27.1 潮風のエトランゼ1 〜夏音Side〜
階段を降りきると、そこには目が眩むほどの、明るく、ポップで、奇天烈で、クレイジーな空間が広がっていた。
升目状の床は、それぞれが原色のピンク、イエローやグリーン、ブルーでカラフルに彩られている。
前面の大型モニターの前にも、これまたカラフルで、ポップでファンキーな形のシートが並んでいる。
コンソールには、無意味で無駄に大きいレバーやスイッチが並び、見る者を呆れさせる。
隅にある戦闘機のコックピットのようなシートは、和菓子店もろ共、秘密基地を空に飛ばそうとした[浮遊要塞ドラゴンフライ(仮)]の名残だそうだ。
さらにその奥にある、マニピュレーター付きのシートは、和菓子店を頭部にした巨大ロボット[ドラゴンブレイズ(仮)]を作ろうとした名残らしい。
両方ともずいぶん昔に、ばっちゃんの一喝で頓挫したそうだ。
ナイスばっちゃんっ!
この部屋を一言で表せば[秘密基地 in 子供部屋]だろう。
これが湘南防衛機構サンシャインの、秘密基地中央作戦司令室だ。
「桜花はどこだ?」
ぐりんっ
桜花を探してぐるっと中央作戦司令室を見渡す……
「ん?」
と、ぽつんと一人、見知らぬ男が立っていた。
ウチやこの周辺の学校ではないが、どこかで見た記憶がある、制服を着ている。
多分、同い年くらいの年齢だろう。
細身で、縁無しの眼鏡をかけた、神経質そうな男だった。
手首には特徴的な、真っ白のゴツい腕時計を巻いている。
新手のGショックか?
……湘南防衛機構サンシャインは、無限にワラワラと戦闘員が湧いて出てくるB.I.P.のような、大所帯の組織ではない。
と、いうか、基本的に秘密基地の運営は、じっちゃん一人がやっている。
そこに時々、おっちゃんが手伝う程度の[家内制手工業的な正義の組織]なのだ。
なので、見知らぬ人間が秘密基地にいるなど、初めての経験だった。
縁無し眼鏡の男は、奇天烈なシートには座らずに、妙に冷たい目で、中央作戦司令室を、値踏みするように眺めている。
(こいつ……嫌な目をしているな……)
あたしの直感が、この男に対しては、気を許してはいけないと警報を出していた。
[がるるるる……]
脳内のクマも、警戒して牙を剥いている。
「……あんた、誰さ?」
あたしは軽く身構えながら、唐突に、ぶっきら棒に聞く。
「…………君こそ、誰だね?」
突然、声をかけたのに、縁無し眼鏡の男は、さして驚いた様子も見せずに、問い返してきた。
そして、それきり黙ったまま、冷たい目で、あたしまで値踏みするように眺めてくる。
どうも、自分から名乗る気はないようだ。
なら、あたしも自分から名乗らない。
「……ここは部外者が入って良い場所じゃないよ。桜花んちの客なら、そこの階段上って居間に行きな」
あたしは、天井を指差しながら言う。
「ふん。部外者は君の方だろ? 君こそ帰ったら、如何だね」
くい……
男は、縁無し眼鏡を直しながら、言う。
「あんだと? その眼鏡を叩き割られて、追い出されたいのか?」
スッ
あたしは、軽く重心を落とす。
「ほう。君に出来るかね?」
縁無し眼鏡男はそう言って、冷笑を浮かべる。
すっ
男は、軽く足を開いて、重心を体の真ん中に移した。
(こいつ……何か格闘技でも、しているのか?)
その動き、その雰囲気は、昨日戦った特別に強い戦闘員たちのモノと、共通しているように感じた。
あたしは、強く警戒して[敵]を観察する。
細面だが、よく見ると、首や肩などはしっかりとしている。
(あ……そうか、この制服は、鎌倉にある有名進学校のモノだ……)
あたしはふと、そんな余計なことにも気がついた。
確か、私立北鎌倉学園高校だ。
(でも、何だって北鎌倉の高校生がこんな所にいるんだ? 何者なんだ、こいつは)
相手の正体も、力量も分からない状態で、あたしは睨み合う。
バババッ!!
突然、眼鏡男が両腕を胸の前まで上げて、腕をバッテンのようにクロスさせる。
カチンッ
そして、真っ白のゴツい腕時計を触った。
キュイイィィィ……
「電圧OK!! 座標入力!! セットっ!! 転送準……」
眼鏡男が、意味不明の文言を唱え始めた……
シュン
と、その時、給湯室のドアが開いて、盆を持って桜花が出て来た。
す……
瞬間、縁無し眼鏡男は、意味不明の言葉を止めて、状態を戻した。
「あっ! 夏音ちゃん、いらっしゃいっ」
すすすすす
桜花が、どこかホッとした表情を浮かべて、静かに歩いて来た。
「遥さん、どうぞ」
そして、前衛芸術的なテーブルに、お茶と和菓子を置く。
「ありがとう、桜花君」
縁無し眼鏡男は、似合わない柔和な笑顔を浮かべると、座りにくそうに、ファンキーなシートに腰を下ろした。
笑顔もシートも、凄く似合わない。
「遥さん、こちらは幼馴染の青浜夏音さんです」
「現在、シャイニング・ブルーとして活動して頂いている、湘南防衛機構サンシャインの、大切なメンバーです」
桜花は上品な和の仕草で、あたしを紹介する。
遥さんと呼ばれた縁無し眼鏡の男は、あたしを一瞥したが、頭を下げることも無く、なにも口に出さない。
「あのぅ……な、夏音ちゃん、こちらは親戚の、白浪遥さんと仰る方で、アースジャスティスの長官を、なさってるの」
少し戸惑ったように、桜花が続けた。
「何!? ……へえぇぇ、あんたが噂の、アースジャスティスのね……」
それを聞いて、あたしの目が冷たく細まる。
(そうか、やっぱりあたしの勘は、間違ってなかったか。こいつは[敵]だ)
「ふーーん、なるほどねぇ、ちょっと前にアースジャスティスがやらかした作戦の話を聞いて、長官はどんなヤツなんだろうと気になっていたけど……」
アースジャスティスが最近やった作戦を思い出して、あたしの中で、怒りが込上げてくる。
「顔を見て納得したよ。思った通りの悪党面だなっ。鬼畜眼鏡野郎だ」
あたしは立ったまま、文字通り白浪を見下した。
「なっ、夏音ちゃん……」
桜花が慌てる。
「今日は[狂気のイエロー]は、連れて来てないのか? じゃあ、部下を使わずに直接あんたが、ここで人質でも取るつもりか? 誰だ? じっちゃんでも人質にするのか?」
矢継ぎ早にまくし立てると、あたしは完全に戦闘のポーズを取った。
「夏音ちゃんっ、ちょっと待って……」
桜花が慌てて、あたしの前に割って入る。
「君は、何を言っているのかね? 私は親族である龍巳家の皆さんに、戦勝の挨拶をしようと、訪れただけだよ」
くいっ
白浪はあたしを見ることすらせず、縁無し眼鏡を、人差し指で直しながら言った。
「それに桜花君、大事なことを言い忘れていますよ。私が、桜花君の許婚だってことをね」
白浪がドヤ顔で、爆弾発言をした。
「はぁ!? 許婚だぁ!?」
思わず、あたしは素っ頓狂な声を上げて、ファイティングポーズを解いてしまう。
あたしと桜花は親友だが、そんな話は初耳だ。
「さらに言えば、湘南防衛機構サンシャインの次期長官となる者だ。と、いうわけで、君も少しは身を弁えたら、どうかね?」
第27章「湘南防衛機構サンシャイン」
終了まで、あと8話




