27.8 潮風のエトランゼ8 〜夏音Side〜
だからこそあたしは、白浪に任せてまで続ける意味が、本当にあるのか疑問に感じた。
だって、あいつは正義と言えない気がするから……
「夏坊、おかわり、どうだ?」
「え? ああ、サンキューおっちゃん」
思考を止めて、おっちゃんに空の茶碗を渡す。
「組織運営だけなら、高次君か桜花がサンシャインの長官になれば済む。戦闘面で優れた人材も、探せばいくらでも見つかるじゃろう」
「しかし、手前味噌じゃが、あの奇跡の機巧[ドラゴニック・アクセレレーター]を扱える者は、そうそうおらんのじゃよ」
じっちゃんは話しながら、アジフライを箸でほぐす。
「[ドラゴニック・アクセレレーター]こそ、普通の少女を魔法少女に変身させる機巧じゃ。アレが止まれば、湘南防衛機構サンシャイン自体が成り立たない」
「だが、高次君も桜花も、機械関係は苦手ときておる」
「しかし、アースジャスティスの技術者であれば、アレを扱うことは可能じゃろう。遥君も、技術方面には、非常に明るいからのう」
そう言ってじっちゃんは、アジフライを口に運び、もごもごと咀嚼する。
桜花とおっちゃんは、食事がほぼ終わったようだ。
あたしも刺身で、ラストスパートをかける。
「……わしもドラゴニック・アクセレレーターには、少々愛着がある。サイエンティストの一人として、出来ることなら、アレを後世に残したいとの欲求があるのじゃ」
「なら、湘南防衛機構サンシャインと一緒に、ドラゴニック・アクセレレーターを遥君に引き渡すのも、一つの選択肢かと思ったんじゃよ」
じっちゃんは、マカロニを摘む。
「元々、仲の悪かった従兄弟のあやつ……白浪玄蔵との関係が決裂したのは、あやつの姉とわしの結婚が決まってからじゃった。親族は皆、祝福してくれたのに、あやつだけが猛反対してのぅ……」
「えっ!? ばっちゃんって、旧姓は白浪だったのっ!?」
驚いて聞く。
「そうじゃ。初代ピュア・シャイニングは、わしと結婚する前の白浪海花じゃよ。じゃからな、そう考えると、遥君がサンシャインを継ぐのも、何かの縁かと思うてなぁ……」
じっちゃんが、しみじみと語る。
知らなかった……
(じゃあ、桜花と発光眼鏡の親戚関係は、何になるんだ? 又従兄妹じゃない、又々従兄妹か? いやいや、そも違うか……)
まあ、とにかく、割と交流の深い両家なのは分かった。
「ふうん……分かったよ。あたしは納得出来ない部分もあるけど、じっちゃんがそれで納得出来るなら、文句は言わないよ」
「じっちゃんが作った組織だ、湘南防衛機構サンシャインをどうするかは、じっちゃんが決めて当然だ」
ずずず
あたしは、最後にお味噌汁を喉に流し込んで、手を合わせた。
ぱちんっ
「ごちそーーさまでしたっ」
桜花がお茶を入れに、席を立つ。
「ただ、あたしは白浪の下で戦うのは無理だぜ? 多分、怪人より先に殴りかかって、あの眼鏡を割っちゃうと思う」
「白浪もあたしを、ピュア・シャイニングのままには、しないだろうしなっ」
食事をして、薄っすらと汗をかいた。
鼻の頭に、汗が滲む。
「白浪がサンシャインの長官になったら、即、あたしに引退勧告するだろうな。撫子ちゃんも性格的に、白浪の下では100%復帰はないはず」
「基本、B.I.P.が仕掛けて、サンシャインが受ける。こっちは受身だから、即応出来るのが桜花一人じゃあ、無理があるだろ?」
パタパタ
あたしはシャツを掴んで、服内に風を入れる。
「アースジャスティスからの応援が到着してから出撃してたら、その間にB.I.P.に、この辺りを蹂躙されるぞ? まずくないか?」
「それは大丈夫じゃ。B.I.P.は元々、一般市民を攻撃したり、町を破壊したりせんからのぅ。一時的に勢力圏を広げても、問題無いわい。……ご馳走様でしたじゃ」
ぱちんっ
じっちゃんも食べ終わり、手を合わせる。
すすす
桜花が、四つの湯呑みが載ったお盆を持って、戻って来た。
「いや、問題無いって……」
あたしはハンカチを出しながら、呆れる。
「だって昨日、あの女将軍が[昭和禁術 こんるり波]で、江の島を破壊しようと、してたじゃんよ」
昭和生まれって、おっかないよなぁ。
「いや、代々のカラー1将軍は、そんなことはせんよ。今代の彼女も、信用出来る人物じゃしなっ」
じっちゃんが断言した。
コトン
桜花が卓袱台に、湯呑みと、なぜか鳩サブレーを置いた。
「信用って……」
ちょいちょいっとハンカチで汗を拭きつつ、あたしはさらに呆れる。
脳内のクマも呆れて、ぷくぷくと太っている。
「信用出来るかどうかなんて、分かるもんかよっ」
「分かるっ! なんといっても、わしはプラチナ会員じゃからのっ! B.I.P.のことはっ、よーーく知っているのじゃ! はっはっはっはっはっはっ!」
ジャーーーン!
じっちゃんは、白衣の内ポケットからB.I.P.の会員証を取り出して、高々と掲げた。
「しかもっ、会員番号はNO.1じゃ! 一番じゃぞっ」
さらに、ドヤ笑顔で自慢する。
「たくっ。いくら会員だと、B.I.P.の情報が手に入るからって、わざわざ一番ランクの高い会員になる必要は、ないと思うけどなぁ」
あたしは、キラキラと輝く、無駄にゴージャスな会員証を見上げて[さらに、さらに]呆れる。
――じっちゃんは昔から、敵である、B.I.P.の協力会員なのだそうだ。
協力会員になった理由は、情報収集。
B.I.P.は昔から、協力会員に対して、会報誌を配布していたそうだ。
そして近年では、WEB上で活動報告をしたり、SNSで戦闘予告まで行っている。
なので、協力会員であれば、敵B.I.P.の動きが丸分かりになって、便利なのだ。
「[己を知り、敵を知れば百戦危うからず]じゃ。長官として、情報収集は徹底的にやらんといかんじゃろっ」
じっちゃんは、大事そうに、会員証をポケットに戻した。
「……おおっ、鳩サブレーとは、珍しいのう」
そして、じっちゃんは嬉しそうに、鳩サブレーを一つ、掴んだ。
「はいはい。でも、やたらとB.I.P.公式グッズを集めるのは、どうかと思うけどな」
あたしは、B.I.P.の亀のマークが入った湯呑みを持ち上げながら、小言を言う。
当然だが、みんなの湯呑みの中身はお茶で、あたしの湯呑みの中身は、イチゴ牛乳だ。
「ふふふ、私はこの亀さん、可愛らしくて、良いと思うけどなぁ……。はい、夏音ちゃん。遥さんからのお土産、鳩サブレーをどうぞ」
桜花が一枚、鳩サブレーを渡してきた。
「おいおいっ、あいつ、和菓子屋へのお土産に、鳩サブレーを持って来たのかよっ!? どんな神経してるんだっ!?」
ベリッ
そう言って[鎌倉銘菓 鳩サブレー]の袋を開ける。
「まあ、美味い、から、問題、無いだろ」
サクサクサク
和菓子職人のおっちゃんは、平然と鳩サブレーを食べている。
サクサクサク
「名物じゃしな」
サクサクサク
「鎌倉の定番だもんね」
じっちゃんも桜花も、美味しそうに食べている。
あたしも、頭から食べるか、尾っぽから食べるか少し悩んだ末に、サクサクに加わった。
サクサク……ぽりぽり……ずずず……
……鳩サブレーって、イチゴ牛乳と合うなぁ……
第27章「湘南防衛機構サンシャイン」
終了まで、あと1話
☆4話完結の短編もありますっ☆
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