人は、江ノ島岩屋をお岩さんか何かと、混同している。
まあどうせ、悪ノリして白装束を着せた、某ドクターが悪いんだろうけどね。
「与謝野はいったい、どんな未練を残して、稚児が淵から身を投げたんスかねぇ……」
ヨサノンさんが、遠い目をする。
(注。実際は、呪い髪に隠れて、目は外から確認出来ません)
「いや、与謝野は江の島で、短歌を詠んだだけですよ?」
身投げをしたのは、鶴岡八幡宮の稚児(少年僧)の[白菊]です。
「新技で[いちまーい、にまーいっ]と、皿を投げるなんてのはどうッスかね?」
ヨサノンさんは、僕の突っ込みを総スルーして、話を続ける。
この人は、人の話を聞いちゃいない。
「ブルーには有効だろうけど、それだともう、与謝野が忘却の彼方ですよ?」
四谷怪談からも離れて、番町皿屋敷に変わっているし。
きっと岩[屋]と、皿[屋]敷を混同しているのだろう。
「うーーーん、じゃあ、[鉄幹]って名前の鉄パイプを振り回すのは、どうッス?」
「夫の与謝野鉄幹にかけて、鉄のパイプだから鉄管ってことですか? それは怪人として、ビジュアル的にどうでしょう?」
「うーーーん、なら、鉄観音茶をブシューー!! と口から吹くとか?」
飲み終わった紙コップを持ち上げながら、聞いてくる。
「ああ、さっき飲んでたのは鉄観音茶だったんですね? でも、鉄観音茶を口から吹いても、汚いだけで、攻撃力は0ですよ?」
それは魔法少女に対する、単なる嫌がらせだ。
「てか、いったん[鉄幹]繋がりから、離れて考えませんか?」
「そうスっか? 与謝野の恨みを表現するには、[鉄幹]繋がりが一番だと思ったんスけど?」
「いや、寛は確かにダメ男だったけど、晶子はそこまで恨んではいないと思いますよ?」
(注 与謝野鉄幹の本名は寛)
「もういっそのこと、そのポッキーでも、投げちゃったらどうです?」
面倒になってきたので、適当な提案をする。
「それは駄目ッス! それはポッキーへの冒涜ッス! ヒロシ&アキコが許しても、お菓子の神様が許してくれないッス!」
ヨサノンさんが喰い気味に、力強く否定した。
「あ、そうですか……」
(お菓子の神様って何だよ、おっかないなぁ……)
あと、ヒロシ&アキコって、昭和の演歌デュエットみたいだなぁ。
ヨサノンさんと話していたら、あっという間に休憩時間は終わった……
第28章「リア充ノリが分からない僕」
終了まで、あと4話
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