28.4 メリージェーンと琢マッシーーン4
四畳半の怪人部屋の卓袱台の上に、業務用スマホが置いてあった。
添えられたメモには、Dr.ヘッドランドの発注で用意されたことが、書いてあった。
スマホが使えるか、軽く動作チェック。
問題が無かったので、鞄に仕舞う。
そして、戦闘員用のパワースーツに着替えて、黒マントを襟を立てて羽織る。
[カラー1プッシュ将軍]のスプレー缶も置いてあった。
が、[出撃時以外は金髪に染めなくても良い]と言われているので、黒髪のまま、イタリアのカーニバルマスクを装着する。
それから、しばらくすると、戦闘員の更衣室で着替えた椎名君、一宮君がやって来た。
四畳半部屋に迎え入れて、僕が三人分のお茶を入れた。
怪人ナポリタンと、薄紫マフラーの戦闘員二名が、卓袱台を囲み、お茶と海苔羊羹で一服する。
ずずずずずっ……
「……我々も、一日も早く注射を打ってもらわねばな……」
「で、御座るな……」
静かな四畳半の怪人部屋に、目出し帽を外した戦闘員二名の、搾り出すような声が響いた。
椎名君の症状は軽かったようで、表情は苦いが、顔の血色は良い。
会話が弾まないままお茶を飲んでいると、訓練の予定時間が近づいてきた。
少し早かったが、二人を促して、訓練ルームへと向かった……
――――――
―――
―
アルバイト戦闘員時代は月に一、二度、一時間程度の基礎訓練があるだけだった。
なので、あまり訓練施設には詳しくない。
訓練ルームは複数あるのだが、僕が使ったことがあるのは――
柔道などで使うようなビニール畳が敷かれた[第一普通訓練室]
武道などで使うような板張りの[第三普通訓練室]
――だけだった。
他には
レスリングなどで使うようなマットが敷かれた[第二普通訓練室]
フィットネスクラブのような、筋力トレーニングの器具が置かれた[基礎練成室]
(当然、筋トレ時は、パワースーツのスイッチをオフにする)
が、あるが、この二つはまだ未利用だ。
そして、この訓練区画の下の階には、[五次元防壁訓練室]が存在する。
これは、怪人や将軍が、無茶な訓練を行う際に使用するもので、当然、利用どころか、部屋の前に行ったことすらない。
今日の予定は――
前半は、マットが敷かれた[第二普通訓練室]で、三人揃っての格闘訓練
後半は、僕だけ同じ区画にある[訓練準備室]で、イソガニンさんが講師の座学
椎名君と一宮君は、[基礎練成室]での筋力トレーニング
――と、なっている。
所要時間は、全部で2~3時間の予定だ。
余談だが、イソガニンさんは先日、[特殊兵種科長]に任命されて、准将に昇格したそうだ。
この役職は、平たく言えば、若い怪人たちの、纏め役のようなものらしい。
僕と椎名君、一宮君が、完全装備で訓練区画に入ると、赤マフラー戦闘員や、黄色マフラー戦闘員の姿が、あちらこちらに見えた。
彼らは、高い頻度で、恒常的に訓練する義務があるので、この区画で多く見かけるのだ。
「「「シマァーー!」」」
廊下ですれ違う時、赤マフラー戦闘員や、黄色マフラー戦闘員が、僕に道を譲り、直立して挨拶する。
「シマッ」
僕は内心、戸惑いながらも、横柄にならない程度に、威厳を保って返礼した。
「「シマァー! シマァー!」」
ペコペコ ペコペコ
その僕の後ろを、友人二人が周りに頭を下げながら、ついてくる。
さすがの二人も、アジト内で徹底マークをするつもりはないらしい。
が、今は、場違いな場所に来たせいで怯え、結局、僕の背中に張りついて歩いている。
[第二普通訓練室]に入ると、黒マフラーの親衛隊員が一人、静かに待っていた。
総統閣下の御下知で、今日は特別に、格闘教官をしてくれるそうだ。
僕を中心にして、椎名君と一宮君も基礎格闘訓練を受ける。
椎名君と一宮君は、初めて間近で見る親衛隊員に、緊張しっぱなしだった。
それでも、重りを着けたまま訓練に挑み、叱られた中肉中背は、さすがだと思った。
もちろん、叱られた椎名君は、速攻で重りを外して、平謝りしてた。
一宮君の左手首の怪我も癒えたようで、変わらないメニューをこなした。
基本的なパンチやキックの反復訓練だが、肩の使い方、腰の使い方がだいぶ良くなったと、教官に褒められた。
もっとも、この短い時間で劇的に成長する訳もなく、[これからは日々、鍛錬に励むように]との訓示をいただいて、終了となった。
――次の訓練まで、10分の休憩時間をもらった。
友人二人は、次は[基礎練成室]での筋力トレなので、待ち切れない椎名君は、休憩を取ることなく向かってしまう。
同じ訓練を受ける一宮君も、慌てて後を追いかけたので、僕は一人、休憩室に向かった……
―――――
―――
―
「あ、シマァーーー!」
休憩室に入ると、先客がいたので、挨拶する。
先客は――
白装束に[乱れ髪]というより
井戸から現れる某貞子のような、[呪われ髪]といった感じの
長い黒髪で、顔を隠している女怪人、[岩屋怪人ヨサノン]さん
――だった。
その姿は、[ブルーが戦闘中にもかかわらず、涙声になった]気持ちがよく分かるほど、不気味だった。
ここが明るい休憩室でなかったら、僕も思わず、逃げ出していただろう。
ちなみに、白装束はただの着物ではなく、専用パワースーツなのだそうだ。
……どういう仕組なのか、ちょっと興味が湧く。
「あ、ナポリタンくんッスね! 初めましてッス! シマァーー」
ヨサノンさんが、その見た目からは想像もつかないほど、明るく、可愛らしい声で、挨拶を返してきた……
第28章「リア充ノリが分からない僕」
終了まで、あと5話
☆リアクションだけでも、つけてもらえると、めっちゃ嬉しいですっ!☆




