28.1 メリージェーンと琢マッシーーン1
水曜日
すたすたすた
昼休み、学食に向かって三人で歩く。
僕を真ん中にして、友人二人が左右を固める、いつものフォーメーションだ。
無論、これは外敵から僕を守るためではなく、僕から、友人二人が崇める[二人の女神]を守るためだ。
今日は、朝から雨だった。
どうも昨日の芹園さんの上履き占いは、ピタリと当たったようだ。
すたすたすた
早足で歩きながら、窓の外を見る。
ようやく雨は、小雨になってきた。
これならもうすぐ上がるだろう。
友人二人の努力の賜物なのか、今日は一度も、青浜さんと話せていない。
青浜さんとは、登校時に会っていない。
休み時間も、すぐに教室を出て、どこかに行ってしまうので、話す機会がまったくなかった。
ただ僕の方も、友人を振り切ってまで、話しかけようとはしなかった。
なぜなら、昨日の渡り廊下での疑問――
[なぜ青浜さんは、雨の中へ走り出したのか?]
が、解けていないからだ。
――昨晩、家に帰ってからずっと考えた。
考え続けて、あの行動には、二つの可能性があることに、気がついた。
まず、一つ目の可能性は、良い解釈。
[青浜さんは芹園さんに嫉妬して、怒って走り出した]という可能性だ。
つまり[青浜さんは僕に気がある]という、かなり都合の良い解釈だ。
正直、解釈というより、僕の願望と言ってもいい。
もしもこの解釈通りに、[嫉妬するほど僕に気がある]のなら、最高に嬉しい。
これなら即、勇気を持って告白し、ラブラブ・ハッピーエンド行きだ。
が、友達としての下地があるとはいえ、本格アプローチ二日目で、この結果が得られるとは、到底思えない。
正直、この可能性は低いと思う。
二つ目の可能性は、悪い解釈。
目の前で男女が抱き合う様子に[いかがわしい]や[見ていて恥ずかしい]などの感情が湧き、居心地の悪さから、走り去った――という可能性だ。
つまり、路上キスとか、電車でイチャつくカップルとかを目撃した際、嫌悪感や羞恥心を感じて、目を反らす心理に近いだろう。
こっちだと、最悪だ。
これだと、一昨日に引き続き、また失敗したことになる。
(……やっぱり、悪い可能性の方が高いよなぁ……)
結局そう思うのは、今日、朝から青浜さんと、話せていないせいだ。
会話はおろか、ニアミスさえ起こらないのは、偶然ではなく、青浜さんが嫌悪感を感じて、僕を意図的に避けているのでは?
そんな疑念が頭を占めて、ネガティブ思考に傾いていくのだ。
(ただ、どっちにしても、変な誤解は解いておかないと、駄目だな)
良い解釈、悪い解釈に関わらず、僕と芹園さんが仲良し……恋仲だと、青浜さんに誤解されるのは、マイナスでしかない。
(どこかで切っかけを作り、説明しないとな……)
昨日の朝のように、すんなりと誤解が解ければ良いのだが……
(万が一、益々、話が拗れてしまったら、困るよなぁ)
そんな考えもあり、さらに躊躇してしまう――
「――由比里くん」
ハッ
声がして、我に返る。
ピタリ
そのまま、誰かが肩を寄せてきた。
見ると、それは芹園さんだった。
僕はいつの間にか学食前に着いていて、友人たちが、しっかりと芹園さんが入るスペースを空けた後だったようだ。
「昨日の放課後は、助けてくれてありがとうね。凄く嬉しかった」
芹園さんが頬を上気させながら、綺麗な目で僕を見つめる。
「スマホの弁償は断られちゃったから、せめてお礼に今日は、焼きうどんを奢らせてね」
「え? ……うん、ありがとう……」
(うーん、芹園さんが抱きついたのが原因で、僕は悩んでいたのになぁ……)
ちょっと不満に思って、生返事を返してしまう。
もちろん、自分の意思で芹園さんを助けたので、スマホの破損も含めて、行動に後悔はない。
(でも、青浜さんの前で抱きつくことは、ないよねぇ。いくら怖かったといってもさぁ……)
僕としても、泣いてる子を振り払うなんて、出来ないのだから。
そこでハタと思い出した。
「そうだ、磐田君は今日、休みみたいだよ」
不満はいったん置き、大切なことを芹園さんに報告する。
「難癖をつけられるかも? と思って警戒してたけど、来なくてホッとしたよ」
旧式ヤンキー磐田君は、朝から来ていないので、今日はどうも休みのようだ。
彼のことは、もう怖くない。
が、スマホの弁償を要求しても、あのヤンキーは絶対に応じないだろ。
逆に、難癖をつけてきそうなので、顔を合わせるのは、面倒だと思っていたのだ。
なので、休みと分かった時は、正直ホッとした。
もちろん、スマホ破壊は、腹が立つが……
ちなみに、担任のランス先生も朝はいなかったが、休みではなく、いつもの遅刻だった。
「そうなんだ。ずっと休んで、そのまま学校を辞めてくれたら、良いのにねっ」
芹園さんが、屈託のない笑顔で言う。
嫌いなモノに対して容赦がないのは、実に芹園さんらしい。
「そだね」
僕は苦笑いを浮かべつつも、頷く。
「それで結局、上履きは拾ったの?」
チラッ
芹園さんの足元を見て、聞く。
彼女はしっかりと、上履きを履いていた。
「ううん。新しいの買っちゃった……。お金、勿体ない。ねえねえ、上履きとスマホの代金、一緒にキモ磐に請求しようかぁ?」
「うーん、多分、彼は払わないでしょ。プライド的に」
(おいおい、キモ磐って……。数日前まで僕のことを、キモ里って呼んでいたのに……)
芹園さんのアレな性格に、益々、苦笑いを浮かべるしかなかった……
「ご歓談中すまないが、二人ともちょっといいか? 一体どういう話なのか、我々にも教えて欲しいのだが?」
なぜか、いつもすぐに席取りに離れる椎名君が、まだ傍にいて、聞いてきた。
一宮君も存在感を消さずに、横にいる。
「どうって、昨日の放課後、わたしが渡り廊下で磐田に襲われている時に、由比里くんが助けてくれたのぅ」
「颯爽と現れて悪いヤツを倒すっ。正義のナイト様って感じで、凄く格好良かったあぁ」
芹園さんが蕩けた顔で、詳しく説明しちゃった。
「ほーう。由比里殿、どういうことで御座ろうか? 貴殿は拙者共の前で、電車に乗ったで御座ろうに」
「なぜ、バイト先にいるはずのナイト由比里が、学校にいたのか……。何とも摩訶不思議な話だな」
二人が犯罪者でも見るような冷たい目で、僕に問いかける。
(わあああっ! しまったぁあぁぁぁーーーーー!!)
二人を撒いたことを、うっかり忘れていた。
「……あはっ、あははははは……実は忘れ物に気がついて、学校に取りに戻ったんだよぅ」
ポリポリ
頭をかきながら、咄嗟に超適当な嘘をつく。
「ほほう? 忘れ物とは何だ?」
「ええーーーーーーーーーーーーと…………傘? ……かな?」
何も思いつかなかったので、阿呆なことを言ってしまう。
「へえぇぇーーー[傘]ねえぇ……」
椎名君はワザと、傘を強調して言う。
「これは異なことを、ナイト殿は自ら傘を差して、学校を出たでは御座らぬか?」
二人は、性犯罪者でも見るような目をしている。
「あはっ、あははははは……ほ、ほら、メガネとか財布を手に持っていて、捜すことがあるでしょ? そんな感じで、差しているのを忘れて、探しに戻っちゃったんだぁ、あははははは……」
無理でしかない言い訳をし、笑って誤魔化そうとする。
「あははははは……僕って馬鹿だねぇ~、あははははは……」
「もぅやだぁ、由比里くんっ。おっちょこちょい」
ペチペチ
芹園さんは笑って、僕の肩を叩く。
「「……………………………」」
もちろん、友人二人は、最後まで笑顔を浮かべなかった……
第28章「リア充ノリが分かんない僕」
終了まで、あと8話




