25.5 シュラバ☆ダ☆バンバ5 SHULABA-DA-BAMBA5
静かな雨音を聴きながら、外のあじさいに目を向ける。
雨は先ほどよりも、少しだけ小降りになった。
青浜さんはこの雨の中、どこまで走っていったのだろう?
少なくとも、もう学校の中にはいないだろうなぁ……
湿ったコンクリートの上には、旧式量産型ヤンキーが放置されたままになっている。
ピクリ……ピクリ……
ソレをぼんやりと観察すると、時折、キモく動いているのが分かる。
「……ありがと……」
スッ……
ようやく芹園さんが泣き止んで、自分から離れてくれた。
ホッとした気持ちと同時に、おっぱいが離れてしまった寂しさを感じた。
主にマイ・サンが。
「……あの、芹園さん、今後、アレと二人きりにならないように、気をつけた方が良いよ?」
磐田君を指差しながら、忠告した。
「うん……これから気をつける。あのぅ、由比里くん、今日は助けてくれてありがとう。凄く……嬉しかった……」
きゅっ
そう言うと、僕の手を握って、潤んだ瞳を上目使いで向けてくる。
「あ……」
一瞬、僕はその瞳に、吸い込まれそうになる……
「……うっ……み……やこ……」
その時、床に放置されていた磐田君の意識が戻ったようで、芹園さんの名前を呟いた。
「みや・こ、オ・レの方が……」
ゆらり……
ゆっくりと、芹園さんに手を伸ばす……
イラッ
一転、芹園さんの潤んだ瞳に、怒りの炎が浮かび、キッ! と釣り上がった。
「しつこいっ! この旧式量産型スルメイカっ!」
ツカツカツカ
芹園さんは、倒れている磐田君に歩み寄る。
「えいっ!!」
ドガッ!
倒れている磐田君のお腹目がけて、容赦なく、トウキックを放った。
(おいおいっ、芹園さんっ)
いよいよ[らしさ]を発揮した芹園さんを見て、僕は苦笑いを浮かべる。
「うぐっ!? …………」
ビクリッ!
上履きが腹に喰い込んだ磐田君は、また白目を剥いて体を揺らした。
くたぁ~~
そして、体を弛緩させた。
「本っ当ぅに最低っ! 最悪っ! キモいっ! 屑っ! ヤリイカっ……」
芹園さんは、そう言いながら再度、蹴ろうとして、足を後ろに振り上げる……
……ジョロロロローー…………
「………………」
「………………」
その時、磐田君から不穏な水音が聞こえて、僕らは蝦蟇石のように固まった……
ジョンジロロロロロゥゥーー……
見る見る間に、渡り廊下のコンクリート上に、吹き込んだ雨とは別の、水溜りが形成されていった……
「………………うわぁぁぁああぁぁっ!! 汚ったねぇぇぇぇっ!!!」
「………………きゃあああぁぁぁぁぁあぁぁぁーーーーーーー!!!」
あじさい咲く渡り廊下に、僕らの悲鳴が響き渡る。
ジョロロロロローー……
「やだぁぁ!! もう捨てるっ!! この上履きは捨てるっ!! 地獄の豪雨で流し捨てるっ!!」
ポイッ
芹園さんはまた半泣きになって、旧式お漏らし君から飛び退くと、上履きを脱いで雨の中に投げ捨てた。
べちゃり……
飛んでいった上履きは、地面に落ちると、両方とも裏を向いた。
(あ、裏か。なら、明日も雨かなぁ?)
雨に濡れる上履きを見ながら、僕は場違いな感想を抱いた……
ジョロロロロローー……
……てか、どんだけ出るんだよ? 磐田君。
―――――
――
―
その後、SIMカードが入っているため、仕方なく破壊され、水没したスマホを回収した。
そして、靴下の芹園さんを、昇降口まで送った。
芹園さんは、僕の壊れたスマホを見て、何度も[わたしが弁償する]と言ってきた。
が、彼女にソレを求めるのは、完全な筋違いなので、キッパリと断った。
弁償する責任があるのは、あのお漏らしサルだけだ。
芹園さんは一緒に帰りたがったが、[これからバイトだから]と言って、昇降口で別れ、一人駅へと急いだ。
これは言い訳ではなく、本当にアジトに行かなくてはならない、時間になっていたからだ。
小動高校前駅で電車に飛び乗り、江ノ島駅で降りる。
傘を差して、すばな通りを足早に歩いた。
雨の江ノ島に上陸して、岩本楼の裏の通りに向かう……
すると、本当に用具置き場があり、中には偽のロッカー。
ロッカーを開けると、アジトへの扉があった。
暗証番号を入力して、アジトに入る。
神城岬先生から教えられた順路で廊下を歩く……
と、すぐに[怪人ナポリタン御一行様]と、紙のプレートが張ってあるドアを見つけた。
[旅館かよっ!]と、一人突っ込みながらドアを開ける。
と、その部屋は畳の四畳半で、隅に卓袱台と、座布団が置いてあった。
[宿直室かよっ!]と、一人突っ込みながら室内へ。
[地デジ非対応なので映りません]と、張り紙がされた、コイン式のブラウン管TVを発見。
[経営難の旅館かよっ!]と、一人突っ込みながら、座布団に座る。
卓袱台の上には急須、湯呑み、ポット一式。
おまけに、お茶菓子の海苔羊羹。
その隣には、有線のダイヤル式黒電話もあった。
[昭和レトロかよっ!]と、一人突っ込みながら、部屋の探索を始める。
壁には押入れがあり、試しに開けてみる……
と、中には普通に布団と[ドラ○もん]のぬいぐるみが入っていた。
[小ネタを仕込むなよっ!]と、一人突っ込みながら、さらに部屋の探索を続ける。
壁には、ハンガーで吊るされた戦闘員用のパワースーツ。
その下には、イタリアン・カーニバルマスクが置いてあった。
[着用して、連絡があるまでお待ち下さい(笑)]とのメモが、添えられていた。
[業務連絡に(笑)を使うなっ!]と、一人突っ込みながら、スーツを着る。
その後、お茶を入れて、置いてある、ちょっと古いジャンプを読もうと手を伸ばすと、ダイヤル式黒電話が鳴った。
出ると、相手はDr.ヘッドランドで、総合研究室に来て検査を受けるよう、指示をされた。
最後に[1人突っ込んでるとかっ(笑)]と一言添えて、Dr.ヘッドランドは電話を切った。
もう突っ込む気力をなくした僕は、黙って総合研究室へ。
カーニバルマスクを着けて精密検査を受けたのだが、僕は寝転がっているだけで、やることはビタイチない。
すると自然に、夕方の出来事を、繰り返し思い出してしまう。
喧嘩のこと。
芹園さんの涙と、おっぱいの柔らかさ。
青浜さんの上履きの裏に、スカートの中の白いおパンツ。
白い歯を見せて笑う青浜さん。
雨の中を走り去る、青浜さんの背中……
[なぜ、青浜さんは雨の中へ、走り出したのだろうか?]
特にその疑問が、僕を捕らえて、放さなかった。
寝転がって考えていると、ほどなく検査は終わった。
[明日は、夕方から戦闘訓練がある]と伝えられて、全て終了。
帰路についたのだが、その道のりでも、疑問が僕の頭を、悩ませ続けた。
[なぜ、青浜さんは雨の中へ、走り出したのだろうか?]
帰宅しても、ベッドに入ってからも、輾転反側しながら、そればかりを考えていた……
……ちなみに、渡り廊下に放置したお漏らし君が無事、帰宅したかどうかは、ビタイチ考えなかった……
第25章「あじさい咲く渡り廊下」終了
【予告】
第26章「私と私」(3話)から、しばし夏音Sideになります。




