25.1 シュラバ☆ダ☆バンバ1 SHULABA-DA-BAMBA1
「こんなに早くては、神城岬教諭も、アジトに到着してないのではないのか?」
低身長の一宮君が差す傘(命名:さかき傘)に、窮屈そうに入る椎名君が聞いてくる。
「あー、今日は時間がかかるから、先に部下の人と検査を始めておけと言われたよ」
僕は、自前の折り畳み傘を差して、坂道を降りながら答える。
風はなく、細かい雨がしとしとと降っていた。
「大変で御座るなぁ。拙者共もつき添えれば、良いので御座るが……」
「時間はかかるけど、ただの検査だもん、平気だよ」
蒸し暑さを感じ、無意識にシャツの襟首を弄る。
「それに、さっきも言ったけど、これからはアジトの入り口が違うから」
「守秘義務で、その場所は二人に明かせないし。先生からも[行き帰りを別にしろ]って注意されたよ。だから、むしろ一人で行かないと」
「で、御座るか……」
「微妙に、しんみりするな……」
「いやいや、別にお別れって訳じゃないんだし」
「むしろ今後のバイトでは、僕の専用個室に、二人が来るんだから。逆に一緒にいる時間が増えると思うよ?」
坂を下り終え、踏切の傍に立つ。
「じゃあ、僕はアジトに行くから、ここで」
シュタッ
相合傘をする友人二人に、軽く手を挙げる。
「「また明日」」
男相合傘の二人も、シンクロするように手を振り返した。
一宮君は怪我をしている左手を振ってしまい、少し痛そうに、顔を顰めた……
踏切で別れた僕は、一人、小動高校前駅へと向かう。
ホームに入り、しばし、雨で霞む湘南海岸を眺める。
ガタンッ・タン……タン……
すぐに藤沢行きの電車がやって来た。
やって来たのは、1980年代初めに製造された古い電車だが、江ノ電ではまだ、このタイプの車両が、一番多く使われている。
プシュゥゥーー
ドアが開き、すぐに乗り込む。
チラリ
その時、遠くの路上に、こちらを伺う、男同士の相合傘が見えた……
すぐに電車は走り出す。
古ぼけた座席に座り、窓に張りついた雨粒を、見るとはなく眺める。
程なくして、電車は江ノ島駅に到着した。
電車からホームに降りると、すれ違い駅のため、すぐに鎌倉行きと藤沢行きの電車が出発する。
僕は改札には向かわず、駅内の踏切を渡って、反対側の鎌倉行きのホームへ。
十数分後、やって来た鎌倉行きの江ノ電に乗り込む。
―――――
―――
―
そして数分後……
「ふっふっふっふっふっ、戻って参りましたよっ、小動高校にっ!」
小動高校前駅近く、坂の下の踏切そばで笑う。
ここは、数十分前に、友人二人と別れた場所だ。
小動高校に舞い戻った理由は、昨日から学校の駐輪場に放置している自転車を取りに来た……訳ではない。
雨なので、自転車の回収など、後日だ。
「ズバリ! これは邪魔な友人を撒いて、青浜さんと二人きりになる作戦さっ!」
ググッン!
気合を入れ、傘を持たない方の拳を、天に突き上げる。
バラバラバラ……
突き上げた拳が傘の縁に当たって、水滴が脇の下まで流れ込む。
「……ちめて」
……気合に水が差された。
「……まぁ、いいや。早く行こう」
気を取り直し、下りてくる生徒たちとは反対に、坂を上る。
友人二人には、早くから検査が始まると嘘をついた。
実際は、アジトでの検査は、だいぶ後に行われる予定なのだ。
(神城岬先生……Dr.ヘッドランドが、自分が立ち会わない検査など、するはずが無いよね。性格的にさ)
まだ短いつき合いだけど、あの人は良くも悪くも、研究者だ。
(さて、青浜さんはまだ、校内にいるはずだが……)
校門を潜りながら、雨に濡れる校舎を見上げる。
青浜さんが所属する女子サッカー部は、雨になると小一時間ほど、屋内で筋トレをして練習を終えるのを、僕は知っている。
青浜さんも以前[ぶっちゃけ、雨の日は集まるだけ]と言っていた。
僕の計算ではそろそろ、部活終わりの青浜さんと、エンカウントするはずなのだ。
(でへへっ。どんなお話しをしようかなぁ……)
青浜さんの好きなものは、何だっけ?
やっぱりサッカーかな?
食べ物の好みは、何だろう?
学食では大盛りの丼物や、大盛り定食、特盛りラーメンを食べてるのを、見かけたことがあるが……
まあ、直接、聞けばいいや。
(そうそう、前に青浜さんから[傘を忘れて部活の後輩に借りた話]を聞いたことがあったなぁ)
青浜さん、今日は、傘を持って来たのだろうか?
もし忘れたのなら、相合傘で一緒に帰れるかもしれない。
青浜さんは、学校から割りと近い腰越に住んでいるので、いつも徒歩だ。
なら、相合傘で腰越まで送ってあげようっ。
……うへへっ、楽しみだなぁ……でへっ♡
雑多に考えを巡らせて、桃色怪気炎を振りまきながら、昇降口で上履きを履く。
(ええと……確か、部室では筋トレ出来ないので、特別教室付近の廊下がやるって言っていたなぁ……)
頭に校内の地図を思い浮かべると、早速、特別教室に足を向けた……
―――――
―――
―
……到着。
が、特別教室前の廊下には人影はなく、ひっそりと静まり返っていた。
階段を上がり、上階も覗くが、そこにも人影はない。
(ううむ……部室にいるのかな?)
体育会系の部室棟に向かう。
体育会系部室棟はグランド脇にあるので、一旦、昇降口に戻って靴を履く。
傘を差して、人気のないグランドの脇を歩く。
……部室棟に到着。
何となく、各部室の前を、忍び足で歩く。
いくつかの部室には、人がいる気配が感じられた。
……女子サッカー部の部室前に、到着。
が、ドアの向こうに側に、人の気配は感じられない。
(むうぅ、ノックする訳にもいかないし、女子部のドアに張りついて、聞き耳を立てる訳にもいかないしなぁ……)
そんな姿を、誰かに見られたら、終わる。
部室棟から少し離れて、しばし観察するが、女子サッカー部はおろか、他の部室も人の出入がない。
(あんれぇえぇ? 困ったなぁ……)
仕方なく部室棟を見限って、また昇降口に戻って上履きを履く。
(校内を探した方が良さそうだ……)
まだいるはずだと信じて、校内を隈なく探すことにした。
自分たちの教室を始め、他クラス、他学年、職員室や保健室なんかの前も、歩いてみる。
ちらほらと生徒は見かけるが、愛しい人の姿は、どこにもない。
(はぁ~、やっぱりもう帰っちゃったのかなぁ……)
作戦失敗のムードが漂い、肩を落として歩く。
それでも諦め切れずに、ウロウロする。
隣の校舎へ行くために、一階の渡り廊下に向かう。
今の季節は、渡り廊下の横に、あじさいが咲き誇ってる、外廊下だ。
渡り廊下の、開放されたままのドアを通る……
「!?!?」
ドアを通り抜けると、渡り廊下の中央付近に、二つの人影があるのに気がつく。
(あっ! あれはっ!?)
二つの人影の正体は、芹園さんと、クラスの旧式ヤンキー、磐田君だった。
渡り廊下の中央で、二人はなにか話しをしていた。
ササッ……
意外な組み合わせに、なぜか、このまま通ってはいけない気持ちになり、思わずドアの裏に、身を隠してしまう。
「……………………チラリ」
数秒、ドアの裏に張りついたまま、顔だけ出して、渡り廊下を覗く。
「――なんでっ――そんなことっ――」
「――なんでって――どうでもっ――」
なにやら二人は話し込んでいる。
幸い、僕には気がつかなかったようだ。
ホッとして、顔を引っ込める。
(…………はぁ……何してるんだよ、僕は)
隠れながら、自分自身の行動に呆れる。
(でもまあ、二人とも、最近妙に縁があるから、顔を合わせづらいんだよね)
それに、この組み合わせは予想外すぎて、ちょっとパニックになってしまったのだ。
ドアの裏に張りついて、そんな事を考えていると、渡り廊下の屋根を叩く雨音に混じって、二人の会話が耳に入ってきた……
「――なあ、都子っ、何で急にデートはキャンセルなんだよっ!? 理由は何なんだよっ?」
「――別に何でもいいでしょ! それと名前、呼び捨てにしないでくれない? わたし達、別に付き合っている訳でもないんだからっ」
第25章「あじさい咲く渡り廊下」
終了まで、あと4話




